共に拓く、明日への道 作:単独行動 EX
◆
「起きて!椋!椋!?」
「待ちなさい、待ちなさいよ何が起きてるの!?違う、まずは生命の確認!マシュ、ロマニに繋いで!」
「繋がっているよ、安心して欲しい。……というか、椋くんも無事だよ。魔力がほぼカラになってるだけだし、しばらく休ませてあげれば大丈夫だと思うよ。」
……よかったぁ。オルガマリー所長もそうだし、マシュもそうだけど、あの場でせっかく生き残ったんだし、目の前で仲良くなった人が死ぬのなんて見たくない。
「それで、様子を見るに英霊召喚を行ったんだろう?立香君のバイタル的にそちらは失敗したようだけど、椋くんは一体何を召喚したんだい?彼の魔力がカラになってる様子を見るに、相当なものが召喚されていそうだけれども。」
……何も、見ていない。
「成功していると、言うの、ロマニ」
「待ってください、それでは椋さんに喚ばれたサーヴァントの方は一体今は……!」
逃げ、た……?
「おいおい、嘘だろう!?バーサーカーでも喚んでしまったのか!?……いや、それならマリー達が無事なのは不自然だ。無事ならこちらに敵対はしていないだろう。ただ、契約ができていない以上魔力のパスが繋がっていないし、幸か不幸かサーヴァントの現界はそう長く続くことはないだろう。退去してしまうのは惜しいが、マスターとして英霊を召喚することが可能、と分かっただけでも収穫だろうとも。」
成功というか失敗というか……なんとも言えない、かな。
「取り敢えず、室伏を死なせるわけにも行かないし、背負って運ぶわけにもいかないでしょう。霊脈の直上で環境も悪くないわ。ここをキャンプ地とするわよ。マシュ、立香。2人でひとまずは周辺の警戒と環境の整備をしなさい」
■
「ッあ……はぁ……」
全身の汗と共に目を覚ます。果たして夢によるものか、はたまた周囲の火の手のせいか。
「椋、起きた!?」
「立香、か。何があった?」
召喚自体は成功した、らしい。
「召喚できたはずの英霊が、その……」
近くにいない、と。
「契約をしていないなら、そう長くは保たないだろうから、良くも悪くも影響は小さいだろうってドクターが」
「ああ、起きたのね室伏。私を助けるくらいはできる数少ない貴重戦力だし、無事なのは何よりだわ。とはいえやっぱり、一流には程遠いわね。召喚した英霊に契約すらできず逃げられてしまうなんて」
契約、契約か……
「この右手は?」
そう言って椋が見せた右手の甲には、三角からなる赤い紋様が。
「私と同じ、と言う事でしょうか。……その、強引に契約した、と言う意味です。私もそうでしたが、マスター候補の意識が失われている状態だったのでいくらか強引な契約も結ばれやすいものかと。」
マシュも戻って来たようだ。強引に契約……コレは俺、大丈夫なのか?体外から魔術回路に干渉できるのは健全とは思えないが……
「契約ができているなら問題無いわよ。逃げられているのは変わらないけれど、契約ができているなら令呪が効くわ。……令呪、分かる?」
「オレ達は……」
「分からないかな……」
知っていたのかもしれないけど、今は少なくとも記憶にない。
「仕方ないわね。それじゃあ説明してあげるわ。英霊召喚の仕組み───クラスの分類なんかは室伏が寝ている間に説明しておいたわね。それに並ぶ、英霊召喚の基礎知識よ」
分類……あぁ、それは覚えているらしい。多分、英霊そのものを呼び出すのは身に余るからクラスという枠に当てはめることで制御を行う、というものだろう。
「マシュと藤丸、そして室伏と謎のサーヴァントの間にはマスター契約が結ばれているわ。そして、サーヴァントは飽くまでマスターの意思に従うものとされているわ。実際、サーヴァント自身の性格もマスターに少なからず影響を受けた状態で召喚されるから、大幅に指示から逸れることは無いけれど、飽くまで他人である以上、ゼロとは絶対に言えないでしょう?」
それは、そうだろうな。むしろ性格とかは少しであっても捻じ曲げられているのか……
「だから、それを防ぐ仕組みであったり、あるいはサーヴァントがマスターを害することを許さないための仕組み。それが令呪よ」
言うことを聞かせる、みたいな?
