TS銀髪美少女に感情ぐちゃぐちゃにされる結束バンド   作:ガテル

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第13話

 

「かか花音、大切なお話って何……って背中にいるのぼっち?」

 

「は、はい……オシャレカフェは陰キャの私にはしんどすぎて花音ちゃんの背中に顔を埋めて何とか入る事が出来ました」

 

「山田さん、急に申し訳ございません。後藤さんの作詞の件でご相談がありまして」

 

 

何故か顔を赤らめておられる山田さん、ですが私の「後藤さんの作詞の件」という言葉を聞いた瞬間に……驚いたのか固まってしまいました。そのまましばらくフリーズされた後。

 

 

「……分かった」

 

 

表情にこそ表れていませんが、分かりやすく声のトーンが下がりご機嫌斜めになっています。作詞の件の相談はあまり乗り気じゃないのでしょうか?

 

いえ、何か他の理由なような気がいたしますね……残念ながら私には山田さんの内心は分からないのですが。

 

 

 

 

その後、山田はカレーを食べ終えられると後藤さんから歌詞ノートを受け取り読み始めました。後藤さんの歌詞に対して、どういう感想が出てくるのかと私は緊張してしまい……山田さんが「これでいいんだ」とおっしゃった事でその緊張は尚更高まったのですが。

 

 

「個人的にこのサインはロックバンドにしては子供すぎると思う、後ページの隅に小さく書いてある琴寄ひとりってサインは「ヴァァァァァァァァ!????」

 

 

後藤さんは叫び声を上げながら、目にも留まらぬ速さで山田さんの手から歌詞ノートを取り上げてしまいました。どうやら山田さんが読まれていたのは歌詞ではなく後藤さんのサイン練習だったようです、それにしても。

 

 

「琴寄ひとり、でございますか」

 

「かっ、花音ちゃん!?こここれは違くて……」

 

 

私の苗字である琴寄と後藤さんの名前であるひとり、その二つを組み合わせた事の意味を分かってしまいました。後藤さん……

 

 

「私は嬉しいです」

 

「も、もしかして花音ちゃん……!」

 

「―――お友達の私を自分のサインに組み込んでくださるなんて、合体サインというのは初めて聞きましたが……バンド界にはそういうものもあるのですね?」

 

「あっ、うん……」

 

 

真顔で頷かれる後藤さん、ギターヒーローである彼女のサインに琴寄を使ってくださるなんて光栄でございます。合体サイン、ロックとは奥深いですね。

 

 

 

 

 

「―――ぼっち的にはこの歌詞で満足?」

 

「えっ、いやそれはヒットしたバンドらしいのがいいのかなと……」

 

「花音はもう歌詞を見てるんだっけ」

 

「いえ、色々ありましてまだですね……」

 

「じゃあ、今見てみなよ」

 

 

山田さんから渡されたノート、私は後藤さんが作った歌詞に目を通し最初に思い浮かんだ感想は「後藤さんらしくない」でした。いえ、決して悪い訳ではございません。ですが、中学生時代に見せてもらった彼女の作詞ノートに書かれていたものとは別物です。本人は呪詛と言っていましたが、私はその歌詞から強い想いを感じたので好きでした。ただの素人目線ですが、これは……とても無理をしているように感じます。

 

私の表情から大まかに感想を察したらしく、そこから山田さんは語り始めました。

 

昔、山田さんは別のバンドにいらっしゃって……そのバンドの青臭いけど真っすぐな歌詞が好きだったそうです。しかし、売れるために必死になってしまい歌詞をどんどん売れ線化させそれが嫌になって辞めてしまわれた。辞める時も少し揉めたらしく、バンドそのものが嫌になっていた頃。

 

「―――ねぇ!暇ならベースやって!だって私、リョウのベース好きだし!」

 

そう伊地知さんから言われて、山田さんはもう一度バンドをやってみる事にしたそうです。山田さん曰く「個性を捨てたら死んでるのと一緒だよ」、個性の排除……それは先ほど後藤さんの歌詞を読んだときに私が抱いた違和感です。

 

 

「後藤さん」

 

「かっ、花音ちゃん?」

 

 

山田さんが言いたい事は恐らく。

 

 

