視界が揺れている。
いや、揺れているのは景色じゃない。
踏みしめているはずの地面の感覚が、足の裏から少しずつ抜けていく。
呼吸が浅い。
肺に空気を入れているはずなのに、どこか足りない。
身体の奥が、もう動くなと静かに告げている。
「……は、ぁ……っ」
合体ガンマイザーは、目の前でゆっくりと腕を持ち上げる。
急ぐ様子はない。
逃げ場がないことを、もう分かっているからだ。
何度も打ち合った。
フォームも切り替えた。
それでも、届かなかった。
ほんの少しだけ押し返した感触はあった。
でも、それは“通じた”とは違う。
ただ、削れただけだ。
「……やっぱ、別格か」
力を入れようとした腕が、思うように上がらない。
変身も、もう長くは保たない。
装甲の奥で、何かが軋む音がする。
合体ガンマイザーが、一歩踏み込む。
その動きだけで、空気が押し潰される。
距離は一瞬で消える。
振り下ろされる腕に、もう避ける余裕はない。
「……ここまでか」
不思議と、焦りはなかった。
ただ、悔しさだけが残る。
もう少し、時間があれば。
もう一手、何かあれば。
そんなことを考えている間にも、攻撃は迫ってくる。
――止められない。
そう思った瞬間だった。
光が、割り込んだ。
ぶつかるはずだった衝撃が、届かない。
目の前で、何かがその一撃を受け止めている。
「……え?」
視界の中に、揺れる光の輪郭がある。
それはただの光じゃない。
形を持っている。
人の姿。
背中越しに見えるそのシルエットに、呼吸が止まる。
「……嘘だろ」
言葉が、勝手にこぼれた。
そこに立っていたのは、
見間違えるはずのない姿だった。
「……タケル?」
死んだはずの男が、そこにいる。
しかも、ただ立っているんじゃない。
合体ガンマイザーの一撃を、真正面から受け止めている。
装甲が淡く輝き、その周囲に広がる光が、空気を静かに押し返していた。
力の質が違う。
圧が、明らかに変わっている。
タケルは振り返らない。
ただ、前を見たまま口を開いた。
「……ごめん、待たせてしまって」
その声が、やけに静かに響いた。
胸の奥で何かがほどける。
さっきまで張り詰めていたものが、一気に緩む。
「……生き返ったんだな」
笑う余裕なんてないはずなのに、口元が少しだけ緩んだ。
タケルが立っている。
それだけで、さっきまでの絶望が少しだけ遠のく。
合体ガンマイザーが腕を引き戻し、再び構える。
だがさっきまでとは違う。
押されていたはずの空気が、今は拮抗している。
「……まだ終わってねぇな」
俺はゆっくりと立ち上がる。
足は重い。
それでも、動く。
視線を前に戻す。
目の前の敵は変わっていない。
だが、状況は確実に変わった。
隣に、タケルがいる。
それだけで、戦える理由は十分だった。
「行けるか」
短く問う。
「当たり前だ」
即答だった。
迷いがない。
さっきまで感じていた重さが、少しだけ軽くなる。
俺は足を踏み込む。
タケルも同時に動く。
タイミングは合わせていない。
それでも、自然と揃う。
「……行くぞ!」
地面を蹴る。
空気を裂いて、一直線に距離を詰める。
合体ガンマイザーが迎え撃とうと腕を上げる。
だが、その動きよりも速く、俺たちは加速する。
『ダイカイガン!シャーマン!オメガドライブ!!』『チョーダイカイガン!ゴッドオメガドライブ ムゲン』
身体が軽い。
さっきまでとは違う。
押し返される感覚がない。
前に進む力だけが、真っ直ぐに伸びていく。
「はあああああああっ!」
二つの軌道が重なる。
同時に跳び上がり、同時に蹴りを放つ。
光が重なる。
衝突の瞬間、空気が弾けた。
合体ガンマイザーの中心に、二つの一撃が叩き込まれる。
抵抗があった。
確かにあったはずなのに、それを突き抜ける。
そのまま、貫いた。
衝撃が遅れて広がる。
異形の身体が、内側から崩れ始める。
光が弾け、形が崩れ、やがて完全に消滅した。
静寂が戻る。
俺は着地して、そのまま膝に手をついた。
呼吸が荒い。
身体は限界に近い。
それでも、顔を上げる。
「……終わったな」
隣を見る。
タケルが、そこに立っていた。
さっきまでいなかったはずの存在が、今は当たり前みたいにそこにいる。
「……ほんとに戻ったね」
呟くと、タケルは少しだけ笑った。
その表情を見た瞬間、ようやく実感が追いついてくる。
――ああ、戻ってきたんだな。
胸の奥に残っていた重さが、ゆっくりとほどけていった。