ホビアニ系TCG世界にTS転生したので、いっちょラスボスを目指してみる 作:どくいも
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レーゲス帝国の旧制士官学校には、古い標語が刻まれている。
「札は国の顔、使いは国の顔」
ギルゼン・ヴォルタは、まさにその標語に殉じた人物だった。
レーゲスの名門・ヴォルタ家。
札神管理庁の設立に尽力した由緒ある家系であり、かつては札神との契約法の骨子を制定したとされる。
ギルゼンはその末子に生まれ、幼い頃から帝国の倫理と規範を身に刻み込まれて育った。
「札神とは民草の信仰にあらず、国家の威光にして、制度の結晶である」
帝国法、招集規定、属領統治、契約倫理。
すべてを「正しき形式」として信じる彼は、レーゲス内の保守派官僚の中でもとりわけ融通の利かない男として知られていた。
だがその一方で、筋は通っている。
規則を守り、私欲に走らず、形式美と忠誠を重んじる姿勢は、レーゲスの古き理想像そのものであり、一部の年長官僚には「保守派の希望」とさえ評された。
だからこそ――
彼は政争の人身御供として、属領ラルズへと送られることとなった。
「貴殿ならば、あの辺境に秩序をもたらせるだろう。……誇れ、ギルゼン」
その言葉を、彼は信じた。
ラルズ。
レーゲスの属国でありながら、前文化が根強い辺境。
札神の種類も野放で、召集の儀すら野蛮な前時代なものを多く使っていた。
現地民は帝国語を満足に話せず、正しき札神とまがい物を混同する蛮風すらあった。
ギルゼンは愕然としながらも、己の使命を自覚した。
「この地に正しき帝国秩序を根付かせねばならぬ」
だが、その方法は、あまりに愚直であった。
カード保有権を帝国式資格制に一本化。
反抗的な札神は狂神と断じ、封印・回収対象に。
学校には帝国儀礼を強制し、旧来の伝統行事は禁止。
街には監視の札使いを常駐させ、違反者にはカード没収と矯正措置を。
「形式なき力に、正義なし。
法無き札神は、災厄である」
これが彼の統治理念だった。
しかし現地の住民にとって、それは暴力だった。
札神とは魂の拠り所であり、現地の生活と密接に結びついていたからだ。
伝統行事で使っていたカードは没収され、市場のカード流通には重税が課された。
さらには、札の精霊との絆を結ぶ儀式さえ蛮習と断じられた。
ギルゼンはここに理想の帝国をつくるつもりだった。
だが周囲の目には、ただの時代錯誤な圧政と映っていた。
近年の国際社会は、差別や人権にうるさく、彼の支配は国際社会から大きく非難されることとなった。
同盟国は、ラルズに駐在していた商人がカード剥奪処分を受けた件を受けて抗議。
中立国は、現地札神の強制管理を文化弾圧として非難決議を発表した。
各国監察団は、カード関連施設における札神差別を問題視し、報告書を提出した。
それでもギルゼンは、動じなかった。
「属領に自由は不要。
必要なのは、帝国の理想を支える形式と秩序である。
新しき波など不要である」
彼は信じていた。
いつか、この統治が評価され、帝都へ呼び戻されると。
再び正道のすばらしさを本国が気付く日が来ることを。
国内にいくらかの古臭い商人を招いてでも、かつては正しかった法も維持し続けた。
たとえ、彼自身の考えがレーゲス内でも少数派であると理解していても、だ。
「新体制など不要、改革派の流れなど許さぬ。
古きに従い、新しきに反逆せよ。
それが信念にして、我が家訓である」
彼は、自分の相棒札神《叛逆古竜ヴェルニグレイル》を掲げつつ、そう宣言する。
古き制度を愛し、決まりに固執する。
決まりを守るあまり、国であろうと世界であろうと革命する者には反逆してしまう。
保守的でありながら、反逆者でもある彼にふさわしい相棒札であろう。
だが、どれほど過去を守ろうと時代は進む。
過去の規則という幻影にしがみつき札を振るおうとも、来るべき未来はかえられない。
だからこそ、彼と彼の札神の将来は『故郷と世界を新たな波へ移す為の犠牲』になる予定であった。
新たな風を世界とレーゲスに伝え、そのための礎になる、損な役回りになるはずだった。
そう、
★☆★☆
――旧ラルズ特別収容所
そこは植民地時代にレーゲスによって建てられた建物で、反体制派や危険思想犯を収容していた施設である。
植民地から属国に変わった近年でさえ、同じような用途で使用され、多くの知恵ある現地民が蛮族として処理されたり、再教育されたりもしていた。
周囲をぐるりと有刺鉄線の柵が取り囲み、入り口には二重の鉄門と検問所がある。
それだけではなく、金属探知機はもちろんのこと、札神検知器に反奇跡結界などこの世界特有の重厚な設備で守られていた。
もちろん、内部には無数の木製クランプやペンチなど本来の用途外で使われたであろう大工道具から、【肉削ぎ】【焼き鏝】【奴隷紋】など強い力が込められた奇跡カードまで発見された。
もっともこの施設が稼働されていたのはつい先日までであり、私が支配するからにはこんなつまらない施設など、さっさと閉鎖するつもりだ。
それでも残虐だからと言ってこんな重要施設を潰したり破壊するつもりはない。
そんなことをすれば、後の時代の学者達から非難がくるのは明白だからだ。
故に、私はこの施設を保護し、有効活用しようと考えてる。
――例えば監獄デス
「今度こそ!俺の支配領を返してもらうぞ!
