アグロデッキから始まるカードゲーム学園生活 作:レッドゾーンX
「おい~っす、ただいま~!」
「遅いぞ! お前、俺を放置して何をしていた!?」
「何って、他のみんながどんな精霊と契約するのか軽く観察してたんだよ」
「なんだとぉ……!? アギト! お前、俺を切り捨てて、別の精霊と契約するつもりか!?」
「そんなつもりはないって。少し落ち着けよ」
オウガとの契約を果たしてから数十分後、契約会場の隅で待機していた相棒の下に戻った俺は、メンヘラ彼女みたいなことを言うオウガに苦笑を浮かべていた。
これがかわいい女の子の精霊だったらいいが、実際は見た目が怖めの鬼だしな……と思いつつ、俺はオウガへと言う。
「まあ、情報収集みたいなもんだよ。新入生の仲間たちが最初にどんなデッキを組むのか、興味あるだろ?」
「……なるほど、敵情視察ということか。それで、何かわかったのか?」
一旦は落ち着いたオウガが腕を組みながら俺へと問いかける。
相棒からの質問に対して、俺は見てきたことを話し始めた。
「とりあえず、人気の種族と色の割合はわかったかな? 王道のドラゴンとかかわいい系の天使の精霊が人気っぽい。ロボと悪魔もやっぱ定番だから人が多く集まってたな」
「確かにまあ、あの辺の奴らは人間界にもよく知られた存在か。しかし、俺だって多少は名を知られていてもおかしくはないはず……ええい! 他には!?」
「色的には使いやすい赤と黄色のリーダーを選ぶ人が多いっぽい。緑、黒、青は慣れが必要だからその二色と比べると数は少ないけど、決して数のバランスが崩壊してるってレベルじゃなさそうだ」
「……おい、アギト。その色というのは何か意味があるのか?」
「ははっ……! そうか、オウガはそこからかぁ……!」
どうやらオウガはCDについての知識が皆無といっていいほどにないらしい。
とりあえず人間と契約することだけは知っていたようだが、ルールや基礎知識なんかは全然知らないようだ。
そんな相棒へと、俺はカードゲーム好きの人間として嬉々として解説をしていった。
「カードの色っていうのは、大まかな戦い方を表してるんだよ。例えば、オウガの色である赤色は、自軍の攻撃力を上げたり、敵のユニットを破壊するとかの攻撃的な効果を持つカードがたくさんある。デッキには、リーダーカードと同じ色のカードしか入れられないから、赤のリーダーカードを使用すると――」
「攻撃的な戦い方をするデッキができあがる……というわけか」
「そういうこと! 飲み込みが早いじゃん!」
「ふふんっ! 俺を誰だと思っている? 牙王オウガ様だぞ!? この程度、簡単に理解できるわ!」
えっへんと胸を張るオウガは、見た目が武骨な鬼の姿でなければかわいく思えたのだろう。
まあ、それは置いておいて、俺はついさっき目にしたもう一つの情報を相棒に伝える。
「そういえばだけど、さっきオウガと話してたマサルって子も赤の精霊と契約してたぞ」
「なんだとっ!? あのサル顔、どんな奴と契約をした!? 教えろ、オウガ!」
多分、そうなるだろうなと思っていた俺は、マサルが契約した精霊の情報もしっかり調べておいた。
その際、顔を合わせたマサルから侮蔑の言葉と嘲笑をいただいたわけだが……まあ、それはどうでもいいから放置しておくことにしよう。
というわけで、調べた情報を入学時に渡されているタブレットに表示してオウガへと見せてやれば、憤怒に染まっていた相棒の表情がみるみるうちに渋いものになっていった。
「ぱ、パワー、5000だと……!? 俺が1000なのに、サル顔と契約したどこぞの馬の骨……いや、猿の骨ともしれん精霊が5000!? おかしいだろうが!!」
「何もおかしくないよ。パワー5000っていうのは、リーダーカードの平均的な数値なの。おかしいのはその平均を大きく下回ってるオウガの方」
「ぐぬおぉぉ……! こ、この俺が、サルの五分の一……!? な、なんという屈辱だ……!!」
