早朝、夜が明ける頃自然に目覚めた。…というか環境の変化であまり上手く寝付けなかった。私はベッドから降りて顔を洗い、外に跳ねてしまっている寝癖を直して制服を手に取る。
「…制服、これか。けっこう可愛いかも」
黒い丸襟のセーラーに幅が広めのネクタイ、アイボリーのセーターと制服にしては短めの黒いプリーツスカート。指定の靴も普通のローファーではなく、少し踵のあるデザインで洒落ている。靴下は自由らしいが素肌を見せる気にはあまりなれず薄手の黒いタイツを履いた。ハートホルダーの装着もして、焦茶色の革でできた高級そうな鞄を背負ってみるとどこからどう見ても私立の学園に通うお嬢様だ。
鏡の前の自分に満足し鞄を背負ったまま珈琲を飲むためにリビングに向かう。
「おはよう、シャンティちゃん」
バニラが先に居た。制服にルーズソックスを合わせて顔も髪も整えて準備バッチリだ。珈琲を淹れながらバニラに聞く。
「おはよう、バニラ。ショコラは?」
「今髪を整えてる、人間の女の子らしくしてみようって言ってたよ」
「おっはよー!」
噂をすれば本体、元気にショコラがリビングに来た。前髪をハートのゴムで結んで制服にボーダーのオーバーニーソックスを合わせたスタイル。
「2人もバッチリじゃん!学校、楽しみだね!」
バニラが剥いてくれていたリンゴを頬張りながらショコラが言う。みんなで朝ごはんを食べて珈琲も飲み終わった頃
「おはよう、マドモアゼルたち」
視界の端に紫色の影が映ると同時に人の声。瞬間移動で転移してきたロビンだ。紫のシャツに白いスーツ。派手な格好だ。
「おはよう、ロビン」
「おはようございます、ロビン先生」
「おはよう、ロビンさん」
「さて、学校に向かうぞ」
4人で家を出た。
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「ハイッ質問です!」
今日から私たちが通う小中一貫校。【私立萌黄学園】と書かれた学校の入り口に着いた時、ショコラがロビンに問いかけた。
「今日からハート取ってもいいの?」
「フフン、もちろんいくらでも」
周りの人間たちに聞かれないように声を潜めながら話す。
「ああ、ちなみに人間界での名前は「加藤ショコラ」「愛須バニラ」「夢咲シャンティ」だからな。日本語として不自然がないようにオレが考えた」
…不自然しかないだろう。名字を考えるならなぜ一緒に違和感のない名前も考えなかったのだろうか。そんな事を思いつつ建物の中を歩き職員室の前に来た。
「失礼します」
ロビンが扉を開ける。職員室に居た教師たちが声の方向に目を向けて一瞬静まり
「…うそ!転校生の父兄ってロッキンロビンなの!?」
「あたし大ファンなの!」
「ていうか子持ち!?」
一気に騒ぎ出した。
「この人…ホントに人気があるんだね」
「今朝テレビにも出てたよ…コマーシャルってやつに!」
「ロビンの顔見た瞬間にこれなんだ…」
その状況に圧倒されている私たちにロビンは冷静に指示を出す。
「よく見ていてるんだよ、3人とも。覗きメガネを作って」
「?…でもあれは変身を見破る時の…あっ!」
すぐに行動に移したショコラが気づいた。その反応を見て私とバニラも覗きメガネを作る。右手でピースを作り人差し指と中指を通して対象を見て、すぐに気づいた。先生たちの胸にハートが光ってる。私たちがハートを見た事を確認したロビンは呪文を唱える。
「エクスターズ タンタシオン
お前のハートを オレにくれ!」
覗きメガネでしか見えなかった先生たちの胸元で光っていたハートが結晶/物質化し職員室中、ざっと数えても10個以上がロビンの元に流れ星のように集まった。
「じゃあ教室へ行きましょうか」
「えっと、みんな5年生だったわね」
さっきまでの盛り上がりは何だったのか、急に冷静になっている先生たち。どういうことかとロビンに視線を向けると彼は小声で私たちに言う。
「ハートを取られると感情の昂りが治まるのさ、じゃあ頑張れよ」
言い残してロビンは帰って行った。
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「今日転校生が3人もくるんだって!」