このクソメスガキめがああぁぁぁ!!」
荒々しい言葉で、少女がデッキからカードを引く。
金髪碧眼で、背丈は150ほどであり、今の自分よりやや高い。
監獄生活でやや煤けているが、それでも目から闘志は失われていない。
カードを武器に見立てるなら、荒々しい戦士とでも言うような札捌きだ。
……まぁ、いくら眼光が鋭くても、くりくりな眼のせいで迫力はないが。
「何ふざけた目で見てるんだ!!!
舐めているのか?!」
自分の視線に気が付いたらしく、注意を受けてしまった。
いけないいけない、見てくれで相手を判断するのはTCGプレイヤーとして最も恥ずべき行為の一つだ。
ここは素直に謝らなければ。
「あまりにもかわいらしい見た目だったから見惚れてしまったわ。
ごめんなさい、ギルナちゃん」
「お前がこんな見た目にしたんだろ!!!!
このチビメスが!!!!」
はい、そうですがなにか?
彼……いや、彼女の言う通り、彼女の今の容姿は、以前の彼女との決闘結果で自分が変えたものだ。
なにせ、元の彼と言えば、相対するたびに人の容姿や性別を口実に、暴言を吐いてくるのだ。
なので、彼が軽々しくそんな言葉が吐けないように容姿を実にかわいらしい見た目に、名前もギルゼンからギルナへと変えてあげたのだ。
おかげで今の彼には男のころにあった面影は3割ほどの美少女であり、例え彼の知り合いの男と遭遇しても、彼がギルゼンとは気が付かず、むしろナンパをする事だろう。
いい様だ。
もっとも、こんな目に遭わせたのに、暴言は半分くらいしか減らなかったのはいろんな意味で予想外であった。
ならば、今度は胸を頭よりでかくしてやるくらいのはどうだろう?
そんなことをしたら秘書に白い目で見られるだろうから、なしか。
「俺は!領土から2のエナジーを出すことによって、奇跡カード【戦域拡張】を発動する!
デッキからレスト状態で領土カードを1枚、場にセットする!!」
さて、そんな戯言はさておき、現在は元ラルズ現地総督官ギルゼン改めギルナとのリベンジ
なぜリベンジマッチかといえば、彼女との試合は既に通算数十回を超えており、今のところ私が全勝しているからだ。
さらには、どの試合でも
それをギルナが取り戻そうとさらに高レートでの試合を申し込んでくるというループが発生しているのだ。
私としてはうれしいことだが、少々面倒くさくもある。
なにせ
具体的にはこっちが勝ったらギルナにさらなる罰ゲームをあたえられるが、代わりに彼女が勝てば、今まで自分が彼女から奪った物を返却するだけではなく、自分が彼女の奴隷にならねばならない。
彼女から欲しいものはもう取り終えている自分としては、こんな賭けなんて百害あって一利なし。
言うなれば、ハイレートこえて超廃レートな真剣
う~んクソゲー!!まぁ、でも真剣
「私のターン。領土セット。
闇と水のエナジーから【増大する
なお、セレドミの基本的なルールとしては、相手のライフを0にしたり、山札を0にすれば勝ちなTCGだ。
そのためにプレイヤーは領土カードを並べてエナジーを生み出したり、奇跡や札神カードを唱えたり。
それでなんとか相手のライフを減らしたり、札神を破壊したりする。
そんなゲームスピード遅めの、よくあるカードゲームなのである。
「俺のターン!!4エナ!!奇跡カード【轟く開拓】!!
