TS銀髪美少女に感情ぐちゃぐちゃにされる結束バンド 作:ガテル
ライブのチケットノルマ5枚分、それは後藤さんに訪れた新たな試練でございます。ジミヘンさんは犬なので勿論無理なのですが、ふたりさんも年齢の関係でライブハウスには入られないらしく「父、母、花音ちゃん、残り2枚ヴァァァァァァ……!」と後藤さんが溶けられていました。今は地元の金沢八景で彼女と協力し、ライブのビラ配りを行っているのですが……
「―――結束バンドというバンドグループのライブに興味はないですか?」
「わわ、私はあなたに興味があります!」
「私の演奏を聞きたいという事ですか……申し訳ございません、私はバンドメンバーではないのです」
「わわ、私はあなたに興味があります!」
「???」
私が声を掛けると、その女性は目を大きく見開かれて頬も赤く染まり何故か同じ台詞しか言わなくなってしまわれました。現在5人にお声掛けし5人とも同じ状態になっています、皆さんがまるで壊れたロボットのように……地元で何か大きな陰謀が渦巻いてるのでしょうか?ホラーでございます。
どうやら後藤さんも上手く出来なかったようで、私達は残り2枚のチケット問題で頭を悩ませていたとき……私のポケットに入ったスマホからロインの通知音が鳴り、画面を見れば伊地知さんからのメッセージが届いていました。
「今日の自主練はみんなで新曲の合わせをする予定なんだけど、もし良ければ来れないかな。花音ちゃんの感想とかアドバイスは凄く助かってるんだ!後ぼっちちゃんにも来れるか伝えておいてくれない?」
横で後藤さんが凄まじい勢いで首を横に振っておられて、長い付き合いであるので言葉を交わさずとも彼女の意志は十分に理解できます。確かにこの状況では気まずいですね。本当に心が痛みますが……後藤さんのため、返信をスルーさせていただく事にしました。
「かっ、花音ちゃんごめんね……」
「後藤さんが謝る必要などありませんよ、私もビラ配りに失敗してしまったのですからね。ここは結束バンドのためにも、残り2枚のチケットを何とかする方法を一緒に考えましょう」
「理解のある花音ちゃん、そそそしていつかは理解のある彼女ウヘヘッ」
ポケットにスマホを戻そうとした瞬間、再度ロインの通知音が。恐らく伊地知さんからでしょうが、気まずさを感じながらも一応メッセージだけは見てみる事にいたしました。
「花音ちゃん……またいつかお泊りしようね、えへへ」
そのメッセージの後には可愛らしいスタンプも付いていて、私は自分の頬が緩むのを感じました……そうですね。ふふっ。
「にに、虹夏ちゃんとお泊り!?つまり2人は……アッ脳が壊れる音が聞こえる、後藤ひとり。ここに死す」
「後藤さん!?」
突然倒れる後藤さん、何が起きたのか理解できず呆然とする中。
「み、水ください……って何で私以外にも倒れてる人が」
何故かもう1人現れました―――カオスでございます。
「―――肝臓に染みる~!ありがとねー!まさかホントにお味噌汁まで買ってきてくれるとは」
「い、いえ倒れてる人を見過ごす訳にはいきませんから」
突然現れた女性、彼女はお水以外にも酔い止めやしじみのお味噌汁におかゆに天日干ししたフカフカのベッドをご要望されて……とりあえず近くのコンビニで答えられる分は買ってきました。さっきは倒れてる人が2名という状況に混乱してしまいましたが、何とか復活されてよかったです。
「さっきから気になってたけど、ピンク色のジャージの女の子の頭撫でて何してんのー?」
「破壊された脳の修復中、です??」
「ご、誤解でよかった……」
「あはは!よく分かんないけどおもしろいねー!」
お2人とも落ち着かれ……目の前にいる女性は落ち着かれてるかは分かりませんが、倒れてしまった原因は恐らくお酒でしょうが今もドカ飲みされていますし。楽しそうにしていますが、色々な面を考えてこの人の事が心配になりますね。
「2人とも名前なんて言うの?」
「ご、後藤ひとりです……そ、それでこの子が琴寄花音ちゃんで」
「……よろしくお願いいたします」
