体が生えたディ〇ダみたいな鬼   作:南亭骨帯

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どこでそんなもん知ったコイツ

 

 

 

「っ…………ちく、しょう……」

 

 

 ギリ、と歯ぎしりの音。そして耳の傍まで上がってきたのではと錯覚するほどの心臓の拍動音が身体の内側で響く。

 

 

 鬼は倒した。身体が朽ちていくのを見届けた。しかし血を流し過ぎた。

 

 左の前腕を一部食いちぎられ、激痛に苛まれながらも鬼の頸を跳ねることに成功した。勝利したのだ。

 だが、鬼を倒したからそれでお終いとはならない。鬼につけられた傷は消えないし、流れ出る血液を止める術もない。

 

 脳裏を過ぎる死の気配に冷静さは少しずつ失われていく。鬼に家族を殺されたあの日から命を惜しいと思ったことはなかったけれど、いざ死がそこまで来れば恐怖するのも当然だろう。

 

 

 こんな山の中で終わるのか。独り、誰にも知られないまま事切れてしまうのか。せっかく鬼を殺せるようになったのに、こんな所で終わってしまうのか。

 

 助けは来ない。単独で向かわせた任務をわざわざ確かめに来るはずもない。ただでさえ危険な夜の山中に踏み入る者などいるはずもない。

 

 

「誰も……いないのかよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いるさっ、ここに一人な!!

 

 

 

 

 

「うわーっ!?デカイ変態の化け物!?」

 

 

 やあ、泥管だよ。

 

 

 泥管は鬼殺隊と鬼が戦っている時、基本的には介入しないようにしている。だって人間を殺すのもよくないし、かといって鬼は鬼で一応仲間なので手を出したくない。

 

 なので人間が勝って生き残った後、負傷している場合にのみ顔を出す。鬼?自分で治せよそういう生き物だろお前ら。

 

 

 まさか自分の末路がこのデカイ変態の化け物の胃袋行きなのかと泣き始めた鬼殺隊士をよそに、泥管はテキパキと応急処置を行っていく。

 

 消毒代わりの酒!清潔な包帯!折れた部分への添え木!あっという間に左腕以外の部分に処置が施されていく。

 

 そして残った肝心の大怪我。食いちぎられて欠損した前腕部をじっと見つめており、もしや食欲と戦っているのだろうか?

 

 しばし傷口を眺めていた泥管は、自分の頭に手を持っていくと握りこぶし大の塊をちぎりとった。すぐ再生した。

 

 そうしてちぎりとった塊を、なんと食いちぎられた前腕部にペタリと押し付けた。一瞬、とんでもない激痛が走ったものだから鬼殺隊士も大絶叫。汚ねえ高音だな。

 

 

「いっっ……!?テメェ、何しやが──!?」

「───」

「…………治っ、た?」

 

 

 思わず殴りかかりそうになる鬼殺隊士。慌てて振り払った左腕の違和感に目をやると、食いちぎられて凹んでいたはずの部分がどこにも見当たらなかった。

 

 何が起こったのかさっぱり分からず、口を開けてポカンとしたまま泥管と左腕を往復する視線。泥管は大変誇らしげに胸筋を震わせている。

 

 

 実は泥管、頭部に限りいくらでも姿形を変化させられるという血鬼術なのだが、それを治療に応用することができるのだ。

 

 欠損した部位と同等以上の質量を頭部からちぎり取り、傷口にくっつける事で失われた部位を元通りに再現してしまう。

 

 ……拒否反応?何それ美味しいの?と泥管は申しております。

 

 

 要約すると『回復力を持ったアンパ〇マン』のような血鬼術。自力で再生可能な鬼には毛ほども必要ないけれど、人間からすると喉から手が出るほど欲しくてたまらない能力なのだ。

 

 

「た、助けてくれたのか……?」

「───!」

「……よく分からないけど、ありがとな」

 

 

 サラサラのキューティクルヘアーが特徴的な男は村田と名乗った。お前か。

 

 

 村田という男は水柱の同期らしく、彼もまた水の呼吸を使っている為かどうしても比較してしまうようだ。そしてその度に自己肯定感を失っては奮起し直す、という繰り返し。

 

 今回の任務にしても『俺だって鬼殺隊なんだ!』と意気込んだまではよかったのだが、蓋を開けてみればほぼ相討ちに近い形での勝利と何とも格好つかない。

 

 