「みんな女の子らしいよ!」
「オレさっきちらっと見た」
3人の先生に引率される私たち。転校生が来るというのはもうみんな知っているらしく、周りの教室から子供達の声が聞こえてくる。私たち3人はバラバラのクラスになるようで、ショコラは5-A バニラは5-B 私は5-Cの教室へ。
「はい、皆さん。今日からこのクラスに編入する転入生を紹介します。夢咲さん。自己紹介を」
「あ、はい」
1クラス30人ほどだろうか、みんなの目線が私に釘付けになる。
「おはようございます。夢咲シャンティです。学校の分からないことをきっとみんなに色々聞くと思います、これからよろしくお願いします」
笑顔で当たり障りのない無難な自己紹介。会社の部署異動の挨拶みたいと思いながらおじぎをして顔を上げて、髪を直す動作と一緒に覗きメガネで一瞬クラスメイトを見てみる。
「…うそじゃん」
オレンジ色のハートが2つ見えた。こんな大人数の前で初めての魔法が成功するか心配になり一瞬躊躇うがチャンスは逃せない。
「シィブル=フィクス!」
結界を張り目標を固定する呪文から唱える。その場にいた全員の動きが止まりしっかり呪文が効いている事を確認。
「シュガシュガルーン シャンルーン
君たちのハート いただきます」
2つのハートが結晶化し左手首の時計の中に収まった。それと同時に結界が解けて皆の時間が動き出す。魔法が成功した安堵と自己紹介だけで2つハートが手に入って私のテンションは上がった。まあまあのスタートではないだろうか。そのまま指定された席に着いてさりげなくクラスの人数を数える。男子15人のうちの2人が私に何らかの感情を向けたらしい。
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「おっかしいなー!全然ハートが集まらないんだけど!この学校変じゃない?あたしがぶっ飛ばすって言ったのにぜーんぜん男の子が寄ってこないの!」
昼休み、ロビンが様子を見に学校に来てくれて中庭に集まった私たち。ショコラは思った反応がクラスメイトから返ってこなかったようで戸惑っている。
「まーそうだろうな…バニラは?結構集まったんじゃないか?」
「あ、呪文どわすれしちゃって…」
「シャンティは?」
「オレンジ2つ取れた」
「えっ?取れたの?てゆうかロビン、なによあたしが取れないって分かったような言い方して…」
ロビンの言い方に苛立つショコラ。
「オレはこれからコンサートでごっそりハートを集めてくるからショコラとバニラもせめて明日までに1コ。できなかったらおしおきだぞー」
「…バニラ、泣いてたんでしょ?」
ロビンが去った後、ショコラはバニラに聞く。
「うん…でも変だよね、喋れなくて下向いてたのにモテるわけないもん」
「そうだよ、泣くなんて魔界ならモテるどころかトマトとかぼちゃが飛んできて大ブーイング!シャンティは?どうして取れたの?」
「当たり障りない自己紹介だったけどなぜかハートが光った」
「そんなことある?あたしなんて睨んだし脅したしバッチリの自己紹介のはずなのに…」
「うん、だからまぐれだよ。16コも光るわけないもん」
バニラの発言にショコラは絶句し私も固まる。バニラはクラスの男子全員から何かしらの感情を向けられたってこと?
「ほら、あの子たち」
「うわーかわいい」
「あの子バニラっていうんだって!」
「一緒にいるのは?」
「もう2人の転校生」
気づくと中庭にいる私たちを上階の窓から見ている子たちが何人もいる。話してる内容も正直丸聞こえ、かなりの話題になっているようだ。私が上を向くとショコラも上を睨む。
「うおっこっち睨んだ!」
「逃げろ!」
一気に散り散りになる男子たち。
「…ショコラ、一体どんな自己紹介をしたの?」
「言うこと聞かない奴はぶっ飛ばすって言った」
「ああ…」
人間界の男子たちにその挨拶は刺さらなかったようだ。
順調な出だしのシャンティでお送りしました。
✧補足✧
シィブル=フィクス
ハートを取る前に目標を固定する為のオリジナル呪文