TS銀髪美少女に感情ぐちゃぐちゃにされる結束バンド 作:ガテル
XX年後。
「―――ただいま花音ちゃん、今日も武道館埋めてきちゃったZE!」
「ひとりさん、毎日の武道館ライブお疲れ様でございます」
「大切なwifeが家で待ってくれてると思えば無理ないよ、でも……癒しが欲しいなって」
「帰ってきて早々ですか……ふふ、でもそういう所も私は好きですよ」
「好きだZE、花音ちゃ「ひとりちゃん、ご飯ここに置いとくからね。それに……たまにはお部屋から出てきて一緒にお話しましょう?」アッ……」
「ギャアアアアアアアアア!?」
幸せスパイラル提唱者さんとのお話でご自分の未来を想像してしまったらしく、最初は明るく幸せに満ちた笑顔をされていたのに今や反転状態でございます。後藤さんの未来で一体何が起きたのでしょうか……彼女を元に戻すため、私は取り乱す後藤さんの頭を10分ほどナデナデし続けると何とか落ち着いてくださいました。一安心です。
「かか花音ちゃん、未来は私に優しくなかったよ……」
「大変でございましたね、よしよし。もう大丈夫ですから」
「や、やっぱり大切なのは今生きるこの瞬間だよねウヘヘッ」
「あははー!さっきも思ったけど君達って結構ヤバい子?」
改めて、チケットノルマで困っているという事情を後藤さんが説明されるとベースのお姉さんは泣くほどに同情してくださりました。どうやらこの人も最初の頃はチケット売りで苦労されたらしく、やはり大変な事なのですね。私もお声掛けした人全員の様子がおかしくなってしまったのをこの目で見たのでよく分かります(??)
後藤さんがギターを売るとおっしゃったときも、この人は真剣にそれを止めてこられました。お酒や健康面で心配になる所はあるのですが、バンドへの想いは間違いなく本物だと伝わってきます。
そして、後藤さんの話を聞き何かを閃かれたらしく楽しそうに上着を脱ぎ始めております。
「よーし!準備して!今から私とひとりちゃんの2人で……」
「わっ、私初めては花音ちゃんって決めてて……」
「―――今から路上ライブをするんだよー!」
衝撃宣言の後、路上ライブのためにバンド仲間の方に機材を持ってきてもらったりしてあっという間に準備が整ってしまいました。展開についていけない後藤さんはアワアワとされており、そんな彼女を見てこの場をどうするか必死に考えていた私ですが。
「みなさーん!今からライブします!タダなんで見てってください!」
「……あの子、不思議のライブハウスにいたメイド姿のお人形さん!?私は幻覚を見てたわけじゃないのね!」
沢山の人達が集まってきてしまいました、これでは今更無しですと言う訳にはいきませんね……その人達を見てお姉さんはとても嬉しそうにされていて。
「いや~!いっぱいいて嬉しいね!何か花音ちゃんのファンっぽいちょっと危ない人もいるけど」
「いえ、私にファンなどいるわけありませんよ」
「あはは!この子無自覚系かー!」
「?」
「ううん、何でもないよ!それにしても―――注目度が高いってのはいいね」
口調こそ軽いですが、その言葉にはどこか重みを感じられます。そういえばこの人もチケット売りで苦労されたとおっしゃっていましたね?見てくれる人が沢山いる、ですか……私の表情から思考を察しられたのか彼女は真面目な顔つきで。
「誰かに見てもらうってのは全然簡単な事じゃないんだ、まぁ今回は突然の路上ライブだし余計にね。みんなスルーが当たり前、だから注目……存在を認知されるって凄く大事なんだよ?」
「そう、なのですね」
「路上ライブはクオリティ次第じゃ人は去っちゃうけど、大丈夫―――演奏でみんなを引き込むから」
そうおっしゃる、彼女の目は……バンドマンそのものでした。
「て、敵を見誤るなってどういう意味なんだろ」
「後藤さん?」
「あっ、花音ちゃん……」
演奏前、予想以上に大勢の人が集まってしまいました。私は後藤さんが心配になり、彼女の元へ行ったのですが何やら考え込んでいる様子で……聞けば「今目の前にいる人達は君の敵じゃないからね、見誤るなよ」と言わられたそうです。
ライブを、演奏を聞く人達は敵じゃない―――恐らくそれは。
「ひ、人も多いしこんなの私には……」
「あの人のおっしゃる意味、私には分かります」
「えっ?」
押し入れの中で後藤さんのギター弾きを聞いているとき、いつも心が躍り楽しい気持ちになるのです。好きだから何度でも聞きたいと思う、つまりこの場の人達も私と同じですね。わざわざ足を止めるのですから、皆さんも楽しみにされているのです。大丈夫……あの人達は敵ではなくむしろ味方ですよ。
そう伝えると、後藤さんの顔色が少しだけ変わられました。まだ実感は持てていないでしょうが……
「―――それじゃあ始めますねー!曲はこの子のバンド、結束バンドのオリジナル曲です!」
