石段の奥、光が落ちない空間に弓は刺さっていた。
古びているはずなのに、触れなくとも熱が伝わってくる。周囲の影だけが、わずかに遅れて揺れていた。
「……やっぱり、ここか」
葉が低く呟く。
「太陽の気配じゃ。都の祭りとも似ておる」
サクナの声が弾む。だが視線は鋭い。
背後で空気が裂けた。
光の矢が石壁を貫き、操られた眼魔が弓のように歪む。中心に立つ個体が腕を引くと、周囲の眼魔が次々と“矢”へ変わった。
「来おったぞ!」
サクナが叫ぶ。
葉は弓の前へ歩み出る。足を揃え、呼吸を整え、静かに神楽を舞う。戦場のざわめきが遠ざかり、光だけが揺れた。
「……呼んでる。これだ」
舞が一巡した瞬間、弓が震え、砕けた光が掌へ落ちる。赤い眼魂。熱が腕へ駆け上がる。
「葉様、共鳴反応――急上昇しています」
ココロワの声がわずかに早くなる。
矢の雨が迫る。
葉は迷わずドライバーへ装填した。
『カイガン!アポロン!』
日輪の光が背後に広がる。
『神楽!日輪!照破神!』
赤い閃光が装甲を描き、新たな姿のシャーマンが現れる。踏み出した瞬間、身体が光へ引かれるように前へ跳び、残像だけが石段に落ちた。
「……速っ」
声が遅れて耳に届く。
敵が矢を放つ。葉は一歩で距離を詰め、ガンガンタマフをガンモードへ。光線が一直線に走り、中心に立っていた眼魔の胸を貫いた。
爆ぜる光。
操られていた個体が崩れ落ちる。
「やった……か?」
葉が息を整える。
その時だった。
――ギィン。
弦の音。
倒れたはずの弓が宙へ浮かび上がる。砕けた眼魔の残骸が砂のように吸い寄せられ、弓へ収束していく。
「……違う」
葉の声が低くなる。
「本体は……あっちじゃ!」
サクナが叫ぶ。
弓が独りで角度を変え、光を引き絞る。
放たれた矢が一直線に葉へ迫る。肩をかすめ、石段を焼き切った。
「兵器……いえ、存在そのものが武装です。あれが核です!」
ココロワの声が落ちる。
葉は踏み出す。
光の残像が三つ、四つと遅れて現れる。カラス型のファンを銃身へ重ね、光弾を浴びせる。弓が弾かれ、石畳に叩きつけられた。
だが、砕けない。
弓はゆっくりと立ち上がるように浮かび、光の線を無数に広げた。
影が震え、空気が歪む。先ほどまでの攻撃とは明らかに違う圧が場を満たしていく。
「……今のは、小手調べか」
葉が小さく笑う。
「ようやく本気という顔じゃの」
サクナが唸る。
弓が弦を鳴らす。
周囲の光が一点へ集まり、巨大な矢の輪郭が浮かび上がった。
「出力……急上昇。先ほどまでとは別段階です」
ココロワの声が静かに震える。
葉は構え直した。
装甲の隙間から赤い光が滲み、足元の影が完全に消える。
「……なら、こっちも本番だ」
低く言い、光の踏み込みで前へ。
矢が放たれる。
空間が裂け、音が遅れて追いかけてくる。
光と光がぶつかる直前、石段の空気が凍りついた。