「そういうふうに誰かを見下すの、良くないぞ。相手にリスペクトを持つのがカードゲーマーの鉄則だからな」
これから相棒として一緒にCDを楽しむオウガには、ちゃんと言うべきことは言っておいた方が良い。
そう考えて注意した俺に対して、難しい表情を浮かべたオウガは質問を投げかけてきた。
「……どうするんだ、アギト? 俺も正直、ここまで力が弱まっているとは思わなかった。この力の差を、どう埋めればいい?」
「う~ん……実は、そこまで悲観する状況でもないんだよな。そりゃあ、パワーが高い方が助かるのはもちろんなんだけど、そうじゃなくってもオウガは効果が地味に強いから、活用方法は十分にあるんだよね」
「なっ、なんだとっ!?」
俺の言葉に驚いたオウガが大声で叫ぶ中、相棒が持っているタブレットを操作した俺は、今度はオウガ自身の能力を表示しながら説明を始める。
『起動:エナジー①を付与 自分のターン中、自分の場にある全てのカードのパワーを+1000する』
「オウガの能力がこれ。エナジーを1枚付与することで、場のカード全てのパワーを+1000するって効果」
「……なあ、エナジーってなんだ?」
「リソースのことだよ。CDのカードには、コストが設定されてる。ユニットの召喚やオプションカードの発動、フィールドカードの設置にはこのエナジーを使うんだ。それ以外にも、リーダーやユニットに付与することでそのカードのパワーをターン中+1000できるんだ」
CDの知識はないが理解力は高いオウガはその説明で大体を理解してくれたようだ。
それを踏まえた上で、俺はオウガの能力について改めて解説していく。
「この効果、発動条件が緩い癖に強化される対象は滅茶苦茶広い。オウガにエナジーを1枚割り振るだけで、場のカード全員が強化されるんだ」
「いや、しかしたかだか1000だろう? 大したことにはならないと思うが……?」
「かもね。でも、CDは場に最大5体までユニットを出せる。その全員とオウガ自身を強化したら、+されるパワーは合計7000だ。こう考えると、結構強そうでしょ?」
「ううむ……」
確かに、と俺の言うことに納得したオウガが呻きを漏らす。
そんな相棒へと畳みかけるように、俺は自分のデッキプランを解説していく。
「エナジーは最初からフルで使えるわけじゃない。自分のターンが来る度に、少しずつ解放されていく。相手がエナジーを完全開放して、リーダーカードの効果や強力なユニットをバンバン活用するようになったら、パワーの低いオウガに勝ち目はないけど……それより前に決着をつければ、何も問題はない」
「なるほど、つまりは相手に自分の戦い方をさせないということだな?」
「そういうこと。俺たちが目指すべき戦い方は速攻……超高速で勝負を決める、アグロデッキだ」
どんな状況にも万全に対応できるデッキより、徹底的に自分の強みを押し付けるデッキの方が強い。
無論、対応力が高いデッキも数多く存在しているが、それは安定性やコントロール能力が高いという強みを押し付ける方法を考えた結果、そういう形になっているのだ。
オウガのパワーで長期戦を仕掛けるなんて無理がある。
ならば、攻めに全振りした超高速デッキで相手を仕留めるしかない。
それがオウガの強みだと俺が考える中、色々と納得したであろう相棒が満足気に鼻を鳴らしながら言う。
「ふふふ……! つまり俺は配下たちを鼓舞し、敵を仕留める姿を悠々と見ていればいいということか。実に王らしい振る舞いじゃあないか。気に入ったぞ!」
「まあ、大体そんな感じなんだけどさ。一つ、大きな問題があるんだよね」
「ん? その問題とはなんだ?」
作るべきデッキの形も戦い方も見えた。しかし、この世界だからこそ、そしてCDというカードゲームだからこその問題がまだ存在している。
きょとんとしているオウガを見つめながら、俺は答えがわかり切っている質問を相棒へと投げかけた。
「オウガって、人望ある?」