TS銀髪美少女に感情ぐちゃぐちゃにされる結束バンド 作:ガテル
「しっ、下北に着いたら吊るし上げられちゃうんだ。私、後藤ひとりは間もなく処刑されます……」
「あの方達はそんな人じゃありませんよ?よしよし、大丈夫ですからね」
「ささ最後の晩餐、いや最後のナデナデ……たっ、堪能させて頂きますウヘヘッ」
誤解悪霊事件の後、私達の元に伊地知さんからロインで「みんなで集まってちょっとやりたいものがあるんだけどね、今日の午後って予定大丈夫かな?」とメッセージが送られてきました。私と後藤さんは特に予定はないので行く事に、どうやら喜多さんと山田さんも来られるらしく……そういえばライブハウス以外でこうやって全員で集まるのは喜多さんのとき以来ですね?何をするのかは分かりませんが、とても楽しみでございます。
集合は下北沢駅前、ずっと横で震えておられる後藤さんを何とか落ち着かせながらも電車は下北沢に到着いたしました。もう何度も足を踏み入れている所ですが、後藤さんは未だに来ると緊張されてしまうそうで……私もそのお気持ちは分かりますね。ここはオシャレタウンなのに加えてバンドマンやチャラめな若者達が多いですから、ナンパなどもよく見かけます。最も、容姿の悪い私には関係のないお話なので心配する必要は微塵もありません。
「ウェーイ!そこの若い子ちゃん~!よかったらお兄さんと一緒に遊ば―――あっ可愛すぎる、こんな雑魚が声を掛けるなど愚かな真似をしてしまい本当に申し訳ありません。これからは真面目に生きます」
「?」
いきなり目の前に現れた見た目がチャラめの若い男性は、私の顔を見られると一瞬で立ち去りました。前からこういった事がよくあるのですが一体どういう……残念ながら未だに真相は分かりません。
ですが、いずれ必ず解明してみせます。
「あっ!ぼっちちゃんと花音ちゃん!おーい!こっちだよ……ってぼっちちゃん何か凄い顔してるけどどうしたの?」
「い、いやさっき花音ちゃんに声掛けてきた男の人が……」
「えっ!?もしかしてナンパ!?下北は悪いバンドマンとか沢山いるからなぁ。花音ちゃん大丈夫だった?」
「いえ、さっきのはナンパではないと思います。あの男性は間違って私に声を掛けてしまったのでしょうね、彼は私の顔を見るなり去って行かれましたし」
「こっ、心を浄化しました……」
「いや何が起きた??」
―――アー写、アーティスト写真。今日はそれを撮影するためにバンドメンバーを集められたそうでございます、スタジオで撮るのはお金がかかるらしく下北沢の街中で良い撮影スポットを探す。そんなアー写撮影の旅が始まりました、伊地知さん曰く「階段、フェンス、植物の前、公園、良さげな壁」が金欠バンドマンのアー写の定番らしいです。今は良さげな壁を除き4つを巡り終えました、どこかアー写に適した良い壁はないかと探していた所……
「こことか良くないですか!沢山ポスターとか貼ってあって下北沢らしいというか!」
「そこ、前までよく行ってたCDショップだった。レコードショップやライブハウスとか、昔ながらの店がどんどん消えていく」
喜多さんが目を付けられた壁、そこはどうやら閉店してしまったCDショップらしいです。確かに山田さんの言う通り昔ながらの店は消えています、私がよく映画を借りに行ってたレンタルビデオ屋も少し前に無くなってしまいました。時代が変わったのは分かりますが……寂しいですね。
「リョウは新しい本屋出来て喜んでたじゃん、喜多ちゃん。あんまりリョウに振り回されないでね?その場のノリで話してる事が9割だから」
「でも先輩にならむしろ振り回されたい!後出来れば琴寄さんも一緒がいいわ、私は2人に振り回されて空の彼方までぶっ飛びたいの!」
「えぇ……まぁでも、そんなリョウだけど今は節約頑張ってるんだよね。正直いつまで続くかなって感じだけどさ、偉いって思うよ?」
「と、当然、私は生まれ変わったから」
伊地知さんから褒められる山田さん、しかしその表情はどこか動揺しているように見えます。恐らく気のせいでしょうが……少し不安を感じていた中、後藤さんが私の肩に手を置いている事に気が付きました。
「後藤さん?」
「かっ、花音ちゃん……あっちに良さげな感じの壁があったよ」
「―――それでは撮りますよ」
私が撮影役となり、結束バンドのアー写撮影はスタートしました。撮った写真を伊地知さんが確認すると、彼女は「メンバーのキャラは出てるけど、イマイチバンド感が……」と納得できていない様子でございます。私も何か案を出したいですね?そう思い考えた結果。
「伊地知さん、一つ思いつきました。言ってもよろしいですか?」
「おっ、いいねー!教えて!」
「バンドと言えばロック、ロックと言えば中指を立ててふぁ〇くでございます」
「花音ちゃんの口からそんな言葉が出るとは思わなかったよ……私達一応ガールズバンドだし、それは絶対ダメだからね?」
