アデルはゆっくりと視線を巡らせ、俺の姿――そしてその奥にあるものを見透かすように口を開く。
「・・・本当に天空寺タケルもそうだが、想定外な事ばかり」
その声音には苛立ちではなく、計算の狂いを修正しようとする冷たさがあった。
直後、片手を軽く上げる。
それだけで十分だった。
周囲に散らばっていたガンマイザーたちが、まるで一つの意志に引かれるように動き出す。白い影が重なり、溶け、形を失いながら中央へと収束していく。
「……来るか」
思わず低く呟いた瞬間、空気の密度が変わった。
収束したそれは、やがて一つの形を取る。
人の輪郭を保ちながら、その頭部だけが異様だった。
花弁のような装甲が閉じたまま重なり合い、赤く脈打つ。開こうとして、しかし開ききらない。内側から光が滲み、外殻を押し上げようとしている。
「・・・また姿が変わったか」
「ふっ、お前達を習った。それだけの事」
アデルの声が響くと同時に、その存在――不完全な“花”が動いた。
踏み込む気配もないまま、距離が消える。
「っ!」
反射で身体をずらす。
直前まで立っていた場所を、無数の触手が貫いた。空間そのものを裂くような速度で伸びたそれが、地面を抉り、石を巻き上げる。
一瞬でも遅れていれば、終わっていた。
「よく見ろよ、その動き!」
返すように踏み込み、ガンガンタマフを振るう。
赤い軌跡が空を裂き、そのまま“蕾”の胴体へ叩き込まれる――はずだった。
鈍い衝撃が、腕に返る。
「止めた……?」
刃は確かに当たっている。だが、斬れていない。
触手の一部が絡みつくようにして受け止め、さらにその奥で、別の層が支えている。
「これは」
「お前達では出来なかった一体化!二つに分けるしか出来なかったお前達ではなな!」
言葉が歪む。
一つの声ではない。複数の声が重なり、微妙にずれて響いている。
次の瞬間、触手が弾けた。
視界が一気に遠ざかる。
身体が後方へ吹き飛び、地面を転がる。衝撃が背中から胸へ抜け、息が一瞬止まった。
「っ……!」
体を起こしながら、目の前の存在を見据える。
確かに、やっている。俺たちが出来なかったことを。
別々のまま連携するのではなく、
一つにまとめて、力を束ねる。
あれは、未完成だ。
だが未完成だからこそ、無理やりにでも繋がっている。
それでも――
「二つに別けるんじゃない、別々だからこそ出来る事がある」
立ち上がる。
足裏に力が戻ると同時に、背の奥で二つの気配が重なる。
赤と青。
武と智。
混ざらない。だからこそ、干渉し合える。
「行けるな、サクナヒメ、ココロワヒメ」
返ってくるのは、迷いのない気配だった。
前へ出る衝動と、全てを見通す静けさ。その両方が、今は同じ方向を向いている。
目の前の“蕾”が、わずかに軋んだ。
閉じた花弁の隙間から、光が強く漏れ出す。開こうとしている。だが、何かがそれを止めている。
完全ではない。
だからこそ――崩せる。
俺は静かに構え直した。
次に動くのは、もう決まっている。