「令呪の役割はそれ。内容としては絶対の命令権よ。多くの場合は聖杯からの魔力提供によって英霊召喚と令呪の付与は行われて……あぁ、なるほど。室伏が倒れたのはそれが理由なのね。藤丸は失敗してこそいるけど、マシュのお陰で霊脈にアクセスしての召喚なのに対して室伏は自らの魔力を流したから、と。納得したわ。やっぱり一流とは程遠いのね」
ボロクソ言われてる……まぁ俺の落ち度か。
「オレ達の場合はその……どうなっているんでしょうか」
確かに、本来の聖杯からの魔力提供での召喚でも契約でも無いのなら、令呪の扱いはどうなのだろうか。
「……レアケース過ぎて分からないわよ!知るわけないでしょうそんなこと!そもそもマシュと藤丸も室伏とそのサーヴァントも、契約している場面すら見ていないのにわかるわけないでしょう!?」
無茶振り過ぎたか。
「……いやまぁ俺らが無知なのはしょうがないんだけどさ、もうちょいイライラ隠せない?所長は」
自分にだけ戦闘能力がないと言うことをもう一度考えてはくれないだろうか。
「いえ、所長の癇癪にも同情の余地ありです。失礼ながら、椋さんと立香先輩はカルデアについて無知が過ぎます。まったくもって困ったさんです。うっかり迷い込んだレベルです。ほぼネコと同義です。」
猫て。
「───まぁ、わたしも同じようなものですが。勤めて2年ほど経過しますが、よくわかりません。のんびり忍び込んだレベルです。ほぼワニと同義です。」
「そ、そうなんだ。」
「俺らも大概だけど、マシュも知らない方なのかよ……Aチームじゃなかったっけ?」
「はい。わたしはAチームの所属でしたが、知識はカタログ程度です。でも先輩達のために復唱しますね。」
まぁ、知れるだけでもありがたいか。
「人理保障機関カルデア。正しくは人理継続保障機関フィニス・カルデア。人類史を長く、何より強く存続させるため、魔術・科学の区別なく研究者が集まった研究所にして観測所。人類の決定的な絶滅を防ぐために、各国共同で成立した特務機関なのです。」
んー、ワニよりは詳しいかも。
「マシュは詳しいんだね」
俺らとは違ってな……
「カルデア設立の出資金は各国共同でこそありますが、7割はロンドンの魔術協会───アニムスフィア家が出資しています。オルガマリー所長のご実家ですね」
わおボンボン。
「カルデアは研究施設でこそありますが、その重要性から内部機密は軍隊レベルのそれです。大変厳しい規律と罰則が敷かれていますので、所長の横暴さですらむしろ控えめと言えます。所長は悪党ではありませんが悪人です。気に入らないスタッフは平気でクビを切ります。」
それ悪人で済ませて良いのかな。
「あ、いえ、どうでしょう。性格が悪い人、を悪人と言って良いのでしょうか。……すみません、おしゃれな台詞回しとか、ちょっと慣れていないので」
おしゃれというかなんというか……会話に慣れてない?