演奏が始まりました、響き渡る音を耳に入れてあの人はかなり腕の立つバンドマンであるのがよく分かります。「大丈夫―――演奏でみんなを引き込むから」、あの言葉通りの自身に満ち溢れた素晴らしい演奏。私以外の皆さんも真剣に聞き入っています、後藤さんは不安そうな表情を浮かべております。私が伝えた内容に少し迷いは見えましたが、やはり己で確信が持てないと難しいですか……彼女の成功を祈っていたそのとき。
「頑張れー!」
「ちょっとアンタ何言ってんの?」
「ギターの人が不安そうだったからつい……」
「ついって……」
声援の瞬間、後藤さんの瞳に光が灯られて―――良かった。これでもう大丈夫ですね、私は確信いたしました。
心の底から安堵する私に、後藤さんはアイコンタクトを送ってきました。口に出さずとも、彼女は「花音ちゃんの言ってる事、ようやく分かったよ」とおっしゃっているのがは伝わり……私は思わず頬が緩むのを感じたのです。
ライブが終わり、弾いた2人は大勢の拍手に包まれました。
「あの、このライブのチケット買ってもいいですか?」
「2枚ください!」
「えっ……?」
「良かったですね後藤さん……後藤さん?」
突然後ろに倒れそうになった後藤さんを何とか掴み、助ける事ができました。彼女は両目をグルグルさせて混乱している様子で……頑張りましたね。
「お疲れ様でございます」
「あっ、今の台詞未来のやつと一緒だ。嬉しい……」
お2人はチケットを購入してくださり、ノルマ分を無事達成できました。現実でも後藤さんにファンができましたね、何だか嬉しい反面少しだけ寂しさもあるような気がします……この気持ちは自分でも上手く言い表せないのですが。
「ファン1号さんとファン2号さんですね」
「う、うん……でも花音ちゃんは」
言葉は途切れ、恥ずかしそうに俯かれてしまいました。一体どうされたのかと首を傾げたのですが、少し空いた後に後藤さんは上目遣いで私を見ながら。
「ファン0号、だよ……」
それを聞いた瞬間、胸の内に感じていた寂しさがスッと消えて―――ふふっ。私もわがままでございますね?
「よかったね、ノルマ達成できて」
「は、はい……」
「私も今日の演奏で結束バンドのライブ見に行きたくなっちゃったよ、普段は私新宿拠点で活動してるんだけどさ。このライブハウス知ってるんだよね、当日でもチケット買えるでしょ?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ行かせてもらうね、楽しみにしてるよ」
こうしてチケットノルマ達成に終わらず、ベースのお姉さんも結束バンドライブを見に来てくださるのが決まりました。恐らく後藤さんの実力を見抜いたのでしょうね、この調子でもっと沢山の人が彼女の凄さを知ってくれれば嬉しいです。
駅に着き、ここで別れる事に。
「また一緒にライブしようねー!2人ともバイバイ!」
初対面は驚きましたが、バンドマンとして本当にカッコいい人でしたね。横目で後藤さんを見れば、彼女も私と同じ考えらしく目を輝かせていました。ただ一つ、健康に関しては心配です。路上ライブが終わった後の駅に向かう途中で、コンビニに入られてまたおにころを沢山買っておりましたし……とりあえず私達も帰ろうとすると。
「一度素に戻りかけたときに消費したおにころ分を補充したらお金無くなっちゃった、電車賃貸して~」
「……あの、やはり少しはセーブした方がよろしいのでは」
「ダメだよー幸せスパイラルは神なんだから!花音ちゃんとの話で改めて思ったよ、私はこれが無きゃダメだってね。駆け抜けるぞー!ついてこい私の体ー!」
私は電車賃を渡し、これもこの人なりの生き方だと落とし込み……
「―――それでも、できません」
「か、花音ちゃん?」
やはりこの人の事が心配です、私は彼女の手を握って。
「せめて連絡先を交換いたしましょう、何か言うなどはいたしませんから……私はあなたを(心配だから)知っていたいのです。ダメでしょうか?」
それを聞いた、ベースのお姉さんは何故かお顔を赤くされて……
「わ、私を知っていたいって……う、うん。まぁ連絡先交換なら全然オッケーだよ」
そして、ようやくこの人の名前を知りました。
「―――廣井きくり、可愛いお名前ですね。これからよろしくお願いします、廣井さん」
「よ、よろしくね?えっあっその……バイバイ!!」
顔を赤くされながら走り去ってしまいました、最後はさっきに一度見た素の彼女だったような……気のせいでしょうか?
次回から喜多ちゃん編が始まります!
結束バンドのイソスタアカウント宣伝写真を撮るために、花音と2人で色々な場所を巡る(実質デート)という感じのお話です。何話か続く予定となっているのでお楽しみに!