その沈黙を破ったのは、風でも鳥の声でもなかった。背中を撫でるように流れていた空気が、唐突に“重く”なる。澄んでいたはずの青空の下で、嫌な気配だけが浮き上がってきた。
「……来たな」
俺が呟くと、アランもすぐに察したらしい。さっきまで空を見ていた視線が、地平の向こうへと鋭く向けられる。
「追手か」
「多分な。しかも、かなり執念深い」
次の瞬間、何もなかったはずの空間が歪んだ。空気が裂けるような音と共に、黒い影が地面へと降り立つ。
「これはこれは……」
聞き覚えのある、ねっとりとした声。
「随分と穏やかな時間をお過ごしのようですね、アラン様」
現れたのはジャベルだった。恭しく頭を下げる仕草とは裏腹に、その瞳には一切の敬意がない。
「……ジャベル」
アランの声に、嫌悪が滲む。
「新たな大帝の御意向です」
ジャベルは楽しげに肩をすくめた。
「反逆の疑いをかけられた王族など、生かしておく理由はない、と」
「新たな……大帝だと?」
一瞬、アランの表情が揺らぐ。その反応を見て、ジャベルは満足そうに笑った。
「ええ。もはや、アデル様の判断を待つ必要もありません。眼魔世界は、次の段階へ進んだのです」
俺は一歩前に出た。
「つまり、あんたはその命令を実行しに来たってわけか」
「その通り」
ジャベルの視線が俺に向く。
「ついでに、邪魔な人間も排除できる。実に効率的でしょう?」
次の瞬間、空気が一変した。禍々しい力が噴き上がり、ジャベルの身体が黒く歪む。
「お役目を果たさせていただきますよ……アラン様」
闇が弾け、眼魔ウルティマの姿が顕現する。圧倒的な威圧感に、地面が悲鳴を上げた。
「……来るぞ」
俺はガンガンタマフを構え、アランの横に並ぶ。
「今は敵味方の話してる場合じゃねぇ。あいつに始末されるのは、困る」
一瞬、アランがこちらを見る。
「……君は、本当に変わった人間だな」
「褒め言葉として受け取っとく」
アランは小さく息を吐き、生身の身体を前へ出した。
「借りを作るのは癪だが……今は背中を預ける」
「了解だ」
青空の下、俺たちは並び立つ。
ジャベル――眼魔ウルティマの圧が、はっきりとこちらへ向けられる。その瞬間、迷いは消えた。言葉を交わす必要もない。俺とアランは、同時に一歩前へ出る。
「……行くぞ」
俺は腰元に手を伸ばし、シャーマンドライバーを正面へ引き寄せた。掌に収まる眼魂の重みが、今はやけに頼もしい。
眼魂を装填し、叫ぶ。
『カイガン!シャーマン!宿すは神!守りしは魂!』
そう、変身を終えると共にアランもまた既にネクロムに変身していた。
「君と並ぶとは、皮肉なものだ」
「あぁ、だから、一緒に戦うぞ」
だが、その声には、もう迷いはなかった。