TS銀髪美少女に感情ぐちゃぐちゃにされる結束バンド   作:ガテル

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第17話

 

結束バンドのオーディション、あれから1週間が経ちました。本日もSTARRYでバイトが入っているのですが、いつもと違うのは喜多さんに山田さん……そして後藤さんがいらっしゃらない事でございます。今までも誰かと被らないというのはありましたが、3人がいないというのは無かったですね。バイトは私と伊地知さんの2人、そんな珍しい日。

 

明日が日曜であり、尚且つライブを行ったのがチケット完売は当たり前の人気インディーズバンドであった事からSTARRYでのバイトはいつもより大忙しでした。かなり大変でしたが何とか乗り切りまして、私は小さな達成感を感じながら上機嫌で家へと帰宅……したかったのですが外は強風に土砂降りの大雨。

 

今は6月下旬です、梅雨真っ最中なので突然の天候悪化も仕方ないのですがとても帰れる状況ではありませんでした。途方に暮れる中、伊地知さんが「いっ、家はここの3階にあるんだけどね。だから花音ちゃんが良ければなんだけどさ、その……今日は私の家に泊まらないっ?」と提案してくださり……このような状況下で私は彼女がまるで救世主に思えました。両親に電話で事情を説明し了承も得たので、その提案をお受けしました。私は「本当に感謝いたします、この御恩は一生忘れません」と伝えたのですが、それを聞いた伊地知さんのお顔が真っ赤になられたのはどうしてでしょうか?

 

 

 

「―――別に手伝わなくていいんだよ、花音ちゃんはソファーに座ってゆっくりしてていいからね?」

 

「いえ、そんな訳にはいきません。泊めてくださった伊地知さんと店長さんには恩返ししなければ、ですから……私に何でもお申し付けください。精一杯頑張らせていただきます」

 

「……うん、それならお願いしようかな!よろしくね花音ちゃん!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「……でも今の台詞はお姉ちゃんの前で絶対言っちゃダメだからね?」

 

 

まるで私の身の安全を心配しているかのように、真剣な表情でおっしゃる伊地知さんに思わず首を傾げてしまいました。多少の疑問は残るものの、お料理が始まろうとしています。恩返しのため、必ずや伊地知さんのお役に立ってみせましょう。

 

強い覚悟を胸に抱き、私は包丁を手に握ります。最も―――お料理経験など全くないのですが、それでも頑張ります。

 

 

 

 

「えっと、花音ちゃん……これは一体何なのかな?」

 

「包丁で切ったじゃがいもです、ドヤッでございます」

 

 

自分で言うのも何ですが、これはかなりの自信作です。私は数年前にお母様から料理を教わろうと、包丁を握らせてもらったのですが何故かそれ以降一度も触れさせてもらえませんでした。どうしてでしょう?

 

私が切ったじゃがいもを見た伊地知さんは頭を抱えながら。

 

 

「形が全部めちゃくちゃすぎる!?それに偶然だろうけど、何か人の顔っぽく切れてるのが一つあるし!」

 

何か人の顔っぽく切れてるじゃがいも「ボクヲタベテ……」

 

「えっ今じゃがいもが喋ったよね??」

 

「気のせいではないでしょうか、じゃがいもは喋れないでございますよ」

 

「こっわ……」

 

 

私の切ったじゃがいもはポテトサラダとして使うのが決まりました、完璧だと思ったのですが残念です。改めて伊地知さんに包丁の扱い方について教わりながらお料理を行う事になり、どうやら彼女はいつも自分でお料理をされてるらしく……両親共に仕事が忙しいのでしょうか。

 

 

「とりあえず、私の持ち方を真似してみてね!」

 

「こうでしょうか?」

 

「それドラマとかで人を刺すときの持ち方になっちゃってるよ……これは中々だね、どうしようかなぁ」

 

 

伊地知さんは少し悩まれた後、体をモジモジさせながら私の方を見てこられて。

 

