戦いの熱がようやく引き始めた頃、俺たちは少しだけ距離を取った場所で足を止めていた。
タケルの新しい力は、さっきの合体ガンマイザーを押し返すには十分すぎるほど強かった。けれど、強いという事実そのものが、そのまま不安に繋がっているのも分かる。あの姿は確かに頼もしい。だが、頼もしいだけでは済まない重さが、見ているだけでも伝わってきた。
アランが差し出した装置を前に、俺は無意識に眉を寄せる。
見たことのない形だ。ゴーストドライバーとも違う。もっと大きく、もっと露骨に、複数の力を束ねるためだけに作られたような圧がある。中心に収まった巨大な眼魂も、普通のそれとは比べものにならないほど存在感が強い。手に取っていないのに、妙に重そうに見えるあたりが、なおさら落ち着かない。
そんな俺の横で、サクナヒメは遠慮なく装置を覗き込み、感心したように声を弾ませた。
「それにしても、ココロワは相変わらず天才過ぎるじゃろ!これって、聞けば、向こうの世界の技術で作られた代物じゃろ」
「確かに、ココロワヒメがいなかったら、俺達はかなり危なかったからな」
そう言った途端、隣で小さく空気が緩んだ。
肩がわずかに揺れ、口元がほんの少しだけ上がる。普段なら絶対に見逃しそうな変化だったのに、今はなぜか妙にはっきり見えた。
「ムフッ…!」
「んっ?」
「んっ?」
俺とサクナヒメの声が、ほとんど同時に重なる。
ココロワヒメは一瞬だけ目を逸らし、それから何事もなかったみたいに咳払いする気配を見せた。
「いえ、とにかくタケル様からお借りしたこちらの代物を解析した結果ですが、どうやら元々15人の英雄の眼魂を一つに集める為に造られたのだと、解析した結果分かりました」
十五人の英雄。
その言葉だけでも十分に重い。俺は巨大眼魂へ視線を戻しながら、その“器”という発想に引っかかる。力を集めるための器。たしかに強いだろう。だが、強いで済ませていい話とも思えなかった。
「んっ、それは変じゃないのか?話を聞けば、確かに英雄の眼魂を一つに集めれば強いのは分かるが、むしろ敵に力を渡すようになっていないか?」
サクナヒメの疑問は、たぶん一番まっすぐだ。
強い力をまとめる。それ自体は分かる。だが、そんなものが敵の手に渡れば厄介どころの話じゃない。
「確かに俺も疑問に思った。何よりもそんな代物を造れる奴がそんなミスが分からないはずないと思うが」
言いながら、俺は装置そのものより、その向こうにいる“作った誰か”を意識していた。
これを組み上げた相手は、ただの技術者じゃない。力の危険性も、使い道も、全部分かった上で作っているはずだ。
「私もそう考えます。なので、私の中の仮説としては、おそらくはこれは元々こちら側に渡す予定として作り出されたと考えます」
その一言で、装置の見え方が変わった。
危険な代物だという印象は消えない。けれど、ただの敵の武器ではなく、最初から“受け取られること”を前提にした品かもしれないと思うと、不気味さの質が変わる。
「ますます意味が分からんぞ」
「・・・つまり、そいつは俺達の味方と考えても良いのか?」
戦う側としては、そこだけでもはっきりしてほしい。
味方か敵か。少なくとも、そのくらいは。
「それは分かりません。ですが、今はこの構造を使わせて貰いましょう」
ココロワヒメは、そこをあっさり切り分けた。
断定できないことは断定しない。その代わり、使えるものは使う。その姿勢は相変わらず徹底している。
「とは言うけど、1度、見せて貰ったけど、あのグレイトフル魂というのをそのままなのか?」
あれほどの力を束ねた姿を、俺は一度この目で見ている。
だからこそ、そのまま神の眼魂で再現できるなら話は早いとも思った。だが、ココロワヒメはすぐに首を横へ振る。
「残念ながら、それは出来ません。グレイトフル魂のように神々の力を全てを発動すれば、我々は勿論、葉様も消滅する危険性があります」
その言葉に、背筋が少し冷えた。
強いかどうか以前の話だ。全部を一度に解放するには、俺たちの器が小さすぎる。
「まぁ15人の神が一つになれば、普通はそうなるじゃろ」
「えぇ、ですので、少し発想を変えてみました」
「発想?」
そこで初めて、ココロワヒメの声に少しだけ冴えた響きが混じる。
ただ解析した結果を並べるのではなく、自分の考えを差し出す時の顔だ。
「えぇ、一つではなく、二つに分けて纏めるのです」
「???」
「???」
今度はサクナヒメと一緒に、本気で意味が分からなくなった。
一つではなく二つ。まとめるのに分けるとは、どういう理屈だ。
「葉様が最も多くの関わりがあったのは、サクナ様と私の2人。ならば、私達の各々の姿をベースに、それと相性の良い神々と合わせるのです」
「おぉ、それは、つまりは?」
サクナヒメが身を乗り出す。
さっきまで首を傾げていたのに、意味が見えた途端に目の色が変わるのが分かりやすい。
「武のサクナ様と智の私を使い分ける。それこそが、これの真骨頂です」
その言葉が落ちた瞬間、ようやく輪郭が見えた。
サクナヒメの言葉には前へ出る力がある。ココロワヒメの言葉には組み上げる力がある。どちらも俺の中では、もう別のものじゃない。戦って、支えられて、積み上がってきたものだ。
武と智。
二つに分けて束ねる。
全部を一つに押し込むんじゃなく、俺が使い分けられる形に組み直す。
「……なるほどな」
完全に理解したわけじゃない。
それでも、今までよりはっきり見えた。今のままじゃ足りない。その先へ行く形が、ようやく戦える輪郭で見え始めた。
俺はもう一度、巨大眼魂へ視線を向ける。
さっきまで不気味さばかりが目立っていたはずなのに、今はその奥に、まだ形になっていない切り札の気配が見える気がした。
これがどう完成するのかは、まだ分からない。
けれど、届くための道筋だけは、確かにそこにあった。