門の維持に意識を張りつめていると、背後とは別の方向から、ゆっくりとした気配が近づいてくるのを感じた。鋭さはない。だが、はっきりと“こちらを見ている”感覚がある。俺は出力を落とさないよう注意しながら、門の向こうへと向かう。
ここで、門の維持を緩めないように、ゆっくりと構える。
「……誰だ」
そう声をかけても、すぐに敵意が返ってくることはなかった。代わりに返ってきたのは、驚くほど落ち着いた気配だった。
「安心なさい。あなたの邪魔をするつもりはないわ」
姿を現したその女性は、眼魔特有の異質さを纏っているはずなのに、不思議と空気を荒らさなかった。距離を詰めすぎることもなく、こちらの集中を乱さない位置で立ち止まっている。それだけで、ただ者ではないと分かる。
「……用件は?」
「用件というほどのものではないの。ただ、少し興味を持っただけ」
俺は警戒を解かないまま、門に意識を戻し続ける。今は会話に気を取られる余裕はない。それでも、彼女の声は不思議と耳に残った。
「人が、自分から残って道を支える選択をする。その姿は、あまり見たことがなかったから」
「……見物なら、よそでやってくれ」
ぶっきらぼうに返したが、彼女は気を悪くした様子も見せなかった。
「ええ。だからこうして、距離を保っているでしょう?」
その言葉に、内心で小さく舌打ちする。確かにその通りだ。威圧も、試すような圧もない。ただ、静かに観察しているだけ。眼魔に対して抱いてきた印象とは、あまりにも違っていた。
「お前……眼魔だよな」
「そう呼ばれている存在ではあるわ。でも、すべてが同じだと思わないでほしいの」
その言い方に、胸の奥で小さな引っかかりが生まれる。アラン、キュビちゃん――これまで出会ってきた“例外”の顔が、自然と浮かんだ。
「……俺は、まだ判断しかねてる」
「それでいいわ。答えを急ぐ必要はないもの」
彼女はそう言って、わずかに視線を門へ向けた。
「今は、その選択を続けなさい。あなたがここに留まる意味は、もう向こう側にも伝わっているわ」
「……待て。名乗らないつもりか」
呼び止めると、彼女は一瞬だけ振り返った。
「今は、まだ。その必要がないから」
柔らかな声だけを残し、気配は静かに遠ざかっていく。俺は再び門へと意識を集中させながら、胸の内で確信していた。この出会いは、決して一度きりで終わるものじゃない。警戒は解けない。それでも――敵だと決めつける理由も、もうなくなっていた。
「葉殿?」
「いや、なんでもないです」
聞こえた声に振り返る。