 

「ちょ、直接手に触れながら持ち方を教えてもいいかな。そ、そっちの方が見てるよりも分かりやすいしと思うよ?」

 

「確かに……分かりました、ありがとうございます伊地知さん」

 

「け、怪我が無いようにゆっくり教えるからね」

 

 

そうおっしゃって、伊地知さんは横から自分の手を私の手に優しく重ねてきました。2回ほど触れていますが、改めて思います……彼女はこの小さな手で大きいドラムを叩いているのですね。本当に凄いです。

 

伊地知さんも同じように何か思う所があられるらしく、私の手をじっと見つめております。

 

 

「花音ちゃんの手は小さくて、でも何度見ても綺麗だね―――あっ!今のは違うんだよ!?」

 

 

つい本音が零れたと言わんばかりに、ボソッと呟かれた言葉……何だか同じですね。

 

 

「ふふ」

 

「……花音ちゃん?」

 

「いえ、私も似たような事を思っていたものですから……伊地知さんの手は本当に綺麗ですね。触れていてよく分かりますよ」

 

「そ、そうかな」

 

「―――はい、そうです」

 

 

こうして私は伊地知さんに助けてもらいながら、無事カレーを完成させられました。ポテトサラダもです、「オイシクタベテネ」と聞こえたと伊地知さんが震えながらおっしゃっていました。そしてちょうど完成のタイミングで部屋から店長さんも出てこられて、3人分の皿にカレーとご飯をよそいテーブルへと持って行き椅子に座って。後藤さん家以外で知り合いと食卓を囲むなど殆どしませんが、伊地知さんと店長さんならば不思議と緊張もしませんね。

 

 

 

 

「今日のカレーはまた一段と美味しいな、これは……花音ちゃんの愛情というスパイスが効いてるのか」

 

「何言ってんのお姉ちゃん」

 

 

本当に美味しいです、伊地知さんがお料理上手なのは大前提ですが……自分で頑張ったからというのもあるのでしょうか?

 

そんな事を思っていると、店長さんがテレビを点けられてニュース番組に回されました。天気は相変わらず大雨と強風、これが明日の朝まで続くそうです。今日が土曜日でよかったですね。

 

 

明日の朝まで続くんなら今日は本当に花音ちゃんとお泊りできるんだな、つまり可愛い花音ちゃんをいっぱい見れるって訳か。楽しみすぎんだろ……花音ちゃん、この後何かしたい事とかある?映画とか見るか?」

 

 

店長さんはキラキラと目を輝かせながら聞いてきました、映画は正直に言えば見たいですが私は泊まらせていただいてる身。私の要望ではなくむしろ。

 

 

「いいえ、私は大丈夫でございます。それよりも店長さんは私に何かしてほしい事はありま「花音ちゃんストップ!」

 

 

……そういえば、伊地知さんに店長さんの前で言ってはいけないと忠告されているのでした。何故かは分かりませんが、しかし時すでに遅し。私の言葉を聞いた店長さんはその瞳の輝きを更に増されて。

 

 

「花音ちゃん、後で私の部屋に来てくれないかな」

 

「お姉ちゃん……それだけはしないって信じてたのに」

 

「違う!ただちょっと着てほしい服があるってだけだよ、絶対花音ちゃんに似合うと思うから」

 

「……花音ちゃんが着替えてるときはお姉ちゃんどこにいんの?」

 

「どこって、当然私も同じ空間に居るけど?」

 

「じゃあ裁判始めるね」

 

「い、いや別にいいだろ!」

 

 

……謎の姉妹裁判が始まりましたが、お2人とも何だかんだ楽しそうです。仲がよろしくて微笑ましいですね、私は一人っ子なので少し羨ましく感じます。

 