「私は後藤さんのありのままを表現した歌詞が好きでございます、中学生時代の呪詛と言っていたものも個人的には魅力的に思えました。何故ならそこには心が籠っているからです」

 

「あ、あの呪詛が魅力的……?」

 

「ええ、後藤さんを知ってるからこそです」

 

 

……こう言っておいて本当に申し訳ないのですが、私以外の皆にあの歌詞が受け入れてもらえるとは思っていません。ですが、私には確かに刺さったのです。

 

そんな私達のやり取りを聞きながら、山田さんは不思議と口元を緩められておりました。

 

 

「私も花音と大体同じ考え、色々考えてつまんない歌詞書かないでいいからぼっちの好きなように書いてよ」

 

「け、けどそうすると根暗でどんよりな歌詞が」

 

「それリア充っ子に歌わせたら面白くない?」

 

 

喜多さんみたいな人の口からふ〇っくというワードが出たとき、何だかギャップを感じました。つまりそれと同じですね……恐らく多分同じです??

 

「バラバラな個性が集まり、一つの色になるんだから」と山田さんはおっしゃりました、本当にその通りですね。

 

こうして作詞の件は解決し、お店を出る事となったのですが。

 

 

「花音」

 

「山田さん?」

 

「……私、お金がもうない」

 

 

―――大問題が発生しました。

 

 

 

 

 

「山田さん、前に節約を初めたとおっしゃっていましたが……」

 

 

伊地知さんに自慢されていたのをよく覚えています、喜多さんのベースを買い取ったときに「私は所持金が……ギリギリ、節約のおかげで少しは残った。何とかやっていけるかも」との発言から心配はあったものの……カレーを普通に食べていたので大丈夫だと思っていました。

 

山田さんは気まずそうに目を逸らしながら。

 

 

「……数日前、古着屋で良いの見つけて買っちゃった。でもそれが結構高くて、そのときにお金は全部使い果たしてる」

 

「で、では何故カフェに入られたのでしょうか?もうお金が無いのですよね」

 

「この店オープンしたばかりで、どうしても食べたい欲を抑えきれなくて。2人に奢ってもらえばいいかなって思った……」

 

 

山田さんによる衝撃の告白、チラりと横目で後藤さんを見ると尊敬が一気に吹き飛んだような顔をされていました。

 

 

「金使いについて注意されたのにごめん、花音、怒ってる?」

 

「私が、ですか?」

 

「……だって約束したし」

 

まるで失望されたくないと言わんばかりに怯える山田さん、そんな初めて見る姿に私は驚いたのと同時に……

 

 

「―――山田さん、私はショックでございます」

 

「……」

 

「勘違いしないでくださいませ……怒るわけありません」

 

「えっ」

 

 

そもそも私が注意したのは山田さんの健康が心配だったからです、気に食わないとかそんな理由ではないのに何故怒る必要があるのでしょう。むしろ……あったのは心配だけです。

 

 

「約束を破ったからと言って失望や怒りなど微塵もございません、お金が無いのなら先にそう言ってくださいませ。ここは私が払いますから」

 

「い、いやでも」

 

「全く、最初に奢らせる気だったのはそちらなのにどうして狼狽えるのですか……ふふ。山田さんらしいですね?」

 

 

変わらず顔色は困惑一色、私はそんな山田さんを落ち着かせるために彼女の頭に手を置き優しく撫でました。

 

 

「私は山田さんが心配だから言いました、今回お金を支払うのだってあなたが満足してくださった結果ならば全然構いません……ですが今後お金使いは気を付ける事。欲しいものがあってもちゃんと考えなきゃダメです」

 

 

私は山田さんのお顔をしっかりと見て。

 

 

「―――めっ、ですよ?」

 

 

山田さんは驚いたように目を見開き、顔を真っ赤にしながら。

 

 

「……うん」

 

 

そう小さく、頷いてくださいました。

 

この後、お店を出て私達は山田さんと別れたのですが……ずっとお顔が赤かったのはどうしてでしょうか?

 

 

 

 

(怒り、失望されると思った。でも花音はそんな事しなくて、むしろ私を優しく心配してくれた―――ちょっと前から感じてた心臓のドキドキの正体が今なら分かる。私は今まで一度もなかったけど、この感情は多分……恋だと思う)

 

 

 

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