アグロデッキから始まるカードゲーム学園生活 作:レッドゾーンX
「うお、すっげぇ……! こんなに大勢の人と精霊が揃ってるだなんて……!!」
光に飲まれたと思った次の瞬間には、俺はアカデミーが用意した会場に到着していた。
そこには百を余裕で超える人数の新入生たちと、彼らと契約するために集まった各世界の精霊たちが集まっている。
特に精霊側は生徒の倍以上の数が揃っていて、多種多様なその姿を見るだけでも興奮で胸が高鳴ってしまうくらいだ。
既に大勢の生徒たちが精霊たちと交流し、その能力や自分との相性を確認している。
初めての契約であり、これから自分が作るデッキの方向性を決める重要な選択だからこそ、慎重になっているんだろうなと考えるのと同時に、精霊側も俺たちを値踏みしていることが感じ取れた。
(人間は精霊と契約することでCDを通じて自分を磨き、精霊もまた人間と共に戦うことで自分の中の新たな可能性を引き出す……契約っていうのはお互いに利益があると判断できて初めて交わせるもので、一方的な好意だけじゃダメなんだよな)
改めて、この世界とCDにおける基本を思い出した俺は、ここが自分の想像以上に真剣な契約の場であることを理解し、気を引き締める。
同時に精霊たちから離れて様子を窺っている一部の生徒たちの姿を目にした俺は、彼らは特別枠の人間なんだろうなと思った。
特別枠……主に名家や上流階級と呼ばれる家の出身で、一族ぐるみで契約している精霊がいる生徒たち。
ここで契約する精霊を見つけずとも、家で既に用意されている精霊がいて、その力を十全に発揮できるデッキもまた用意されている人たちのことだ。
当然、恵まれた環境とリーダーカードに加え、デッキの回し方を理解している彼らは全員、新入生と思えないくらいに強い。
実際に戦ったことはないが、ホビーアニメでいったらライバル枠か序盤の噛ませキャラ的ポジションを担当する奴らなんだろうなと考えていた俺は、顔立ちの整ったお姫様のような女の子と目が合った。
ほんの一瞬のことだったが、俺からの視線に向こうも気付いたようだ。
嫌な顔をせず、にこりと笑みを返してくれた彼女の反応に、彼女いない歴=年齢×2である俺はドキッとしてしまう。
(い、いかん……! 今は精霊との契約に集中しなければ……!!)
そう、気を取り直した俺はぶんぶんと首を振ってから、集まっている精霊たちの方へと歩き出した。
ある程度、種族で固まっている彼らをやや遠くから見つめながら、迫力あるクリーチャーたちの姿に俺は心を躍らせる。
(誰と契約しようかな~!? やっぱ王道のドラゴンは格好いいし、攻めに特化した獣系もいいよな~! 逆に天使系は防御が固いコントロールデッキを組めそうだし、悪魔系の墓地活用デッキも捨て難い……! ドロー効果が豊富なメカ系もありか? 普通に人間族も使いやすくていいしな~!)
