宙に浮かぶ弓が、音もなく軋んだ。
弦が震えた瞬間、光の矢が空間に“現れる”。飛ぶというより、そこに最初からあったみたいに真っ直ぐ伸び、葉の視界を焼いた。
足を半歩ずらす。
頬を掠めた熱が、遅れて耳の奥で弾ける。
「……来るぞ」
低く呟き、ガンガンタマフを構え直す。刃の側面が光を受け、細い火花が散った。
矢が三連。
一本は直線、一本は軌道を曲げ、もう一本は足元を狙って跳ねる。
葉は身体を捻り、タマフの刃で弾いた。金属音ではなく、焼けた空気が裂ける音が残る。
「単純じゃが、嫌らしい撃ち方じゃな!」
サクナヒメの声が鋭い。
「……狙い、変えてきてる」
木々の間へ滑り込む。幹を盾にし、半身だけ出して斬撃を飛ばす。
タマフから放たれた光が矢とぶつかり、枝葉が一斉に揺れた。
返ってくる。
矢が幹を貫き、背後の地面を抉る。樹皮の破片が頬を叩き、苦い匂いが広がった。
「葉様、右から三本。内側へ踏み込みを」
ココロワヒメの声が落ちる。
踏み込む。
矢が背後の木を斜めに切り裂き、倒れた枝が地面を叩いた。葉はその反動を利用して幹へ足を掛ける。
壁走り。
靴底が樹皮を噛み、身体が一気に上へ引き上げられる。
矢が追いすがり、枝を一本ずつ刈り取っていく。視界の端で葉が舞い、太陽の光が断片的に差し込んだ。
「止まるな。撃たれるぞ!」
サクナヒメが叫ぶ。
「分かってる……!」
幹から幹へ移るたび、ガンガンタマフを振り抜く。
斬撃が弧を描き、光の矢と正面衝突する。弾けた火花が葉の肩へ落ち、装甲の縁を赤く染めた。
弓が弦を強く引く。
今までとは違う圧。空気が押し返され、葉の足が一瞬止まりそうになる。
「……本気、って顔だな」
息を吐き、さらに上へ。
頂上に辿り着いた瞬間、背後に太陽が重なった。
影が消え、装甲の輪郭だけが光の中に浮かぶ。
弓が巨大な矢を形成する。
光が一点に集まり、世界が白く歪む。
葉はガンガンタマフを正面に構えた。
胸元の眼魂が脈打ち、炎が刃先へ集まる。揺らめく火が一本の矢の形を取り、武器と重なる。
『ダイカイガン!アポロン!オメガドライブ!』
踏み込む。
音が遅れる。視界が一直線に引き裂かれ、炎の矢が弓を貫いた。
弦が悲鳴のように震える。
光の矢が崩れ、炎が弓の中心を焼き抜く。
「……これで、終わりだ」
最後の斬撃。
炎の軌跡が空を走り、ガンマイザー・アローは光の粒子となって崩れ落ちた。散った残滓が太陽光に溶け、風の中へ消えていく。
着地。
焦げた木々の匂いの中、葉はゆっくりとタマフを下ろした。
「ふん、ようやく静かになったの」
サクナヒメが小さく笑う。
「出力は限界に近い状態でしたが……戦術としては理想的でした、葉様」
ココロワヒメの声が続く。
葉は空を見上げる。
太陽が、さっきより近く感じた。