磐座の前で、息を整える。
掌の中の眼魂は黒と緑の光を帯び、蛇の瞳のように脈打っていた。境内の石像が微かに軋む。遠くで槍が回転する音。眼魔ウルティマがぎこちなく腕を上げ、空中の槍がゆっくりと傾いた。
「……来るな」
葉は眼魂をドライバーへ装填する。
『カイガン!メデューサ!スネーク!ストーン!恐怖の石化!』
紫の光が弾ける。
装甲が再構成され、背後に蛇のようなエネルギーが揺れる。視界がわずかに変わった。空気の流れ、石の匂い、敵の動きが静かに浮かび上がる。
「なんというか、不気味な感じがするな、この姿」
サクナヒメがすぐに声を上げた。
「うぅ、その姿でこっちを見ないでくれないか。大龍を思い出してしまう」
「まぁ蛇だからねって」
言い終わる前に、槍が消えた。
次の瞬間、真正面から突撃してくる。これまでと同じ速度。だが葉は避けなかった。腕を上げ、顔の前にフクロウゴーグルを装着する。
衝突。
金属音。
槍の穂先がバイザーに当たり、激しく火花を散らす。しかしメドゥーサ装甲はびくともしない。衝撃が装甲の奥で鈍く止まる。
「これは梟の眼鏡? こいつで見れば――」
視線を向けた瞬間、槍の先端が鈍く光った。
石化の光が走る。
「うわぁっと!? 見つめた先が石になったと」
穂先の一部が硬化する。
葉の背後で蛇のエネルギーが伸びた。紫と緑の影が空中を這い、槍へ絡みつく。
「これが蛇の力」
蛇が締め上げる。
槍の動きが止まる。
同時にウルティマが突撃してきた。操られた身体がぎこちなく振り上げられる。葉は一歩踏み込み、脚を振り上げた。装甲が石化し、重量が増す。
蹴り上げる。
鈍い衝撃。
ウルティマの身体が宙に浮き、そのまま地面へ叩きつけられる。石化した脚の一撃が、完全に動きを止めた。
「とりあえず、こっちはこいつで終わりだなっと」
サクナヒメが低く呟く。
「やはり、前回の弓のようにこっちが本体のようじゃな」
ウルティマの背後で、槍が震える。
蛇の拘束を振りほどき、空中へ跳ね上がる。回転速度が増し、境内の上空を高速で旋回し始めた。黒緑の光が残像を残す。
「葉様」
ココロワヒメの声。
槍が四方から突撃する。
だが葉は動かない。視線が軌道を追う。回転の間隔、速度、戻る位置。さっきまで見えなかった癖が、はっきりと浮かぶ。
「大丈夫、既に見切った!」
葉は腕を広げる。
背後から無数の蛇が現れた。紫の影が空中を走り、迫る槍へ絡みつく。蛇が締め上げるたび、槍の表面が石色に変わる。
『ダイカイガン!オメガモーニングスター!』
蛇が一斉に引く。
槍が石化しながら引き寄せられ、そのまま振り上げられる。重い軌道を描き、地面へ叩きつけた。
轟音。
石畳が割れる。
槍は完全に動きを止め、黒緑の光が消えた。
沈黙。
境内の空気がゆっくり戻る。
葉は装甲の手を下ろし、砕けた槍を見下ろした。
「どうやら、倒せたようじゃな」
「あぁ、これで結構眼魂が集まったな」
ココロワヒメが静かに続ける。
「けれど、眼魔が手に入れている可能性もあります。油断はしないように」
葉は頷く。
「分かっている」
風が吹く。
蛇の磐座の影が静かに伸びた。