先に動いたのは、ジャベルだった。
巨体が地面を踏み砕き、引き絞られた拳から灼熱の火球が放たれる。
「来る!」
叫ぶと同時に、俺は地を蹴った。正面から受ける選択肢は最初からない。身体を低く滑らせ、火球の軌道から一歩ずらす。背後で爆発音が響き、衝撃が背中を叩いたが、振り返る余裕はなかった。
空中で体をひねり、着地と同時に駆ける。一直線じゃない。弧を描くように、死角を狙う。軽さを生かして間合いへ潜り込み、刃を振るう。
「はぁっ!」
硬い手応え。火花が散る。だが、ジャベルは一歩も退かない。
「浅い!」
低い声と同時に、反撃の腕が振るわれる。直撃を避けるため、俺は後方へ跳び、空中で姿勢を立て直した。
「……やっぱり、簡単にはいかねぇな」
その瞬間、正面から圧がかかる。
重い衝突音。俺の視界の端で、もう一人が真正面から拳を受け止めていた。装甲同士がぶつかり合い、火花と衝撃波が弾ける。
「無茶だぞ!」
「退く理由がない」
短いやり取りの間にも、連続打撃が叩き込まれる。拳の一発一発が重く、大地が悲鳴を上げる。それでも、前に立つ背中は揺るがない。
俺は、その背後を駆ける。
前が堅いなら、横と後ろだ。
「今だ!」
一瞬の隙。踏み込み、斬り上げる。さらに回り込み、関節部を狙って斬撃を重ねる。
「ぐっ……!」
確実に効いている。だが、決定打にはならない。
ジャベルは低く唸り、両腕を大きく振り上げた。
「まとめて消えろ!」
拳から放たれるのは、火球とエネルギー波の連射。逃げ場を潰すような広範囲攻撃だ。
「散れ!」
俺は横へ跳び、壁を蹴ってさらに上へ。空中で身体を捻り、光の隙間をすり抜ける。下では、もう一人が両腕を交差させ、正面から衝撃を受け止めていた。
爆煙の中でも、その姿は倒れない。防御に徹した立ち回りが、確実に時間を稼いでいる。
「無駄だ!」
ジャベルは踏み込み、連続で拳を叩きつける。重く、速く、容赦がない。
俺は走る。
攻撃の合間、わずかな間を縫うように距離を詰める。直線じゃない。跳び、滑り、地面を蹴り、背後へ。
「はぁぁっ!」
刃を振るう。脚、背中、装甲の継ぎ目。狙い続けるが、致命傷には届かない。
「……ちっ」
息が上がる。
二人で攻めているはずなのに、押し切れない。攻撃力と防御力、その両方が、こちらの想定を超えている。
「……長引くのはまずいな」
低い声が聞こえる。
「ああ。このままじゃ、削り合いだ」
ジャベルは悠然と構え直し、こちらを見下ろしてきた。拳には赤黒い光が集まり、嫌な予感が背筋を走る。
「素晴らしい連携だが――」
力が集中し、空気が震える。
「それでも、力が足りない!」
放たれた一撃は、これまでとは比べ物にならない。衝撃波が地面を割り、周囲を薙ぎ払う。
俺は必死に跳び、着地と同時に転がる。正面では、再び防御に徹する影が衝撃を受け止めていたが、その身体がわずかに沈んだ。
(消耗が溜まってきてる……)
機動力で翻弄し、堅さで受け止める。役割は噛み合っている。それでも、決定的な一手がない。
「葉!」
呼ばれる声。
「このままじゃ、押し切られる!」
「分かってる!」
息を整えながら、俺はジャベルを睨みつけた。
削れてはいる。確実に。だが、“倒す”には足りない。
それでも、退くつもりはなかった。