気づけば、俺のすぐ横に三つの気配が並んでいた。息を切らしながら剣を構えるタケル、低く腰を落として周囲を睨むマコト、そして無言のまま拳を握りしめるアラン。誰も言葉を発しない。だが、並び立った瞬間、背中に走っていた孤独な冷えが、わずかに和らいだのを俺は確かに感じた。
眼前では、地面がまだ不気味にうねっている。岩と土が自ら形を変え、巨大な塊となって呼吸するように膨張と収縮を繰り返していた。あの未知の敵は、まるでこちらの様子を観察しているかのように動きを止めている。
「……こいつ、眼魔じゃないな」
タケルが小さく呟く。
マコトも頷き、視線を外さずに答えた。
「攻撃の理屈が違う。俺たちの常識が通じない相手だ」
アランは短く息を吐き、低い声で続ける。
「防御も攻撃も、場そのものを使っている……正面からでは、削る事すら難しいだろう」
俺は三人の横顔を一瞬だけ見て、それから再び敵に向き直った。確かに、このままでは勝てない。どれだけ避けても、どれだけ斬っても、決定打が入る気配がない。むしろ、時間が経つほど地形は敵に有利な形へ変わっていく。ここで長引けば、門そのものが先に耐えられなくなる。
(……詰んでる、か)
そう思いかけた瞬間、腰元の感触が意識に引っかかった。
視線を落とすと、そこに並んでいた。
サクナヒメ。
ココロワヒメ。
そして、白虎と玄武。
四つの眼魂が、淡く光を放ちながら、まるで何かを訴えるように微かに震えている。
(……四つ)
胸の奥で、何かが噛み合う音がした。
今まで俺は、一人で戦ってきた。サクナヒメの力を借り、時にはココロワヒメの知恵を借り、それでも基本は単独だった。だが、今は違う。ここには、タケルがいる。マコトがいる。アランがいる。敵は“場”そのもの。ならば、こちらも“場”を超えるしかない。
四つの魂。
四人の戦士。
(……本来の形は、これか)
俺は無意識に眼魂へと手を伸ばしていた。
「おい、葉……何か思いついたのか?」
タケルの声に、俺はゆっくりと顔を上げる。
「まだ確信はない。でも、このままじゃ勝てないのは確かだ」
マコトが一瞬、俺の腰元を見て目を細めた。
「……その眼魂、まさか」
アランも気づいたらしく、静かに視線を向ける。
「四つ揃っている、という事か」
敵が再び動き出す。地面が軋み、岩塊がこちらへ向かって形を変え始める。
時間は、ほとんど残っていない。
俺は四つの眼魂を見つめながら、心の奥で決意を固めた。
(賭けるしかないな……四人で)
白虎眼魂を握ったまま、俺は一度、深く息を吸った。胸の奥で高鳴る鼓動を無理やり抑え、横に立つ三人へ視線を送る。
「……来てくれて、正直助かった」
俺がそう言うと、タケルが苦笑して肩をすくめた。
「助けるっていうかさ。葉さんが一人で抱え込むから、放っておけなかっただけだよ」
「相変わらず無茶をする」
マコトが低く呟き、俺を一瞥する。
「だが……悪くない判断だ。ここまで耐えたのは、正直すごい」
アランは一拍遅れて、拳を強く握りしめた。
「私も、君を一人で戦わせるつもりはない。今度は……一緒に立つ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。
眼前では、大地が再び蠢き始めていた。岩塊が隆起し、棘のように突き出し、四方から包囲を完成させようとしている。
(時間がない)
俺は白虎眼魂を掲げながら、三人を見渡した。
「正直に言う。このままじゃ、俺一人じゃ勝てない。……たぶん、四人でも簡単じゃない」
タケルが一歩前に出て、朱雀眼魂を握る。
「でもさ、だから一緒に来たんだろ? 無理だからって、引き返すつもりもないし」
「そうだ」
マコトが青龍眼魂を構え、短く息を吐く。
「一人で勝てない相手なら、四人で殴る。それだけの話だ」
アランは玄武眼魂を見つめ、わずかに苦笑した。
「奇妙な話だな。かつて敵同士だった私たちが、同じ場所で同じ敵を見ている」
「奇妙だけど……悪くないだろ?」
俺がそう返すと、アランは小さく頷いた。
「……ああ。今は、それでいい」
大地が唸りを上げる。岩の腕が形成され、こちらへ伸びようとしている。
「来るぞ!」
タケルが叫び、全員が自然と構えを取った。
俺は声を張り上げる。
「いいか……誰かが前に出すぎたら、すぐフォローする。俺は速さで切り込む。タケルは空から援護、マコトは正面を崩す。アランは――」
「守りを引き受ける」
アランが即座に答え、盾の構えを取る。
「君たちが攻める間、私は絶対に崩させない」
「助かる」
マコトが短く言い、タケルが頷いた。
「よし……じゃあ、行こう」
四人が、ほぼ同時にドライバーへ眼魂を装填する。
『カイガン!四聖獣!白虎!朱雀!青龍!玄武!4つの力を一つに!』
重なった変身音が、空気を震わせる。
白虎の力が俺の身体に満ち、風が足元で渦を巻く。
朱雀の炎がタケルの背で燃え上がり、翼の幻影が広がる。
青龍の雷がマコトの周囲を走り、蒼い稲妻が大地を裂く。
玄武の防壁がアランの前に展開され、流動する盾が静かに脈打つ。
変身を終え、俺は振り返って三人を見る。
「……改めて言うぞ」
一拍置いて、俺は宣言する。
「ここから先は、誰も一人じゃ戦わない」
タケルが笑い、剣を構える。
「うん。倒れる時も、立つ時も一緒だ」
マコトが低く応じる。
「背中は任せる。勝ち筋は、四人で作る」
アランは盾を前に出し、静かに言った。
「私は、君たちを信じる」
その一言で、迷いが完全に消えた。
俺は正面の未知の敵を睨み、声を張り上げる。
「四人で行くぞ! ――必ず、ここを守り切る!」
次の瞬間、俺が先陣を切って踏み込み、タケルの炎が空を裂き、マコトの雷が走り、アランの盾が岩の一撃を受け止めた。
四つの力が、完全に噛み合う。