境内の空気は重かった。蛇の磐座を中心に、石像が不自然なほど並んでいる。祈る姿のまま固まった者、逃げようと振り返ったまま止まった者、腕を差し出した姿勢で動きを奪われた者。夕暮れの光がその顔を照らし、影が長く地面を這う。葉は一歩進み、石像の表面に走る細かなひびを見つめた。人の形をしている。だが、人ではない。硬質の冷たい光が、境内の奥からゆっくりとこちらを見ていた。
「……サクナヒメ。あれ、見えるか」
鳥居の奥、拝殿の前。
一体の眼魔が立っている。
ただ、様子が妙だった。目は開いているのに焦点が合わない。糸に吊られた操り人形のように腕が動き、ぎこちなく首を傾ける。その背後の空間に、細い影が浮かび上がった。槍だ。黒と緑の光を帯びた長槍が宙に浮かび、ゆっくり回転している。先端が僅かに傾くたび、空気が鋭く鳴った。
「操られておるのう……あの眼魔」
サクナヒメが低く言う。
ココロワヒメが視線を上げる。
「外部制御反応を確認しました。あの槍が指揮系統の中心のようです」
葉は息を吐いた。
右手でゴーストドライバーを叩く。
『カイガン!シャーマン!宿すは神!守りしは魂!』
霊光が弾け、装甲が身体を包む。仮面ライダーシャーマン。ガンガンタマフを握り直し、槍の先端を見据えた。境内の静けさが、僅かに揺れる。
次の瞬間、槍が消えた。
音だけが残る。
葉の背後、石畳が爆ぜた。槍が地面を突き破って現れ、一直線に走る。石畳が裂け、破片が飛び散る。葉は横に跳んだ。だが、すぐに理解する。速いのではない。視界の外から突然現れているのだ。槍は再び宙へ戻り、回転しながらウルティマの手へ滑り込む。
突撃。
火花。
ガンガンタマフが槍を受け止める。だが、衝撃は重い。葉の身体が数歩押し戻され、靴底が砂利を削る。ウルティマの腕が振り抜かれると同時に、槍が伸びた。柄が伸長し、距離が一瞬で倍になる。葉の肩を掠め、装甲の一部が削れた。
「……伸びるのかよ」
短く吐く。
槍は独立して動く。
ウルティマの手を離れ、空中で旋回する。次の瞬間、別の角度から突っ込んできた。葉は身を沈めて回避し、ガンガンタマフで弾く。しかし衝突の度に石畳が割れる。境内の地面が削られ、裂けた場所が鈍く光った。そこから石の色が広がる。足元の地面が硬質化し、石像の数が増える。
「葉! 境内が変質しておる!」
サクナヒメの声。
ココロワヒメが続ける。
「敵はこの空間を実験場にしている可能性があります」
葉は槍の軌道を追う。空中で回転する穂先が、次の突撃を予告している。だが軌道が読めない。一直線の突きのはずなのに、地面、空中、背後、全てから現れる。ウルティマが前に出る。槍と同時に突撃してきた。
衝突。
二方向。
ガンガンタマフで防ぐが、槍が僅かに滑り込む。装甲の隙間に衝撃が入り、身体が弾かれる。葉の身体が宙を舞い、境内の奥へ転がった。背中が岩にぶつかる。蛇の磐座だ。
「葉!」
サクナヒメの声が遠い。
ウルティマがゆっくり歩く。
槍が宙に浮く。
先端がこちらを向く。
処刑の姿勢。
境内の風が止まった。
葉は立ち上がろうとする。だが足元で何かに触れた。小さな置物。蛇を模した古い石細工だ。ひび割れた表面から、黒と緑の光が漏れている。指先に触れた瞬間、置物が震えた。
ひびが広がる。
境内の石像が揺れる。
葉の視界に、蛇の影が走った。磐座の奥から何かが応えるように鳴る。冷たい光が手の中で膨らみ、丸い形を作り始める。眼魂だ。黒と緑の紋様が浮かび、蛇の瞳のような光が宿る。
槍が突撃する。
一直線。
葉はまだ立ち上がれない。だが手の中の眼魂が強く脈打つ。境内の石像の影が、わずかに揺れた。蛇の紋様が光り、葉の掌で完全な形になる。
メドゥーサの眼魂。
その瞬間、境内の空気が変わった。