「いやぁ癒やされるなぁ」
「癒やされるなぁ、じゃないぞ!」
森の中、木漏れ日が差し込む小道を歩く俺たち三人。
深緑に包まれた空間は、時が止まったかのように静かで……まさに癒やしスポットだ。
しかし、隣を歩くサクナちゃんが鬼の形相で俺を睨んでくる。
「お前さっきからずーっと『考え中』とか言って! ちっとも進んでないじゃないか!」
「そりゃだってねぇ……神様ってたくさんいるから。誰を呼ぼうかなーって真剣に考えてるんだよ?」
「どうせ適当に考えてるだけだろう!?」
ばしばしと背中を叩かれながら、俺は苦笑いを浮かべる。
確かに思考があっちこっち飛んでるのは否定しないけど……
それでも本気で悩んでるんだよな。誰なら力を貸してくれそうかって。
すると、後ろを歩いていたココロワヒメが穏やかに微笑みながら言った。
「ふふ……葉さまらしいですね。あせらずゆっくり考えてくださるのが素敵です」
「ココロワ! 慰めちゃダメなんだぞ! こうしてる間にも眼魔は動いているかもしれないのに……!」
「まあまあサクナ様。ほら見てごらん? この森の空気」
俺は大きく息を吸い込んで見せる。
清涼な空気が肺いっぱいに広がって、心まで洗われるようだ。
「なんか落ち着かない?」
「……それは、確かに……」
サクナヒメも一瞬動きを止め、目を細めて森を眺める。
「この感じ……島の里山とちょっと似てるかも」
「おっ、気づいた? この豊かさ、まさにサクナヒメの得意分野じゃん。きっとこの森にも神様が宿ってるんじゃないかな?」
「ほう? 森の神か……なるほど」
サクナヒメの表情が少し柔らかくなった。
さすが米作りエキスパート。植物や自然に関わる神様ならノリがいい。
「でも森って漠然としてますよね。どのような神様がいらっしゃるのでしょう?」
ココロワヒメが首を傾げる。
うーむ、と再び腕組みして唸ってしまう俺。
そこへ──
ガサッ。
近くの茂みが揺れる音がした。
三人同時に警戒して身構える。
出てきたのは小さな影。
「……あれ? あなたは誰ですか?」
現れたのは黒いジャージを身に纏う人物。
その人物は、こちらを見つめている。
「……あのぅ、どちら様でしょう?」
恐る恐る声をかけると、その人物はじっと俺たちの方を見つめてきた。
彼女はしばらく沈黙していたが、ふいに口を開いた。
「森を荒らしに来たわけではないのですね」
「え? いやそんなつもりはないですよ!」
慌てて両手を振って否定する。ただ休憩してただけだし!
その女性は警戒した様子だったけれど、少しずつ態度を軟化させていった。
そしてぽつりと言う。
「わたしはこの森が好きなんです。子どもの頃からずっと遊んでいましたから」
「へぇ〜!」
思わず食いついてしまった。
こういう地元民の話を聞くのが一番参考になるもんな。
サクナヒメも興味津々といった顔つきになっている。
「良かったら少しだけ教えていただけませんか? この辺りのこととか……何か伝説みたいなものはあります?」
「伝説……」
その女性はしばらく考え込んだ後、「そうだ!」とぱっと表情を明るくさせた。
「この森には古くから不思議な生き物の噂がありますよ。とても小さくて可愛らしい姿をしているんですって」
「「小さくて可愛らしい!?」」
サクナヒメとココロワヒメが同時に声を上げる。
「どんな姿なんですか?」
「詳しくはわからないんですけど……フキの下に住んでいるとも言われています」
「ふむふむ」
「昔はその生き物に出会えた人は幸せになれると言われていたそうです。今ではもう見なくなったみたいですけどね」
「なるほどぉ〜」
これは有力情報っぽいぞ!
サクナヒメが嬉しそうにぴょんと跳ねた。
「フキ! フキだぞ! 葉! フキを探そう!」
「そうだな! 大きなフキならきっと目立つはずだ!」
俺たちは早速周囲を捜索し始めた。
ココロワヒメも一緒になって探してくれる。
「あっ! ありました!」
ややあってココロワヒメが指さした先には──立派なフキの群生地があった。
背丈を超えるほどの大きな葉っぱが何枚も並んでいる。
まるで森の守護者のように。
そして、それと共に。
「これは、反応しておる?」
「まさか、さっきの人に?葉!」
「あぁ、分かった」
俺はフキの群生地の中心に立ち、ガンガンタマフを構えた。
小さな鎌を頭上に掲げると、サクナヒメとココロワヒメが左右に立つ。
「さあ、始めるぞ」
深呼吸をして意識を研ぎ澄ませる。周囲の空気が変わるのを感じた。
フキの葉が微かに震え始め、その瞬間──
パラパラ……
ひらひらと雪が舞い始めた。
春なのに?
俺が戸惑う暇もなく、フキの葉全体が輝き出す。
「おいで!森の守り手よ!」
ガンガンタマフを振るうと光の軌跡が残る。
「……来た!」
サクナヒメが指さした先。一枚の大きなフキの葉の陰から小さい影が飛び出した。
「おおっ!本当に小さくて可愛い!」
白い装束に狐耳を持つような小さな存在。
これがコロボックルか。
「おおっ! 本当に小さくて可愛い!」
コロボックルは丸い瞳をまん丸にして俺たちを見つめていた。サクナヒメよりさらに一回り小さい、掌に乗るサイズの小さな存在だ。白い和服のようなものを着ていて、髪型はショートカットでどこか懐かしい雰囲気を持つ。
だが——。
「……」
喋らない。
いや、声が出ないのか?
サクナヒメがしゃがみ込んで目線を合わせる。
「どうした? 喋れないのか?」
コロボックルは申し訳なさそうな顔をして首を縦に振った。
だが、コロボックルは、何かを言いたいようだった。
「分からない、けれど」
それと共に何か、嫌な予感がした。
俺達は、コロボックルに従い、そのまま向かった。