門を維持し続けて、どれほどの時間が経ったのか分からない。意識を集中させるほど、身体の感覚が少しずつ削られていくのがはっきりと分かる。腕が重く、指先の感覚が曖昧になり、視界の端がにじむ。それでも出力だけは手放せない。ここで崩せば、向こうへ行った全員が戻れなくなる。
「……まだ、保てる……」
喉から絞り出すように呟いた瞬間、門の奥で空間が大きく揺れた。光が乱れ、重なる気配が一気に押し寄せてくる。次の瞬間、誰かが転がり出るようにこちら側へ戻ってきた。
「葉さん!」
タケルの声が聞こえたところで、限界が来た。膝が折れ、出力が大きく揺らぐ。それでも門は閉じない。必死に繋ぎ止めたまま、俺は荒い息で顔を上げた。
「……戻って、きたのか……」
「無茶しすぎだ!」
タケルが駆け寄り、肩を支えてくれる。その向こうには、マコトの姿もあった。無事で戻れた安堵と、まだ終わっていない緊張が、場に入り混じる。
だが――その奥に、あり得ないはずの影が立っていた。
「……アラン?」
一瞬、誰も言葉を発せなかった。御成もアカリも、信じられないものを見るように固まっている。マコトでさえ、視線を外すことなく、アランを見つめていた。
アランは俯いたまま、こちらを見ようとしない。肩がわずかに揺れている。あの男が、こんな風に感情を隠しきれず立っているのを、俺は初めて見た。
「……どういう、ことだ」
問いかけた俺の声に、アランは反応しない。その代わり、マコトが一歩前に出た。
「葉……聞いてくれ」
その声音は重く、迷いがなかった。
「アランは、兄のアデルに裏切られた」
「裏切られた……?」
「アデルは、父である大帝を殺した罪を、アランになすりつけた。事実じゃない。それでも、眼魔世界ではアデルの言葉が“真実”として通った」
タケルが息を呑む音が聞こえる。
「つまり……」
「アランは、追放同然だ。眼魔世界に、もう居場所がない」
その言葉を聞いても、アランは顔を上げない。ただ拳を強く握りしめている。その姿が、何より答えだった。
「……信じてたんだ。兄を」
アランが、かすれた声で呟いた。それだけだった。それ以上、言葉が続かない。
胸の奥に、重たいものが落ちる。敵だった相手が、今は行き場を失った一人の存在として、ここに立っている。その事実が、さっきまでの疲労とは別の重さでのしかかってきた。
門の光が、不安定さを訴えるように大きく揺れる。俺は歯を食いしばり、最後の力で出力を繋ぎ止めながら思った。事態は深刻で、戦いは進んでしまったのだと。
これは、世界そのものの話になる――そんな予感が、はっきりと胸に残っていた。