サクナヒメの驚愕する声が風を切る。蒸気バイクが轟音と共に加速し、街路樹をかすめるように疾走する。ココロワヒメの指示通りに角を曲がるたび、エンジンが歯車で編まれた咆哮を上げた。
「装置の反応はこの先!」
ココロワヒメの声がヘルメット内部に直接響く。視界の隅に表示された三次元ホログラムが目的地を示す。廃工場跡地の中央で紫紺の稲妻が渦巻いていた。
「あそこだ!」
バイクが砂利敷きの駐車場へ滑り込む。停止と同時に俺の背筋に悪寒が走った。工場棟の屋上に開いた異形の亀裂──まるで宇宙を切り裂いたような巨大な“門”が天蓋を覆いつつあった。
「あれが、あの装置によって生み出された何かなのか」
「そのようです」
ココロワヒメの声音が硬くなる。
「これをこのまま放っておくと、ヤバいのか」
「えぇ、葉様、バイクを変形させてください」
「「えっ」」
俺とサクナヒメの喉から間抜けな音が出るより早く──バイクが唸りを上げた。
ギシギシッ!!
メタルフレームが軋みながら反転。
後輪が蒸気ノズルに変形し、蒸気圧で垂直に屹立する。
ハンドルが砲身に巻きつき蛇腹状の砲筒へ。
フロントフォークが二股に割れて固定具に。
「・・・ココロワ、これは一体」
「・・・実はこういうの、葉さんから聞いた時から、興味がありましたから」
ココロワの声はどこか楽しそうに聞こえたが、目の前で進行する光景は異常だ。
ヘッドライトが砲口へ。
シートがリフトアップして照準装置に変形。
俺が跨ったまま巨大な大砲に取り込まれていく──!
「うわわわっ!?」
「落ち着いて! 安定モード発動!」
ガチャンッ! シュウゥゥゥ……!
腰部に補助脚が生え大地に突き刺さる。
「葉様、カウントダウン、入ります。レバーを」
「あぁ!もぅ!」『ダイカイガン!オオメダマ!ココロワヒメ!オメガドライブ!』
砲口の奥で妖しい光が脈動を始めた。シャーマンドライバーに挿入したココロワヒメ眼魂が蒼く発光──
ドクン……
ドクンッ……
「チャージ率85%……100%到達!発射ぁぁ!!」
そうして、ココロワヒメはかなり興奮した叫びに合わせて、俺は引き金を引く。すると、砲口から溢れ出るのは巨大なレーザー。そのレーザーは、大地を揺らしながらも、一直線に門へ向かう。
そして、門に直撃した瞬間。
「爆発!?」
そう、その言葉がピッタリだ。門は破壊されると共に爆発。その爆発の影響で空もまた吹き荒れる。
「「…………………………」」
葉とサクナヒメは言葉を失った。
目の前で歓声を上げるココロワヒメとは対照的に、二人の間には重い沈黙が流れていた。
サクナヒメは恐る恐る葉の袖を引いた。
「なぁ……葉よ。あの娘……本当にワシの知ってるココロワヒメなのか?」
「うん……俺の知ってるココロワヒメさんだと思うんだけど……」
いつも冷静沈着で、どんな時でも穏やかな微笑みを絶やさなかった叡智の女神。それが今はどうだ。
両手を高く掲げ、「ふぃ~っ! やりましたねぇ! まさに科学の勝利ですよぉ~!」と子供のように飛び跳ねている。
しかも。
「ひょわーっ! このレーザー光線! コレですよコレ! 私がデザインしたオオメダマキャノンの威力はぁ!」
「…………」
葉は自分の額に手を当てた。
(やばい。俺、ココロワヒメさんの趣味がこういう方面だったなんて全く知らなかった……)
しかも、そのハイテンションっぷりは。
そうして、呆然としている間にも。
「とにかく、今は装置を作った奴を」
そう言っていると、感じた気配。
その気配の方を見ると、そこには以前のスペクターと似た姿をした人物がいた。
「えっ、俺と同じドライバーの」
そう、向こうは驚きの声を出していた。