判決(店長さん有罪)で短い裁判は幕を閉じ、夕食が再開されました。その後も3人で色々と楽しく会話を交わしながら、カレーを食べ終えたのですが……お皿を片付けるときに伊地知さんがふと口にした「お母さんが亡くなって以来、3人でのご飯なんていつぶりだろ」という言葉。きっと無意識だったのでしょうが、その後のテレビやお風呂に入っているときもずっと私の頭に引っかかり続けました。

 

 

 

 

「お風呂上がらせてもらいました」

 

「湯上り花音ちゃ―――いや何でもない」

 

「伊地知さんはどこにいるのですか?」

 

「虹夏ならさっき自分の部屋に行ったよ、それで……今日寝る所なんだけどな。部屋がなくて、虹夏と一緒の部屋でいいか?」

 

「私は全然構わないのですが、伊地知さんはOKしてくださるでしょうか」

 

「あー……多分大丈夫だから、本人に聞いてみな」

 

 

店長さんは結果を分かっているかのように、苦笑いしながらもどこか嬉しそうにおっしゃりました。

 

伊地知さんの部屋に向かう途中、どうやら閉め忘れられたのか店長さんの部屋は完全に中が見えてしまっている状態でした。人のプライバシーに関わりますし、見ないように駆け足で通り過ぎようとしたのですが思わず目に入った物が。

 

 

「このぬいぐるみは手作りでしょうか、まだ制作途中のようですが……何だか私に似ているような?」

 

 

気のせいですね、気のせいです。行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

「……かっ、花音ちゃん。狭くないかな?」

 

「大丈夫ですよ」

 

「それならよかった!よかったよ!?」

 

「?」

 

 

2人で一緒のベッドなのですがお互いに体が小さいからか問題はありませんでした、それにしても……私が部屋で寝るのを伊地知さんは即OKしてくださって嬉しかったです。お気遣いに感謝します、恩返しするつもりかまた恩が増えてしまいましたね。

 

電気を消して、お互いの顔は見えないのですが伊地知さんの体温を感じます。

 

 

「ぼっちちゃんの言ってる事が今ならより分かるよ……良い匂いだなぁ」

 

 

部屋で私のスマホを使い、一緒に映画を見たりそれ以外にも沢山お話をしていればあっという間に深夜になっていました。眠気に襲われているのはきっと向こうも同じでしょう。

 

 

「花音ちゃん、私すっごく楽しかったよ」

 

「私もです、こういう機会は滅多にないものですから」

 

「お姉ちゃん、花音ちゃん、3人でご飯食べて沢山お話してさ。その後も部屋で2人で映画見たり……」

 

 

声に力はなく、半分夢にいるかのような伊地知さん。今日は本当に楽しかったです……そこから少しして、伊地知さんから会話に対する返しが無くなりました。眠ったのでしょうね。

 

私は今日を振り返り、「お母さんが亡くなって」という伊地知さんが無意識でふと口に出してしまった言葉について考えていました。お父様はいらっしゃるのでしょうが、帰っては来ませんでしたし恐らく仕事があるのでしょう。間違ってもそこには踏み込めません、彼女の方から話す以外では……3人でご飯を食べたのを本当に心の底から喜んでおられました。誰かが亡くなる、死というのは私にとって何よりも関連する事です。前世ではありますが私は一度亡くなっているのですから。

 

きっと伊地知さんも悲しみを抱えているはず、ですが元気で明るくあられて……私は起こさないようにそっと彼女の頭に手を置き。

 

 

「お母様の件、私は触れません。ですがこれだけは言わせてください、伊地知さん―――頑張ったんですね」

 

 

静かに思いを伝えました。

 

 

 

 

 

(は、恥ずかしくなって黙ってただけで実は起きてるよ!?花音ちゃんのナデナデは安心するなぁ、初めてされちゃった。それにお母さんの事も知ってたんだね、多分どっかで言っちゃったんだろうな私……それぐらい気持ちが楽だったのかも。花音ちゃんは本当に優しいなぁ、あっそっか―――私は花音ちゃんのこういう所が好きになったんだ。やっと分かった、えへへ)

 

 

 






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