共に拓く、明日への道 作:単独行動 EX
◆
「フォウ……フー、フォーウ……」
「……この、鳴き声は……」
何かに、舐められた気がする。前と同じように、頬を。
「先輩、起きてください、先輩。」
呼びかけるこの声、どうやらあの娘は無事に。
「起きません。ここは正式な敬称で呼びかけるべきでしょうか……」
「………、────無事で、よかっ、た……?」
目を覚まし、身体を起こしながら身体を起こしたオレの目に映ったのは。
「良かった。目が覚めましたね先輩、無事で何よりです。」
「マシュ、だよね。改めて、無事で良かった。」
甲冑を身に纏い、大きな盾を持つマシュの姿であった。
「……その、想定外のことばかりで混乱しています。落ち着きたいところですが、今は周りをご覧ください。」
〔GI,GAAAAAAAAAAA!〕
「───言語による意思の疎通は不可能、適性生物と判断します。マスター、指示を。わたしと先輩の二人で、この事態を切り抜けます!」
指示って、何を……って、それどころじゃないか。
「オレは訓練も特に受けてない、戦略なんかはあんまり期待しないで欲しいけど、客観的に見て不味そうなことがあったら声を掛けるから、取り敢えずは自己判断で!」
オレ自身戦えるわけじゃない、だからと言ってマシュを戦わせるのは心苦しい、けど……甲冑で身を守ることができていて、あれだけ大きな盾を軽々と持ち上げる膂力なら、ある程度は問題も無いように見える。
「オレにできるのは、無理に戦闘を避けてジリ貧になるより、最低限の戦闘で安全を最大化すること……ッ!」
オレが覚悟を決めている間にも、マシュはひとつまたひとつと、骸骨の兵士を片付けて行く。射かけられる矢は盾で弾き、距離を詰めて盾を振りかぶる……あの盾、マシュが軽々持ち上げてるから感覚狂うけど、音的にヒト1人分は重さありそうだよなー……
「マシュ、こっちから見て敵の左側が薄い!重点的に数を減らして、離脱してから立て直そう!」
正直、これで良いのかはわからない。ただ、マシュから見えない情報を提供し、それを活かす。それ以外にできることはない以上、やるしかないんだろう。
「はい、先輩!25秒後、敵左翼から離脱します!用意を!」
■
「ん……ここ、は───」
目を覚ましたのは、燃える都市。周囲に危険はおそらくないが、管制室の記憶がフラッシュバックする。そもそも何故屋外に、というかそれ以前に、南極に居たはずなのにどうして都市部に居るのか。
意識を失う前の記憶を、必死に手繰る。
□
《アンサモンプログラム 実行。ファーストオーダー 実証を 開始します》
■
……って、ことは。
「レイシフト、しちゃったかぁ────」
立香の名前が呼ばれていたが……今日初めてここを訪れた立香と異なり、俺はおそらく元より登録済みであったのだろう。ま、そりゃそもそも俺はカルデアに───
─────何を、しに来たんだっけ。
◆
「お怪我はありませんか先輩。お腹が痛かったり腹部が重かったりしませんか?」
「オレは大丈夫、だけどその……マシュ、あんなに強かったんだね」
正直、驚いている。偏見があったのは認めざるを得ないが、複数の骸骨の兵士……?に囲まれ、無事に抜け出せるような戦闘力があるとは思っていなかった。
「───いえ、戦闘訓練はいつも居残りでした。逆上がりすらもできない研究員、それがわたしです。私が今、あのように戦えたのは「ああ、やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管制室だ、聞こえるかい!?」っ!こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。現在、特異点Fにシフト完了しています。同伴者は藤丸立香一名。心身共に問題ありません」
なぜ戦えたのか、はともかく、ドクターと繋がったのは安心か。
「レイシフト適応、マスター適応、ともに良好。藤丸立香を正式な調査員として登録をお願いします。」
「やっぱり立香くんもレイシフトに巻き込まれちゃったか……いや、待て。同伴者は1名と言ったかい!?彼は……椋くんは居ないのかい!?」
まさか椋この地に!?
