門を維持するという言葉は簡単だ。立って、力を流して、繋ぎ止める。それだけ聞けば、やることは単純に見える。だが実際には、身体より先に意識が削られる。ほんの一瞬、考えが逸れただけで、空間が軋むのが分かる。まばたき一つで、門は小さくなる。呼吸が浅くなれば、向こう側の圧が一気に流れ込んでくる。俺は今、そういう綱渡りの上に立っていた。
同時に警戒しなければならないのは、向こう側から来るだろう敵の対処だ。
前回の1件でも謎の人物の接触があるので、決して油断してはいけない状況なのは理解している。
「それにしても、まさか私の不知火を基にこんなのを作るなんて、ココロワヒメさんって、やっぱり凄いわねぇ」
「これは、絡繰りというのですかねぇ」
そうして、事前に作った絡繰り兵とそれを持つ不知火を見て、感心していた。
「まぁ、ガラクタで作ったので、あまり性能はありませんが、時間稼ぎは出来るので」
「今度はもう少し、勉強させて貰って良いかしら?」
拠点は静かだった。静かすぎると言っていい。人がいるのに、音が足りない。タケルもマコトも、アランもいない。その事実が、空気を薄くしている。残っているのは、俺とサクナヒメ、ココロワヒメとキュビちゃん。それぞれがそれぞれの距離感で、門を見ていた。
「……退屈じゃのう」
サクナヒメが、あからさまに不満そうな声を出す。退屈という言葉は正確じゃない。落ち着かない、が近い。神である彼女にとって、何も起きない時間ほど信用ならないものはないのだろう。
「退屈は状況が安定している証拠でもあります」
ココロワヒメは淡々と返す。その視線は門から一度も離れない。数字や理屈に落とし込めない現象ほど、彼女は冷静になる。
キュビちゃんは、卓袱台の上に置かれたおにぎりをじっと見つめていた。丸い。彼にとっては、それだけで十分な理由になるらしい。緊張感とは無関係の視線が、逆に場を壊さずに保っていた。
キュビちゃんが、紙とペンを引き寄せ、音のリズムを丸で描き始めた。大きな円、小さな円、重なる円。視覚化されたそれを見て、ココロワヒメが一瞬だけ黙る。
「……これは」
次の瞬間、門が大きく縮んだ。膝が落ちる。呼吸が詰まる。意識が引き剥がされそうになる。
俺は門から視線を離さないまま、短く息を吐いた。向こうで何が起きたのか分からない。タケルが、マコトが、アランが、今どうしているのかも分からない。それでも門は保たれた。それだけが事実だ。
戦っていないようで、俺は戦っている。見えない戦場で、帰り道を守る戦いを。
嫌な予感はまだ消えない。あの音はただの前触れだ。俺はそう確信していた。