翼の生えたドラゴンに反目する天使と悪魔、獣人にロボットに鎧を纏ったファンタジー世界の人間たち……と、集まっている精霊たちはまさに多種多様といった感じだ。
この中の誰と契約し、どんなデッキを組むか? それを考えただけでも、カードゲーム好きとしては興奮が治まらなくなる。
でも今はとりあえず、クリーチャーたちの雄姿を堪能させてもらおうと考えながらドキドキわくわくと胸を躍らせていた俺であったが、どこからか気になる声が聞こえてきた。
「なんだよ、このゴミ精霊! マジで弱いじゃねえか!」
「な、なんだと!? キサマ、この俺になんという無礼を……!!」
「ん? なんだ……?」
ちょっと物騒なその会話を聞いて眉をひそめた俺は、その声が聞こえてくる方へと歩いていく。
そうすれば、三人組の生徒が一体の精霊を嘲笑を浮かべながら馬鹿にしている姿が目に映った。
「誰がゴミだ! 誰が弱いだ! 俺は牙王オウガだぞ!? その発言、今すぐ取り消せ!」
「何が牙王だよ? 雑魚過ぎて使い道なんて思いつかないレベルの弱さじゃねえか! お前みたいな雑魚、契約相手の候補にすらならねえよ!」
そんなふうに嘲りの言葉を吐いているのは、大柄な男子生徒だった。
取り巻きである二人の男子生徒を従える彼は、見るからに脳筋といった感じで、見てくれの通りの粗暴な雰囲気がある。
そして、そんな彼に罵倒されているのは、鎧を纏ったやや小さめの黒い鬼だった。
「くそっ! くそっ! なんて屈辱だ! 牙王と呼ばれたこの俺が、人間に見下されるとは……! 本来ならば俺は、この場にいるどの精霊よりも強大な力を持っているんだぞ!」
「はっ! そうかよ! にしちゃあ残念過ぎるスペックじゃあねえか! 嘘を吐くにしても、もう少しまともな嘘にしろよな!」
着ている鎧も、体にも、無数の傷が刻まれているその鬼は、悔しそうに地団太を踏みながら大声で叫ぶ。
大柄な男子生徒は精霊のことを馬鹿にしながら受け流していたが、ちょっと気になった俺はその鬼のような精霊に声をかけてみることにした。
「なあ、ちょっといいかな?」
「ん……? なんだ、お前は?」
「今の話が聞こえてきてさ。少し君のことが気になったんだけど、能力を見せてもらってもいいかな?」
「お、おお! いいぞ! このオウガ様の力を見て、恐れ戦くといい!」
そう言った鬼の精霊……オウガが自身のリーダーカードを生成し始める。
彼を待っている最中、オウガと話をしていた男子が声をかけてきた。
「おい、お前。やめといた方がいいぞ? そいつ、マジで弱いから」
「素直にマサルさんの忠告を聞いとけって。俺たちも見たけど、本当に救いようのない雑魚だぜ?」
一応、彼らは俺に忠告してくれているのだろう。
だが、同時に声をかけてきた俺にフラれて凹むオウガを見たいという邪な想いもひしひしと伝わってきていた。
「よし、できたぞ! 刮目せよ! これが俺の力だ!」
マサルと呼ばれた男子とその取り巻きたちに曖昧に返事をしたところで、オウガはリーダーカードを生成し終えたようだ。
ありがとうと伝えつつそれを手に取った俺は、真っ先に目に飛び込んできた数字を見て、驚きの声を上げてしまった。
「パワー、たったの1000!? 嘘だろ!?」
「ぐうっ……!!」
思わず出してしまった叫びを聞いたオウガが悔しそうに顔を歪ませ、マサルたちは腹を抱えて笑い始める。
ちょっと彼に申し訳なく思った俺だが、この深刻かつ重症としか言いようがないパワーを前にすると、真面目に考え込むしかなかった。
(CDにおけるリーダーカードのパワーは、基本的に5000だ。そんな中で1000……ちょっとこれはしんどいぞ……?)
ぶっちゃけ、ちょっとどころじゃない。かなりヤバい能力値だ。
リーダーカードはプレイヤーの分身となるカードで、自分が攻撃する時はもちろん、相手の攻撃を受ける時もそのカードのパワーが参照される。
パワー1000というのは、最序盤に出すコスト1のサーチカードや超軽量のブロッカーと同じくらいの能力値だ。
つまり、普通のリーダーならば歯牙にもかけないそんなカードたちが相手でも、このオウガがリーダーだと普通に脅威になってしまう。
場に出したターンは召喚酔いがあるからいいとして、下手をすると2ターン目には相手から一方的に殴られかねない……パワー1000のリーダーというのは、そういうリスクがある本当にヤバいカードなのだ。
「な? 俺が言った通りだったろ? このとんでもない雑魚リーダーじゃ、勝てるデュエルも勝てなくなるって!」
「ぐっ、ぬぅぅ……! ぐぬぅぅぅぅぅぅ……っ!!」
(……どうしよう。擁護してあげたいけど、結構マジで厳しいな……)
悔しそうに俯いて唸るオウガが可哀想に思えたから反論したかったが、マサルの言うことは結構正しいから困る。
それくらいこの最底辺のパワー持ちのリーダーカードというのは厳しいのだと、オウガの扱いにくさを感じる中、悔しさに呻いていた彼が再び叫んだ。
「どいつもこいつも、俺を見下して! 俺は牙王オウガだぞ!? 万全の俺と組めば、世界の王になることだって夢じゃない! それだけ強大な力を持っているはずなんだ! それなのに……っ! くそっ!!」
「世界の王だぁ? ふざけたこと言ってんじゃねえよ! お前みたいな奴と組んだら、最底辺まっしぐらに決まってるじゃねえか!」
強情というか、意見を曲げないというか……マサルから何度も罵倒されているというのに、オウガは自分は牙王という称号を持つ強い精霊であると言い張り続けている。
マサルとその取り巻きはそんなオウガを笑っているが、俺はそこまで言い張る彼のことが結構気になってきた。
(もしかしたら今は何らかの理由で弱体化してるだけで、本当は強いクリーチャーなのか……?)
