TS銀髪美少女に感情ぐちゃぐちゃにされる結束バンド   作:ガテル

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第16話

 

オーデイション当日。

 

いつもは登校中に「きょ、今日も一日生き残れますように……」とまるで戦地に赴く兵士さんのような事をおっしゃられている後藤さん、しかし今日は無言で何かを真剣に考えているご様子でした。昨日の帰り道でもそうでしたが、きっとお家に帰られてからも……心配ですが変に突っ込むような真似はいたしません。何故なら後藤さんは今、己の心と向き合っているのですから―――

 

 

「そろそろだね……よし、みんな!頑張ろう!」

 

「リョウ先輩!琴寄さん!闘魂注入としてお2人でギターを弾く私の指先を触ってください!」

 

「指良くなったね、硬くなってる」

 

「確かに、喜多さん……頑張っておられるのですね」

 

「キャー!今ならグラミー賞も狙えちゃうわー!私達が世界の結束バンドになるのも遠くないのねー!」

 

「喜多ちゃん?まずは日本というかSTARRYというかお姉ちゃんからの合格を狙おうね??」

 

 

現在、私達はSTARRYのライブステージ裏で待機中なのですが……時計を見れば間もなくオーデイションの時間です。山田さんや喜多さんも一見いつも通りに思えますが、表情からかなり緊張しているのが伺えます。私も同じ気持ちでございますね、結束バンドの努力を近くで見てきた身として心の底から合格してほしいと思っています。

 

そして、結束バンドの合格だけでなく……私にはもう一つ強く願っている事が。それは。

 

 

「ほほ、本番が近づいてきたと思うとやっぱり緊張してきた……」

 

「後藤さん」

 

「かっ、花音ちゃん?」

 

「緊張しないでとは間違っても言えません、それは誰しも当たり前なのですから。ですが私は知っています、後藤さん……あなたはそのままでいいのですよ」

 

 

後藤さんが実力を上手く発揮出来ないのは分かっています、だからこれは勝手なわがままになってしまうのですが―――私はギターヒーローとしての彼女を少しでも見たい。誰かに知って欲しいし、後藤さんがもっと自分を肯定できるようになってほしいのです。だから私はただ応援しています、お友達として。

 

私の言葉を聞いた後藤さんは、緊張で固まられていたお顔を緩めて。

 

 

「あ、ありがとね花音ちゃん。何だか気持ちが楽になったよ……」

 

 

優しく笑ってくださりました。

 

 

 

 

 

 

「……私も店長さん達の元へ行きましょうか」

 

 

ステージへ向かう皆さんを見送ったので、私も移動するために足を動かそうとしたそのとき。

 

 

「―――花音ちゃん!」

 

「……伊地知さん?」

 

 

何故か伊地知さんが駆け足でこちらに戻ってこられました、何か忘れ物でもあったのかと思ったのですがどうやら違いようです。彼女は顔を赤くしながら私を見つめてこられて、まるで何かお願い事でもあるかのような?

 

 

「かっ、花音ちゃんが良ければなんだけどさ。1週間前のときみたいに……私の手を握ってくれないかな?」

 

 

伊地知さんがライブハウスを飛び出して行かれたとき、私は後を追いかけました。そして辛そうにしているお姿を見て、少しでも不安を和らげるために彼女の手を握ったのです。

 

お願いしてきた伊地知さんはモジモジしながら、恥ずかしそうに俯かれております。人の体温は安心感を与える、その知識からか取った行動だったのですが……今も本番前で不安でいっぱいなのでしょう。私がお力になれるのならば。

 

 

「分かりました、伊地知さんからお願いされて私も嬉しいです」

 

 

私の返事を聞いた伊地知さんはとても嬉しそうにされていて……頭のアホ毛がピョコピョコと揺れておりますね?