「へぇ~可愛い名前、てか花音ちゃんはお人形さんみたいだね!お人形におにころ……もしかして最初におが付く所が一緒?私天才かもー!これでノーベル賞は私んモンだぜ~~!!」
後藤さんが真剣な表情と瞳で私に逃げようと訴えてきています、そのお気持ちは正直とても分かります。しかしこの人を放置して逃げてはいけないとも思い……具体的には放置したらまた倒れてそうで心配なのです。
「あれっ、ギターじゃんこれ!ひとりちゃん弾くの?私バンドやってんだーインディーズだけどね」
「……こここれ買ったはいいんですけど一日で挫折して今から質屋さんに売りに行く所だったんですもっと相応しい人にこのギター使ってもらって大空に羽ばたいてほしかったんですわわ私は全然弾けませんあー何円で売れるかな今日は花音ちゃんとホテルで夜を過ごすんだー!」
この人はバンドマンだったのですね、それにしても後藤さんはまるで詠唱のように長いお言葉を……最後はよく分かりませんが。
「……待って、一日で諦めるのはもったいないよ」
「えっ?」
「売るのはいつでもできるからさ、もう少し続けてみたらそのギターに相応しい人になれるかもよ―――なんちゃって!良い事言っちゃったー!」
また戻ってしまいましたが、間違いなく今のは心の底からの本音で……後藤さんの方をチラッと見ればどうやら感じた事は一緒のようです。
「いや、ごめんなさい……今の話全部嘘です」
「えっ、凄いスラスラ嘘つくね?」
この人はバンドでベースを弾かれているそうです、お酒とベースは命より大切な物で毎日肌身離さず持っているとおっしゃっていますがベースはこの場に存在しませんでした。居酒屋に忘れられたらしく、取りに行くために両手で私と後藤さんと引っ張ってダッシュでGOでございます……お酒が発揮する怪力は凄まじいですね?
「―――じゃーん!これ私のマイベース!昨日のライブも大活躍だったんだよ、でも打ち上げで飲み過ぎてさ?気が付いたら日が昇ってるし」
無事ベースも見つかりまして……それはよかったのですが。
「あの、一体何時間飲まれているのでしょう?」
「打ち上げが22時からだったから……まぁ半分意識ないからねぇ、このままダブル太陽キメちゃってもいいんだけど」
「お、お酒好きなんですね……」
「うん!だってお酒飲んだら全部忘れられるから!」
様々な不安をお酒で全て消し去る、それを幸せスパイラルと呼んでいるそうです。たまたま今日飲み過ぎただけと思っていましたが、この人はいつもなのですね……私は今の話で個人的に引っかかった部分について尋ねてみようと決めました。
「これをずっと続けていては健康に影響が……」
しかし、この人は笑いながら。
「大丈夫、そんなん気にする必要ないよ!私だってまだまだ若いんだしねー!」
「……大丈夫ではありません」
「えっ?」
「アッ、この流れは……」
お酒が人にとって大事なのは分かります、何かに頼りそれが支えになるのならば良いと言えるのですが……バランスを崩してはいけません。それではいつかお体に支障が出てきてしまい、笑う事すら出来なくなってしまいます。
そう伝えると。
「た、確かにそうだけどさ……さっきも言ったように若いから「その考えはいけません」
「日々の積み重ねが己を作るのです、若くても体に入る負荷は必ず存在します。やり過ぎては年齢に関係なく、きっとパンクしてしまうでしょう」
「し、幸せスパイラルは最高で……」
「幸せスパイラルも上手くバランスを取らなければ、負のスパイラルに変わってしまいますよ……あっ。も、申し訳ございません!つい熱が籠ってしまい、押し付けるような真似を」
この人が心配なのは確かですが、個人に踏み込み過ぎてしまい……私は頭を下げて謝りました。
「あっ、いえ大丈夫です……」
「あ、あの」
「そそ、その通りです……ヤベェ事してるってホントは分かってて。あっこれまずい、戻っちゃう。不安見えてきちゃった」
―――本当はこっちが素なのでしょうか?
その後、焦っておにころを何本か一気に飲まれると「あははー!幸せスパイラルはやっぱり最高だー!」と戻られました。私は後藤さんと目を合わせて……お互いに何とも言えない表情を浮かべたのです。