そういう事例があると聞いたことがあるし、元の世界で見ていたカードアニメとか漫画でも似たような設定はあった。
1から100まで存在しているナンバーが付いたカードたち(100体で済むとは言ってない)を倒す度に相棒的存在の記憶が戻っていったように、デュエルの経験を積むことでオウガの強さが戻っていくのかも……と考えたところで、俺は大事なことに気付く。
(そうだ、まだパワー以外の能力を確認してないじゃん!)
リーダーカードなのにパワーが最底辺というインパクトで思考が停止してしまっていたが、大事なのはカードの総合力だ。
オウガと同じくパワーは1000の最底辺で、『このカードは可能ならば毎ターン攻撃する』とかいう地味にデメリットっぽい能力を持っているだけのカードが登場から二十年以上現役を張り続けるカードゲームがある。
一見すると弱そうにしか見えないカードが、他のカードとの組み合わせやデッキの構築によって大化けすることもあるからこそ、カードゲームは面白いのだ。
(色は赤か。攻めに傾いてる属性で良かった。ライフは……うん! ちゃんと5あるじゃないか!)
一つの要素だけでオウガを評価してしまっていたことを反省した俺は、早速他の部分に関しても確認を始めた。
まずは色。これは大まかな戦い方を表す部分だ。
オウガの色は赤で、ついでに種族は魔族。後者はともかく、前者に関しては大きいと思う。
これが盤面を支配するコントロールデッキがメインになる黄色や、能力を活かすために墓地肥やしが必要になることが多い黒だったら、1000というパワーがとんでもない縛りになるところだった。
続いてライフだが、こっちはしっかりと通常のリーダーカードの平均である5を持っている。
パワー同様に最底辺の1とかだったらもうどうしようもなかったが、こっちは問題なさ気なのは大助かりだ。
そして最後、一番肝心な部分。
リーダーとなるオウガが持つカード効果へと目を向けた俺は、実に短いその文章を読んで小さく息を飲んだ。
《
『ライフ:5』『種族:魔族』『色:赤』
『起動:エナジー①を付与 自分のターン中、自分の場にある全てのカードのパワーを+1000する』
(これ、結構可能性を感じるぞ……!?)
実にシンプルな効果だが、その分わかりやすく使いやすい。
無論、1000という低いパワーを考えれば、無茶苦茶強いカードとは言えないが……全くどうしようもないというわけではなさそうだ。
やれるかもしれないと思うカードを見つけると、それでデッキを組みたくなっちゃうのがカードゲーマーの性。
オウガと自分自身の可能性を試してみたくなった俺は、悔しそうにしている彼へと声をかけた。
「なあ、オウガ。さっき言ってた、俺と組めば世界の王になれるってやつ……あれ、本気にしていい?」
「ぬ……!?」
俺の言葉に、オウガが大きく目を見開く。
その後で真剣そのものといった表情を浮かべた彼は、俺へと堂々と宣言してみせた。
「当たり前だ! 今はこんなだが、俺が力を取り戻しさえすれば、恐れるものなど何もない! 世界の王になることくらい、容易い話だ!」
「……それを聞けて安心したよ」
自信満々、というより、自分の可能性を疑っていない。
そんなオウガの言葉を受けて込み上げてきた興奮に笑みを浮かべた俺は、彼に手を伸ばしながら言った。
「契約しよう、オウガ。俺と一緒に思いっきり暴れ回ってやろうぜ!」