 

1週間前と同じように、いえ……今は右手にドリンクを持っていないので彼女の右手と左手にそれぞれ私の手を重ね合わせるようにして優しく握りました。

 

正面で向き合い、お互いの手を握り合う私達。

 

 

「その、これでよろしいでしょうか?」

 

「……えへへ、うんっ!」

 

 

―――喜んでくださってよかったです。

 

 

 

 

 

 

「花音ちゃんの椅子はこれだから……良ければ私の膝の上に「店長アウトですよ」

 

「?」

 

 

ステージ上では結束バンドの4人が準備されていて、間もなくなのですね……自分の心臓の鼓動が速まっているのを感じます。大丈夫、そう分かっていても緊張は中々収まってくれません。俯きながら手をぎゅっと握りしめる、そんな私を見た店長さんとPAさんは。

 

 

「そんな固い顔しなくていいよ、ただ……アイツらの事をちゃんと見ててあげな」

 

「そうですね、きっと皆さんも琴寄さんにはそうしてほしいはずですよ」

 

 

お2人の言葉を受けて、俯いていた顔を上げると。

 

 

「かっ、花音ちゃん。そのままでいいんだよ……見ててね

 

「……後藤、さん」

 

 

そのままでいい、それはさっき私が後藤さんに伝えた……ふふっ。お返しされてしまいましたね?

 

 

「結束バンドです!じゃあ、ギターと孤独と蒼い惑星って曲。やります!」

 

 

目を合わせて頷き合う4人。

 

 

 

 

 

演奏が始まり、ライブハウス全体に音が響き渡ります。始まる前はあんなにも緊張していたのが嘘かのように私の心は落ち着いていて、何故なら……確信しているからです。

 

 

 

演奏の途中、後藤さんが足を力強く踏み込んだその瞬間、空気は一変しました。何が起きたかなど簡単です、後藤さんが―――ギターヒーローになられたのです。強い覚悟に満ちた瞳。

 

完全ではありません、ですが私は彼女が少しでも己を出せた事が本当に嬉しく……よかったですね後藤さん。

 

 

 

 

「いいんじゃないって言いたい所だが、ドラムは肩に力入れすぎ。ギター2人は下向きすぎ、ベースは自分の世界に入りすぎ。でもまぁ……お前らがどういうバンドかは分かったけどね」

 

「アドバイス、ありがとうございました……」

 

 

演奏が終わり、店長さんの指摘コメントに対し落ち込まれる4人。いいえ……落ち込む必要などございません。私は店長さんが優しい方なのを知っていますから、今のはですね。

 

 

「伊地知さん、店長さんは結束バンドを褒められたのです」

 

「……えっ?」

 

「琴寄さんの言う通りです、多分合格って事だと思いますよー」

 

「だからそう言ってんだろ……合格」

 

 

皆さんとても驚かれていますが、私には不思議な反応でございますね……そんなに分かりにくいでしょうか?

 

 

「店長さんはいつも柔らかく笑っておられる素直な方ですのに」

 

「ふふ、店長をそう思ってるのは琴寄さんだけですねぇ」

 

「おい聞こえてんぞ??で、でもそうか。花音ちゃんは私をそう思ってくれてるんだな、花音ちゃん……」

 

 

キラキラと目を輝かせながらこちらを見てくる店長さんに首を傾げながらも、私は4人の元へ向かおうと裏へ周りステージ上に着くと後藤さんが少々言い表せない状態となってしまっていました。

 

……頑張りましたね。

 

 

 

 

 

「よしよし、でございます」

 

「あ、あんなになった私を優しく撫でてくれる花音ちゃんは女神ウヘヘッ……」

 

 

水道でバケツに水をためる後藤さん、私は彼女を横で撫でていると店長さんが私達の元へやってきました。店長さんは後藤さんに向けて優しく微笑みながら「ぼっちちゃんの事、ちゃんと見てるからな」とおっしゃられて、私は後藤さんが店長さんから認められたのを嬉しく思っていたのですが……後藤さんは何故かガクガクと震えておられました。

 

4人は決意を新たに、結束バンドの戦いはこれからでございます。私も近くで応援をし続けていきたいですね。

 

 

「じゃあチケットノルマ1500円を20枚だから、1人5枚ずつで!」

 

「父、母、妹、犬、花音ちゃん、いいけるッ……!」

 

「後藤さん、その……犬は無理ではないでしょうか?」

 

「―――ア゛ッ゛」

 

 

……新たな戦い、でございますね。

 

 






次回は虹夏ちゃん編ラスト(伊地知家お泊り回)になります!
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