「……情けないよな。同期だった奴は柱になってるってのに、俺はまだ(かのえ)*1なんだから」

「──」

「しかもソイツさ、俺と同じ水の呼吸を使ってるんだぜ?もう嫌になっちまうよな」

「──」

「俺だって頑張ってるのになあ……ああ、駄目だ駄目だ。思考がドツボにハマりそうになってきた」

 

 

 段々と笑えない領域まで自虐し始める村田。泥管は漠然と『まず柱を比較対象に挙げられるだけ凄いのでは?』と思っている。それはそう。

 

 水の呼吸は鬼殺隊の中で最も使用者が多い呼吸だ。適性を持った隊士が多いのもそうだが、型の多さと対応力の高さが生存率に繋がっている部分も大きい。

 

 しかし水の呼吸を使う隊士達のほとんどは自分と比較する隊士として水柱を挙げたりはしない。だって明らかに格上だと分かりきってるし。

 

 たまたま同じ時期に鬼殺隊に入っただけの人間を物差しにし続けるのはよくないのではないだろうか。泥管は鬼殺隊の事がよく分からなくなってきた。

 

 

 このまま彼の愚痴に付き合ってやってもいいが、自己肯定感クソザコナメクジでいられても面倒くさい。

 

 

「……こんなんじゃ駄目だよな。よし、俺もこれから──」

「───」

「へ?ちょ、うわあっ!?」

 

 

 なので決めた。泥管はこの男の為に一肌脱いでやる事にした。

 

 まだ傷が痛む身体を無理やり持ち上げて強制的に立った状態にさせる。突然の事態に村田も情けない声を漏らしてしまうが、怯える暇もなかった。

 

 

 次の瞬間、泥管の小指が鳩尾を、横隔膜の辺りを思い切り突いた。泥管から「パウッ!」と奇妙な掛け声が聞こえたような気がする。幻聴かな?

 

 

「おげーっ!!?」

 

 

 凄まじい技量で加減された一突き!その威力は村田の肺の中にあった空気を全て吐き出させるほど!

 あっという間に酸素を失った身体は当然!酸素を求めてより強く、より大きく呼吸を始める!これまでの限界を超え、一度に大量の酸素を吸い込み始めた!

 

 

「なんっ……何だ……?何したんだよお前……」

「───!」

「まさか……俺の呼吸を強くしてくれた、のか?」

 

 

 酸欠の苦しみを乗り越えた先にあったのは、これまでとは比較にならないほど充足した感覚。強引な手法で強化された水の呼吸は、村田という人間をより強く確かな者へと変えた!

 

 

 実は成功するかどうかは半々だった事は内緒である。

 

 

 さっきまであれだけ痛くて敵わなかった身体が痛まない。不可思議な手段で治療された左腕にもなんら違和感がない。

 

 泥管に促されるがままに刀を抜き、何百、何千と繰り返した型を繰り出す。

 

 

 水の呼吸 壱の型・水面斬り

 

 

 荒波の如き気迫を感じさせる、力強い横薙ぎの一撃。これまで振ってきたどんな一撃よりも手応えがあった。

 

 

「っ…………!」

「───?」

「うおおおお!?やっと見えた(・・・)あああ!!」

「──?」

 

 

 鬼殺隊が使う呼吸は、嘘か誠か呼吸と同じ幻が見えるという。炎ならば炎の、水ならば水の幻が見える。

 

 しかし幻を見せられるのは実力のある者のみで、生き残るのがやっとな隊士では火の粉も水滴も見えやしない。

 

 これでも水柱と同期で長く生き延びてきた村田。ここに来てようやく自分の刀に荒波が見えたのだ。喜ばないはずがない。

 

 

 泥管はそんな事知ったこっちゃないので「何言ってんの?」と言わんばかりの態度である。喜んでやれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、とある山で村田と再会した水柱は何か信じられないものを見るような目をしていた。

 

 

 

*1
下から四番目の階級





【大正コソコソ話】
 呼吸が大幅に強化された村田は経験と適性の差もあり、水の呼吸同士で戦えば炭治郎よりちょっと強いくらいになった。

 後で水柱から本来存在しない拾壱の型を教えられたが、村田曰く『あんな技そうそう出来てたまるか』と怒られたらしい。水柱は首を傾げていた。兄弟弟子なら出来るぞ?多分。

ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?

  • ええんやで
  • 駄目、全部書け
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