「いえ、姿は見えませんが……まさか」
「立香くん、マシュ、よくコフィン無しで意味消失に耐え、無事レイシフトに成功してくれた。それは素直に喜ばしいことだ。あと、椋くんに関しても、バイタルが確認できている以上その付近には居るはずだ。それとその……マシュ、君が無事なのは嬉しいのだけれど、その格好は一体どういうことなんだい!?ハレンチ過ぎる!ボクはそんな子に育てた覚えはないぞ!?」
……その、ハイ。オレもそう思う。マシュみたいな子がこの格好してるってのも含めて、うん。
椋も無事なら一旦安心、かな。
「……これは、変身したのです。カルデアの制服では先輩を守れなかったので。」
変身、変身だと……
「変身……?変身って、何言ってるんだマシュ?頭でも打ったのか?それともやっぱりさっきので……」
「わたしの状態を詳細に確認してください。それで状況はいくらか分かりやすくなるかと。」
「詳細に?詳細って言ってもぉぉぉおおお!?なんだこれ!身体能力、魔力回路、全てが上昇している!これではもはや人間というより───」
「はい、サーヴァント、ですね。経緯は覚えていませんが、私はサーヴァントと融合したことで一命を取り留めたようです。今回、特異点Fの調査・解決のため、カルデアでは事前にサーヴァントが用意されていました。そのサーヴァントも先程の爆発でマスターを失い、消滅する運命にありました。」
サーヴァント……マスター……もう何が何だか……
「ですがその直前、私に契約を持ちかけてきました。」
「英霊と人間の融合、デミ・サーヴァント……カルデア6つ目の実験だ。それが、成功したと。では、キミの中に英霊のいしきはあるのか?」
混ざったみたいな感じ……?むしろ乗り移ったというか……寄生したみたいな?
「……いえ、彼はわたしに戦闘能力を託して消滅しました。ですので、私は自分がどの英霊なのか、自分が手にした武器がどのような法具なのか。現時点ではまるでわかっていません。」
力だけ、か……安心はできないしよく分からないけど、マシュの中に力が宿った、くらいの認識なのかな?
「……そうなのか。だがまぁ、不幸中の幸いだな。召喚したサーヴァントが協力的とは限らないしね。けど、マシュがサーヴァントになったのなら話は早い、なにしろ全面的に信頼がおける。」
まぁ、それは間違いない。しなかったらしなかったで死ぬだけだろうしね……
「立香くん、そちらに無事シフトできたのはキミと椋くんだけ、その上で無事を確認できたのはキミだけだ。……だが、安心して欲しい。キミには既に強力な武器がある。マシュという、人類最強の兵器がね。」
兵器、か。
「最強というのは、どうかと。たぶん言い過ぎです。後で責められるのはわたしです」
「まぁまぁ、サーヴァントはそういうものなんだ、って立香くんに認識してもらうならそれが1番だろう?」
捉え方の問題、なのか───?
「ただし立香くん、サーヴァントは頼もしい味方であると同時に、弱点も存在する。それは魔力の供給源となる人間……マスターがいなければ存在を保てない点だ。現在マシュのデータを解析しているが、それによればマシュは『藤丸立香のサーヴァント』として存在が保たれている。つまり、キミがマシュの主になるわけで、キミの初めて契約した英霊こそ、そこにいるマシュ・キリエライトということだ」
自分がマシュのマスターだとか、マシュが兵器だとか。
「あの、話についていけないんですが……」
「うん、当惑するのも無理はない。魔術周りこそ椋くんがしてくれたが、マスターとサーヴァントの話はできていなかったしね。良い機会だ。まずはそうだな……そこから2kmほど離れたところに、霊脈にアクセスしやすいポイントがある。なんとかそこまでたどり着いてくれ、こちらからの通信だけは確立しておきたい。実は今、
既に電力がじゃっか───」
あっ。
「切れちゃった、かな」
「切れちゃったみたいですね、先輩」
「フォ、フォムフォム……」
仕方ない、移動しながら少し話すか。
「移動、始めようか。サーヴァントとマスターについて、教えて欲しいな。」
■
「キャアーーーー!」
少なくとも人の声、目的のことは後回し!最低限戦えれば問題無い!