「あのねぇ、好き放題言ってくれるけど。本人が目の前に居るのよ?もう少し歯に衣着せなさいよ」
「まぁまぁ、マシュも立香くんも椋くんも。ボクからも言わせてくれたまえ。所長……オルガマリーも複雑な立場でね。もともとマリーは君たち同様、マスター候補の1人だったんだ。でね、3年前に前所長……彼女のお父さんが亡くなって、まだ学生だったのにカルデアを引き継ぐこととなった。そこからは緊張の連続だったことだろう。アニムスフィアの家を背負うことになったんだ。」
家を背負う、か……
「マリーはカルデアの維持だけでも精一杯だった。そんなとき、カルデアスに異常が発見された。今まで保障されていた百年先の未来は見えなくなって、協会やスポンサーから非難の声が山のように届いた」
家を背負う、矢面に立つってことだもんな。
「加えて、ついてないことに彼女にはマスター適性がなかった。名門中の名門、十二のロードの一家。魔術協会の天体学科を司るアニムスフィア家。その当主がマスターになれないなんて、スキャンダルもいいとこだろう?どれだけ陰口を叩かれたか想像に難くないし、マリーにも当然届いていただろう」
……それは、違うだろう。せめて陰口は陰ですませなくちゃダメだ。
「そんな状況でも彼女は所長として最善を尽くし、この半年もギリギリで踏みとどまっている。実際、キャパオーバーしてるんでメンタルケアに来て欲しいんだけど、中々都合がつかなくてね。そんなわけで彼女は心身共に張り詰めている。キミ達に辛く当たったのは、何もキミ達が嫌いな訳じゃないさ。」
「……正直、俺としても悪い人じゃないのは分かってる。だからわざわざ助けたしね。折角なら話しやすい雰囲気になってほしいなぁ」
「うん、オレからしても所長の対応は所長としての責任だけじゃなく、1人の人間として命を重んじる姿勢に見えた。悪い人には見えないかな」
意識の一致ができたのは嬉しいかな。チグハグだと協働するにも支障が出るし。
「そう言ってもらえるとボクも嬉しいんだけど、飽くまで所長は悪人だよ?ただ外道とか残忍とか、クズとかゲスじゃないのは保証できる。根はどこまでも真面目だから」
……中々に散々な言われようだけど、大事にはされてるんだろうな。
◆
そもそも、ここは一体いつの何処なのだろうか。
オレから見れば、まるで戦時中みたいなものだけど。
マンションとかが当たり前に立っているってことは2000年以後だろうとは思う反面、知る限り2000年以降に大きな戦争や大規模なテロなんかは無かったはずだし、大規模火災なんかにしたって人がいなさ過ぎる。
「そういえば、ここっていつの何処なの?椋とドクターの説明、あと現状でレイシフト自体はなんとなく分かったんだけどそこは分からなくて」
「それは……はい。私からも疑問があります。所長、質問をよろしいですか?」
「ええ、答えられる限りなら答えるわよ」
「資料にあった冬木の街と、この冬木の街はあまりにも違います。その違いは、何故生まれているのでしょうか」
冬木という土地、なるほどね。よく知らないけど一応場所の特定はできているのか。
「……そうね。きっと歴史が僅かに狂ったのよ。そうとしか思えない。カルデアは、カルデアスという地球モデルで未来を見る、同時にラプラスという使い魔で過去の記録を集計する。公にならなかった表の歴史、人知れず闇に葬られた情報を拾って来るのがラプラスの仕事と思えば良いわ。そのラプラスによって、2004年のこの街で特殊な聖杯戦争が確認されているのよ」
聖杯戦争……?と思っていたら、マシュが同じような疑問を投げかけていた。
「聖杯とはその、伝説上にある聖杯ですかね?所有者の願いを叶える万能の力、あらゆる真術の根底にあるとされる魔法の釜ですか?」
7つ揃えると願いが叶う竜の玉、みたいな立ち位置なのかな?
「冬木の街にいた魔術師達が聖杯を完成させ、その起動のために7騎の英霊を召喚した───それが聖杯戦争の始まり。この街では人知れずサーヴァントが呼ばれていた。7人のマスターが競い合い、最後に残った者は聖杯を手にするというシステム。カルデアがこれを知ったのは2010年、お父さ……いえ、前所長はこのデータを用いて召喚式を作った。それが先程のカルデア式英霊召喚システム・フェイト。ラプラス、カルデアスに続く第三の発明よ。この発明の凄いところは、本来の聖杯と同様に現代の一般常識を知識として与えた状態での召喚を可能としているところで───」
なるほど、願いを叶える権利のために7人で戦う、と。
「立香、ついていけてる?」
あ、椋。
「オレはまぁ、聖杯戦争までは。魔術だ発明だ、に関しては怪しいかな」
マシュと所長の話に着いて行けなくなったので、分かる範囲内で会話を広げる。
「俺も。あーでも、英霊なんて召喚しててなんで人知れず、なんだろうな……普通に考えれば、今の冬木みたいに戦地みたいに、ってもしかしてそういうこと!?」
所長が言ってた歪みがそれ、ってことなのかな。
「本来上手く隠せてたハズの聖杯戦争が、何か本来あり得なかった歪みでこうなってる、ってこと?」
……マシュの戦闘を見ていると、サーヴァント同士の戦闘なんて簡単に露呈しそうなものだけれど。
「あーそこ、その話よ。その話をしようと思ってたの」
あ、所長も入ってきた。オレらの気付きは合ってたってことで良いのかな?