デッキから領土をセット!!ターンエンド」
そして、現在対戦中のギルナのデッキは火土ランプだ。
2色デッキゆえに超シンプルとは言わないが、領土カードをたくさん並べて、高コストな札神カードで勝負を決める。
そんな
しかも、彼女(元彼)は腐っても、元現地総督だ。
この世界において地位が高い=カードの質もよく、プレイングも学習済み。
さらに彼女自身のドロー力(※引きたいときに引きたいカードが引ける力)もなかなかかな。
本来なら白熱した
「私のターン。領土セット。
【増大する
「ふん!そんな雑魚の攻撃、何発殴られても痛くないわ!!
俺が真の強者とはなんたるかを教えてやるわ!!
俺のターン!!俺は火を含む5エナを抽出!!いでよ!【轟槌覇将ガルドクラッシュ】!!!」
「その招集に対応して【暦喰いのスラオーン】を即応で招集。
追加で2エナ払ってください。
無理ですね。ではその札は無効化されます」
「くそがぁああああ!!!!」
が、残念ながら、こちらのデッキは【水闇スライム】、もう少し詳しく言えば、水闇テンポといったところだ。
このデッキは、私の十八番のデッキであり、いくつかの特徴があるが、その一つにこのデッキは中速以降のデッキにめっぽう強いというのがある。
何せ向こうが5エネ6エネで頑張って唱えた札を、こちらは2エネや3エネの札で無効化し、おまけでスライムが出てくるのだ。
一応、無効化されない能力持ちや手札から使うだけで効果を発揮するタイプのカードがあれば多少の有利不利は覆せる。
が、残念ながら彼女のデッキにそんな都合のいいカードは入ってないのはここ数日で確認ずみだ。
「私のターン。ドロー。
札神2体で攻撃。ターンエンド」
「くそがぁああああ!!!
そんな貧弱札神ごときにぃぃいいい!!!!」
う~ん、いい使い手なのに、もったいない。
残念ながら、この時点で試合の流れはほぼ決まったようなものだ。
手札もこっちの方が多いし除去札も豊富。
序盤の領土格差もすでになくなっている。
余りの盤面の格差に可哀想になってくるが、賭けアリの真剣勝負故、負けてあげることはできない。
別のデッキならもっと接戦ができたであろうに。
が、いくら自分でも奴隷化はいやだからね、仕方がない。
一応、私もできる限り強い相手と戦いたいので、彼女にはデッキアドバイスやら相性がいいカードを差し入れをしてる。
しかし、肝心の彼女がデッキの共鳴率が下がるとやらで、自分のサポートは基本受け取らないのだ。
罰ゲームに乗じてデッキを改造することもしたが、それにも限度がある。
「うるせぇええええ!!!上から見てんじゃねぇええええ!!!!
今日こそは貴様をそこから引きずり落としてやるぅう!!!!」
それに、なんだかんだ言ったが、まだ彼女は勝負をあきらめていない。
今まで何度も勝ってるからと言って、ここで油断できるほど私は偉くなったつもりはないし、油断して負けることほどかっこ悪い顛末はない。
気を引き締めていこう!
「俺のターン!!!……来た!!!!
封ぜられし反骨!我が旗に従え!!
【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】!!招集せよ!!!」
彼女のその掛け声とともに、強い熱風が吹き荒れる。
肌が焼け、瞳が渇く。
これが彼女の切り札【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】。
直視することすら難しく、強力な札神が顕現したことが一目でわかる。
なお、ここでいう強力な札神とは2種類の意味があり、単純に強いカードだという意味と、カードについている神自体の力も、カードに書かれている説明以上に強く、それこそ現実に影響を及ぼせるクラスの魔法のカードという意味でもある。
現に、かの竜が招集されてからは、立体映像だけではなく、現実の力として風が吹きあれ、熱波がこちらまで押し寄せてくるほどだ。
強いのはわかったから、招集にかこつけてリアルアタックするのはやめろ、小石がバシバシ飛んでくるんじゃ。
「【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】の効果発動!!
【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】は招集時、自分の領土の数に応じたダメージを敵札神1体に与えることができる!
対象はそのうぜぇ青スライム!!【火礫弾】!!」
竜の口から炎を纏った岩が吐かれ、此方の札神が1体吹き飛ばされる。
それにより、自分の札神が爆散されてしまった。
スラオーン!!コスト重いくせに打消し持ちだから場に出たらただのバニラなスラオーンが!!