「大丈夫です、か───」
「なんなの、なんなのよコイツら!なんだって私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?もうイヤ、来て、助けてよレフ!いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」
オルガマリー、かぁ……立場だけ見れば味方なのは安心できるし、まぁなんとかはなるでしょ、とは思うけど───
「しゃーねぇ、俺が助けますよ所長!レフ教授じゃなくて悪かったね!」
飛び出したは良いけど、所長の周囲はある程度囲まれている。無策で突っ込んだらちょっと面倒そうだし……跳んで離脱が1番だな。三十六計逃げるに如かず、だ。
「あ、貴方今日の挨拶でサボっていた……!」
忘れてるなー!?
「命より礼儀、なんですか!?話はあとですよ!」
魔術回路(サーキット)に魔力を流し、身体能力を高める。
自身の骨を中心にし、世界への影響力を強めていく。
所長の元へ駆け、米俵の如く肩に抱え、る───
「ちょっ、何すんのよ!」
「暴れないでください、取り敢えず逃げますよ!置いていって良いならそうしますけど!?」
暴れんな、暴れんなよマジ……嫌になるぞ!?普通に。
「取り敢えずは無事なところまで連れて行きなさい!話はそれからよ!」
はいはい。ちょっとダルいわ。これの相手。
瓦礫の山を跳ね、跳ね、跳ね────
◆
「マシュ、さっきの悲鳴、こっちから聞こえたよね?」
「はい先輩。方角的には正しいはずですし、なんなら今も何か聞こえるような……」
「ん゛っ、ちょっ、加減っ、しなさいっ、よっ!」
これ、所長かなもしかして。
「所長ー!?居るんですかー!?」
マシュも呼び掛けているし、オレも声かけてみるか。
「所長ー!?大丈夫ですかー!?というか何されてるんですかー!?」
2人して叫んでいると……
「────無事だったか、よかったよ2人と、も……」
上空からオレとマシュの元に飛んで来た椋は何かに驚いてるけど、多分マシュだねこれは。
「あ、室伏さん!オルガマリー所長は……無事なんですか?」
だいぶグロッキーだなぁ……
「内臓もなにもかも攪拌されたわ。最悪の気分よ」
もしかしなくても抱えられて逃げてきたとかだろうね。
「何はともあれ、お怪我はありませんか、所長。」
見たところ外傷の類はなさそうだけど。
「………………どういう事?」
「所長?……ああ、わたしの状況ですね。信じがたい事だとは思いますが、実は───」
あ、説明がまだだったな。
「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ。わたしが聴きたいのは、どうして今になって成功したかって話よ!いえ、それ以上に貴方!貴方よ!私の演説に遅刻した一般人!なんでマスターになっているの!?サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!アンタなんかがマスターになれるハズないじゃない!その子にどんな乱暴をして言いなりにしたの!?」
誤解にも程がある!
「そんなこと言われてもこっちだってわかりませんよ!気付いたらこんなところにいて、助かるかも分からなかったマシュは無事で、かと思ったらマスターだサーヴァントだ、なんて言われて!」
「ええ、それは誤解です所長。先輩に対して強引に契約を結んだのは、むしろ私の方です」
あ、やっぱりけっこう強引だったんだ。契約っていう割に意識ないうちに一方的に結ばれてたし……
「なんですって?」
「経緯を説明します。その方がお互いの状況把握にも繋がるでしょう。椋さんも一緒に、お願いします。」
「あ、俺もう喋ってもいい?所長もヒートアップしてるし、茶々入れるのもなぁと思って。じゃ、状況確認から入ろうか」