「街は破壊されることなく、サーヴァントの活動は人々に知られることなく終わったハズなの。……なのに、今はこんなことになっている。特異点が生じたことで結果が変わってしまったと見るべきね。2004年のこの変化が人類史に影響を及ぼして、その結果100年先の未来が見えなくなった。だから私たちはこの異変を修復しなくちゃいけないの。この領域の何処かに、歴史を狂わせた原因がある。それを解消すればミッションは完了。現代に帰れるわ」
……なるほど。あ、そういえば。
「さっき、カルデア式英霊召喚システムって言ってましたけど。カルデアでは英霊を召喚したんですか?」
資料では3体だけ呼び出せたらしいけれど、わたしは2体しか見ていないわ。前所長の頃に第1号。私の就任以降2号と3号。その2号がマシュと融合した英霊よ。3号は……会ってからのお楽しみ、とでも思っておいて。」
「マシュと融合した英霊……一体誰なんだろう」
マシュに力を貸してくれるなら、それこそ悪い人ではないと思うのだけれど。
「待ちなさい立香、マシュ。もしかしてその……マシュと融合した英霊の真名を知らない、なんて言わないわよね?」
何かマズいのかな?知らないままでも戦えているし問題だとは思っていなかったんだけど……
「真名知らないのって何か問題なの、所長?例えばそうだな……車の仕組みは分からないけど運転の仕方は分かるみたいな感じじゃダメな感じ?立香とマシュは既に“車の運転”なら身に付けてるみたいだけど」
「……その、申し訳ありません。所長にも椋さんにも、先輩にも隠していました。戦闘に現状問題は出ていませんが、私が彼あるいは彼女の真名を知らないが故に、彼の英霊が持つ切り札───『宝具』と呼ばれるスペシャルアーツの性能を発揮できません。その、隠していたこと、申し訳ありませんでした」
宝具?スペシャルアーツ……必殺技?
「要は上手く必殺技が出ない、って話か。」
あ、やっぱり必殺技の認識でいいんだ。
上手く出ない、か……
「それってさ、これから先も絶対そのままなの?成長すれば使えるようになったりはしないのかなって」
「立香、そりゃ難しいだろ。サーヴァントは成、長……しないけどデミサーヴァントだもんな。マシュの場合。どうなんです?所長」
「……そもそも、マスターは契約したサーヴァントのパラメータやスキル、マトリクスなんかを解析できるものよ。藤丸……契約者がマスターとして一人前になれば、マシュのサーヴァント情報も解析できるハズよ。」
オレが1人前だったら、マシュも本気を出せたのかな……
「これはこの先他のサーヴァントと契約した時も同じ。まずはサーヴァントの真名及び宝具を知ることから。信頼が増す程にサーヴァントの能力は上がっていくわ。ま、アンタにそんな才能はないでしょうけど。マシュを上手く使えないのもその証拠ね。」
こ、ことばがつよい……
「カルデアのレイシフト機能が回復すれば、一流のマスターをシフトさせるわ。そうなればあんたはお払い箱よ。実戦経験もない素人はカルデアの隅で震えていなさい。」
……言い方は散々だけど、でも。
「もしかして心配してくれてるんですか?」
「あ、当たり前でしょう!今は貴重な戦力なのよ!?貴方がやられるだけで生存率が大きく下がるのよ!もう少し考えて物言いなさい!」
あ、ほんとに心配してくれてたんだ……
「所長、悪いこと言わないんで言葉選びはストレートな方がいいですよ。立香、結構すごい顔してます」
「……互いに理解度が上がったようで結構です。が、周辺には相変わらず敵性反応はないものの、警戒するに越したことはありません。新手が来る前に移動しましょう。」