「琴寄さんのふぁ〇くの言い方可愛くて好き!お金払うからもう一度言ってくれないかしら!」
「喜多ちゃん??」
……何となくそういうイメージがありましたが、ダメなのですね。ロックとは難儀でございます。
この後も何枚か写真を撮ったのですが、皆さんどうやらピンと来ないらしく決まりませんでした。そして写真を見返す中で喜多さんの写真慣れの話題になり、彼女はイソスタをしている事からどれも可愛らしく映っています。私は表情が硬いものですから、彼女の柔軟性が少し羨ましいですね。そう思っていたとき……後藤さんに異変が。
「イッ、イソスタは陰キャにはキツい。で、でも私は花音ちゃんと何枚かだけど一緒に写真を撮ったという大切な経験があるからギリギリ理性を保てる……」
後藤さんは必死に己の自我を保つようにプルプルと震えておられました。
「イソスタと言えば、これから琴寄さんと一緒に写真を沢山撮れると思うと楽しみね!」
「あっ私だけの思い出じゃなくなるんだ……アバババババババ」
後藤さんは倒れてしまわれました……理由が何故かはよく分かりませんが、この状態はとても危険でございます。爆発寸前、そこに刺激を与えればアウトです。前に一度そうなったときは本当に大変でした、早急に彼女を復活させなければなりません。
後藤さん、私が必ずや救ってみせますからね。
「ぼっちちゃんもイソスタ初めてみたら、SNS大臣もそう思うでしょ?」
「是非!友達になりましょ!バンド活動していくならメンバー個人のアカウントはあった方がいいと思うし」
……これは、もう。
「―――3人とも、今すぐ離れてください」
「えっ」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?????」
「ぼっちちゃん!?」
緊急事態です、後藤さんのエラー状態。これを見るのは二度目にございますね、一度目は前に後藤さん家のリビングで一緒にテレビを見ていたとき。ふたりさんが突然恋愛リアリティショーに回されてしまい、しかもちょうどキスシーンの瞬間でそれを見てしまった後藤さんは壊れました。
青春コンプレックスを刺激されたらしく、治ったときに「わっ、私も花音ちゃんとこういう事したい……」と小声で何かおっしゃっていましたね。内容は聞こえなかったのですが……いえ、今はとにかく後藤さんを治さなければ。
前回はとある方法を取ったのですが、今回もアレをするしかないですね。
「い゛い゛ね゛く゛れ゛え゛え゛え゛」
「後藤さん」
後藤の頬に両手で優しく触れました、微かに反応がありますね。そして私は彼女の目をしっかりと見て。
「―――そのままでいいのですよ」
「え゛っ゛」
「SNSでの承認欲求を求める必要はございません。何故なら、あなたはそのままで十分凄い存在なのです」
「……い゛い゛の゛?」
「ええ、いいですよ。だから……いつもの後藤さんになってくださいませ」
怪獣姿の後藤さんから元の姿に戻っていきます、そして目に光が宿り。
「ふふ復活……!あっ、ありがとね花音ちゃん」
本当によかったです。
「感動~!」
「喜多ちゃんこれで感動するんだ……」
「……」
「ん?どしたのリョウ、何か羨ましそうに見てるけど」
「……見てない」
後藤さんが元に戻られたのでアー写撮影が再開されました、喜多さんの案で撮影の際にジャンプすると決まって……後藤さんのパンツが映るというハプニングがあったりしましたが、最終的には良い写真が撮れました。ふふ、私も自分事のように嬉しいです。
―――でも、何より嬉しかったのはアー写を撮り終えた後に。
「そうだ!花音ちゃんも入れて撮ろうよ!5人での初写真!」
「いいですね!」
「うん」
「さ、賛成です」
私も入れて5人で写真を撮った事、ですね。
「さっ、作詞の件どうしよ……」
「……そうですね」
目的も無事達成したので解散となったのですが、現在後藤さんと私は公園で頭を悩ませています。その理由は、元より今日後藤さん家に行ったのは作詞の件で彼女が困っているからで……私もすっかり忘れてしまっていましたね。
悩んだ私達は誰かに相談する事に、そしてその相手は作曲担当である山田さんがいいとの結論に至りました。
ここはロインで私が山田さんにメッセージを送るとしましょう、伊地知さんと喜多さんに事情を知られてはいけないのでグループではなく個別にします。
「山田さん、大切なお話がございます……もし良ければこれから会えないでしょうか?まだ下北にいるので」
すぐに既読が付いたのですが。
「わわかっる、ここにいるからきえ」
恐らく「わかった、ここにいるからきて」なのでしょう、どうやら誤字してしまったようです。
かなり焦っているのでしょうか?URLの場所はカフェになっているのでそれはあり得ないのでは……いえ、誤字に理由などありませんね。ミスしてしまうときは誰にでもありますから。
ええ、理由はないはずです。