夜気の底に、金属を擦るような張り詰めた気配が沈んでいた。
ココロワヒメが差し出した新たな眼魂を掌に載せた瞬間、重さはないはずなのに、指先から腕の奥へじわりと圧が伝わってくる。見た目はたしかに、あの時タケルが手にしていたムゲン眼魂に似ていた。だが、よく見れば似ているのは輪郭だけで、その中身はまるで別物だった。無限を象る丸の部分には、ココロワヒメを思わせる歯車が幾重にも噛み合い、その歯車を包むように、サクナヒメの羽衣を思わせる帯が∞の字を描いている。赫と蒼が溶け合いながら、それでも互いを消さずに脈打っている様子は、まるで俺の内側にいる二柱そのものだった。
「ほぅ、これがその新しい眼魂なのか? なんだか形はムゲン眼魂に似ているような気がするが」
そう呟くと、サクナヒメが待ちきれないとでも言いたげに身を乗り出した。
「ほぅ、これが新しい眼魂かぁ、早く試してみたいのぅ」
その声は弾んでいたが、俺の胸の奥には、別の冷たさが残っていた。強い力というものは、それが必要になる状況ごと、まとめて連れてくる。だから喜びきれないまま、眼魂の表面を親指でなぞる。
「必要になる時がある意味、恐ろしいが」
漏れた本音に、ココロワヒメはいつもの静かな調子で応えなかった。代わりに、空気が変わる。サクナヒメがふっと表情を引き締め、椅子から立ち上がる気配が内側から伝わってきた。
「葉」
「あぁ」
「…どうやら、出番のようですね」
外へ出た瞬間、夜の風に混じった異様な冷たさが頬を撫でた。
気配を辿って辿り着いた先に立っていたのは、かつてアランが纏っていた黒い軍服によく似た衣装の男だった。似ているのに、まるで違う。あの男には人を支配する側の冷たさが、隠そうともせず滲んでいた。
「…お前か、神の眼魂を使うのは」
その言葉が途中で止まり、俺も男の顔を見て目を細める。
「お前は」
男は薄く口元を歪めた。
「アデル、お前達の元にいるアランの兄と言った方が分かりやすいだろうな」
その名と同時に、周囲の闇から白い影がいくつも浮かび上がる。顔はどれも同じで、均一に整いすぎた輪郭がかえって不気味だった。白い全身タイツのような外見の連中が、音もなく並ぶ。
「うげぇ、なんじゃあれは」
サクナヒメの嫌悪が、そのまま俺の喉にも引っかかった。
「…この気配、まさかガンマイザー」
ココロワヒメの声が低く落ちると、アデルはそれを肯定するように肩を竦めた。
「天空寺タケルのムゲンだけでも厄介だからな、お前から始末する」
白い群れが、一斉にこちらへ顔を向ける。
ぞわりと背骨を撫でるような殺気に、普通なら足が止まる。だが、今は違った。掌の中の眼魂が、まるで待っていたと言わんばかりに脈打つ。
「だったら、こっちも見せてやろうか、神の力をな」
『双神極装』
鳴り響いた音声に、アデルの目がわずかに見開かれる。
その反応に構わず、俺は眼魂をシャーマンドライバーへ装填した。
「なんだ、それは」
滲んだ焦りを聞き流し、深く息を吸う。胸の奥で、サクナヒメとココロワヒメ、二つの気配がぴたりと重なった。
「変身」
『カイガン!ソウシン!集え神々!回れ理!紅と蒼!反転装填!双神極装!』
赫と蒼が爆ぜる。
これまでのシャーマンを芯にしながら、装甲は一段深く、神格そのものを押し固めたような密度へ変わっていく。背からは赤く半透明な羽衣が広がり、揺れるたびに空気の流れまで従わせる。胸の中央で、赤青の核が静かに回転する。
『紅装転換!武、解放!』
ガンガンタマフを握った瞬間、重さではなく、手の内に吸いつくような確かさが走った。前へ出るための力が、全身の隅々まで迷いなく通っていく。
「っ」
アデルの息が止まる気配がした。
「「さぁ、行くぞ」」
俺の声に、サクナヒメの声が重なる。
二つで一つになった響きを夜へ叩きつけながら、俺は真正面から構えた。