いや、そこはGを倒せよ。
ステータス低くても、こっちは効果もちなんだから。
「さらに!!【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】は【神速】もち!!
場に出てすぐに攻撃できる!!
スライム使いの雑魚メスめ!!覚悟しろ!!【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】で攻撃ィィぃ!!!!」
【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】は口を大きく開けながら、こちらへと突撃してきた。
さて、今の私のライフはまだまだ潤沢であり、
が、
具体的には、力ある札神カードで直接攻撃を喰らうと、システムでライフが減る以上に、現実の精神にダメージを負うのだ。
喰らったら一発アウトとまではいかないが、それでもプレイに支障が出る程度には痛い。
なので、防げる攻撃はきっちり防いでいこうと思う。
「即応奇跡【滑縛膜】発動。
これにより、【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】を封印。
攻撃も防御も、効果発動もできない」
「あ……」
攻撃が防がれたことにより、ギルナの表情にようやく影が生まれた。
ギルナの相棒にして切り札の竜は、巨大な粘液の膜に飲まれ動けなくなった。
その様子には、彼女もショックを受けたのか、ようやく悲鳴のような嗚咽を出している。
あーかわいそ、あーかわいそ。
だからといって、手加減する気はさらさらないが。
「私のターン。ドロー。
では場も整ったし、こちらもエースを出しましょう」
別にルールとして、エースを招集させるときに、前口上は必要はない。
が、大型詠唱はロマンであり、それをするかしないかで自分の札神のテンションも変わるため、基本的にし得である。
「模す者、写す者、全ての形を孕みし【真なる無】よ……。
今一度、その姿を借り、現界せよッ!
【終誕贋王ミミクリウス】、招集!!!」
詠唱と共に、黒く、巨大な軟泥が招集された。
一見変哲もない、大きくつややかだが、同時に闇を思わせるスライムではある。
が、これが只のでくの坊ではないことは、一目瞭然で、彼女ももう十分理解してるはずだ。
「じゃ、さっそくミミクリウスの能力を発動するわ。
場にいる札神1体のコピーとして場に出ることができる。
対象は【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】。
変わりなさい【ドッペル・チェンジ】」
「ひっ……!」
自分の掛け声と共に、ミミクリウスの体表がじわりと波打つ。
その身体は膨れ、ねじれ、溶岩色の鱗が滲み出る。
背骨が軋みを上げながらせり上がり、四肢が裂けて翼骨を生み出す。
それは本物より僅かに歪で、不気味なほど滑らかな動き。
だが、その眼光だけは紛れもなく“竜のそれ”だった。
「……終誕贋王、模倣完了。
【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】贋躯顕現」
闇と水の瘴気を纏った贋竜は、大地を踏み砕くと同時に咆哮を放つ。
音ではない、肉体に直接叩きつけられるような衝撃。
本物の炎熱に混ざって、濁った水蒸気が敵陣を呑み込む。
その偽竜は大きく喉を膨らませる。
「ミミクリウスの模倣は、能力すらもコピーする。
即ち、場に出た時に自分の領土の数に応じて、相手の札神1体にダメージを与える。
【偽・火礫弾】」
そして、その偽龍の口から、火炎に包まれた岩弾が放たれた。
岩弾は空気を裂き、直線の炎痕を残して一直線に標的へ叩き込まれた。
着弾と同時に爆ぜた火炎は、大地を抉り、周囲の戦域を赤黒く焦がす。
粘液の膜に囚われた本物のヴェルニグレイブは、
反射的に翼で身を覆おうとするも――遅い。
【偽・火礫弾】は膜ごと鱗を砕き、鈍い音と共にその巨体を地に叩きつけた。
「ああぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!」
己のエース札神がやられ、ギルナは悲鳴を上げる。
眼には涙を浮かべ、心が折れている。
今までの経験上、こうなった彼女にはもう対処札がないのはわかっている。
だからと言って攻撃の手を緩める理由にはならない。
倒せるときに倒す、それが真剣勝負の理である。
「【叛逆古竜ヴェルニグレイブ】は【神速】持ち。
当然竜と化した、我がエースもそれを持つわ。
それじゃぁ、もう一体と合わせて……いきなさい」
一匹のスライムの攻撃を喰らった後、迫りくる巨大な竜。
己の相棒と同じ姿をしているが、決定的に違うそれは、大きく監獄を揺らし、ギルナのライフと精神にとどめを刺したのであったとさ。