ジャベルの拳が地面を叩き割った瞬間、爆風が遅れて押し寄せ、身体が宙に浮いた。着地の衝撃を殺しきれず、俺は転がりながら距離を取る。視界の端で、正面に立つアランが衝撃を受け止めきれず、わずかに後退するのが見えた。その足取りは確かだが、重い。守り続けてきた分、消耗が隠せなくなっている。
「どうしたんです、アラン様。先ほどまでの余裕は?」
ジャベルの声には、愉悦が混じっている。こちらの限界を、楽しむように観察しているのが分かる。
(このままじゃ、押し切られる)
頭では分かっていた。俺がいくら走り、斬り、避け続けても、決定打にならない。アランが正面で受け止め続けても、いつかは崩れる。削り合いの先にあるのは、消耗しきった敗北だ。
俺は息を整えながら、腰元に手を伸ばした。指先に触れたのは、もう一つの眼魂。白虎魂とは対を成す、防御の象徴。
「……アラン」
呼びかけると、アランは一瞬だけこちらを見る。その視線に、まだ迷いが残っているのが分かった。裏切り、喪失、そして今なお続く追撃。簡単に整理できる心境じゃない。
俺は駆け寄り、距離を詰める。その手に、玄武眼魂を差し出した。
「守りを、任せたい」
言葉はそれだけで十分だった。説明も、理屈もいらない。今必要なのは、役割の再定義だ。
アランは眼魂を見つめ、ほんの一瞬だけ視線を落とした。
「……私に、それを託すのか」
迷いの滲んだ声。だが、次の瞬間、ジャベルの攻撃が再び迫る。
「感傷に浸る時間はありませんよ」
地を蹴る音。巨大な拳が迫る。
アランは顔を上げ、短く息を吐いた。
「……了解した」
玄武眼魂を受け取り、構えに入る。その動作には、もう躊躇はなかった。俺も同時に、白虎魂を手に取る。
位置を変える。アランが前へ、俺は斜め後方へ。自然と陣形が組み上がる。守る者と、切り込む者。
「無駄な足掻きだ!」
ジャベルが踏み込み、拳を振るう。その瞬間だった。
『カイガン!四聖獣!白虎!鳳凰!青龍!玄武!4つの力を一つに!』
それと共に、俺は白虎魂に、そして、アランもまた変わる。
静かに構えた瞬間、周囲の空気が一段重くなる。メガウルオウダーに装填された眼魂が淡く発光すると、彼の足元から緑色の液体が滲み出した。それは血や泥ではない。粘性を帯びたエネルギーが、意志を持つかのように流れ、彼の脚部を這い上がっていく。装甲の表面を覆うその液体は、完全に固まることなく、絶えずゆっくりと脈動していた。
変身の進行と共に、液体は層を成し、装甲と装甲の隙間を満たしていく。硬質な外殻と、流動する内層が重なり合い、まるで「壊れない水」が身体を包み込んでいるようだ。胸部から前腕にかけて、緑の光が薄く広がり、呼吸に合わせて波紋のように揺れる。防御の象徴である玄武は、固定された盾ではなく、衝撃を受け止め、受け流し、飲み込むための構造として顕現していた。
アランの前腕から、緑色の液体が溢れ出す。それは波打ちながら凝縮し、盾の形を成した。攻撃が直撃し、衝撃が走る。だが、盾は崩れない。ただ、静かに揺れるだけだ。
「なに……?」
ジャベルの声に、わずかな戸惑いが混じる。
今だ。
俺は地を蹴った。白虎の力が身体を押し出す。視界が流れ、風が遅れる。高速移動。残像が生まれ、ジャベルの視線が追いつかない。
背後へ回り込み、拳を叩き込む。重さはない。だが速い。連続で、間を置かずに打つ。装甲の継ぎ目へ、的確に。
「ちっ……!」
反撃の腕が振るわれるが、既にそこにはいない。再び走る。跳ぶ。回る。白虎は、止まらない。
正面では、アランが一歩も退かずに立っている。盾が攻撃を受け止め、そのたびに緑の波紋が広がる。受け止めることで、時間が生まれる。その時間を、俺が奪い取る。
「なるほど……役割分担、というわけですか」
ジャベルは笑うが、その余裕は確実に削られていた。攻撃は通らず、背後からの打撃が蓄積していく。
完全じゃない。四聖獣は揃っていない。それでも、確かに流れは変わった。
俺は走りながら、思う。
白虎と玄武。攻めと守り。未完成でも、二人なら前に進める。
青空の下、戦況は静かに、しかし確実に逆転へ向かい始めていた