泥管は強い。長男だからとか心がとかそういう意味ではなく、身体能力的な……生物的な意味でとても強い。
鬼の中でも飛び抜けた身体能力と雷の呼吸が合わさり、陽光をも克服した泥管は飲まず食わずで一睡もせずとも三ヶ月くらいならピンピンしている。
その上で、だ。今現在の泥管は非常に疲れ切っていた。
泥管は面倒見がいい。一度でも飯を食ってくれた者には人間だろうが鬼だろうがそれなりに世話を焼くし、頼み事なんかも(覚えていられる限りは)なるべく引き受けてやりたいと思っている。
今の泥管が抱えている仕事は畑の手入れに始まり零余子の食事、柱達に渡す土産や弁当の用意。そして先日の雪合戦に触発されたのか猗窩座から組手を頼まれたりしている。
それに時折人里に足を運んで物々交換や物の売り買いを行い、それでも足りない食材は自力で調達している。
肉が足りなくなれば蝦夷まで行ってクマやシカを狩り、魚が不足すれば太平洋をバタフライで泳いでクジラを仕留めて持ってくる。強すぎワロタ。
それだけのタスクを熟す日々を一ヶ月。並大抵でなくとも人間には不可能にも程がある強行軍な日常だった。
如何に泥管が外れ値の身体を持つとはいえ、流石にこんな日々を続けていれば疲労も溜まる。溜まった疲労は思わぬ形で表に出てくるものだ。
その日、朝から零余子はずっと何かを言いたそうにしていた。チラリとこちらを見ては口をモニョモニョとさせて顔を逸らされる。はて、何かおかしなところでも……いやおかしなところだらけだけども。
「ど、泥管さん……?」
「──?」
「いえ、ご飯ではなくて……その、申し上げにくいのですが」
「お顔が変形しておられますよ……?」
「───!!?」
そこには立派なアンパン男の頭があった。丸く、大きく、ふっくらとした愛くるしい顔が。
実は泥管、あまりに疲れ過ぎると血鬼術の制御が乱れて勝手に頭部が変形してしまう。ここ数十年で起こらなかったせいで本人もすっかり忘れていた。
慌てて姿見を見ながら己の頭をペタペタと触ってみる。鏡に映った球体の頭そのままの感触が返ってくるばかりで、タチの悪い血鬼術による幻覚を疑うこともできやしない。
なんてこった。ちょっと零余子の食事を一日五食作りながら畑の面倒を見つつ、面識のある柱に他の柱達の分まで含めた弁当を押し付け、蝦夷やら太平洋やらに食材を取りに行っただけなのに。何で生きてるんだお前。
「ど、泥管さん!私、もう結構強くなれたから!これ以上は泥管さんが倒れちゃいますよ!?」
「──」
「『別にこのまま後二ヶ月はいけるけど頭の形が勝手に変わったことが辛い』?ええ……?」
別に死にかけではない。ちょっとお腹が空いて力が出ないだけで。顔は濡れても大丈夫だから。
しかし愛弟子(真)にここまで心配されては仕方ない。零余子にも柱にも悪いが一日だけ休みを貰うとしよう。泥管、急速充電開始。
とりあえず零余子を確保。疲れた時には他人の体温がいい睡眠導入剤になるのだ。零余子は一瞬死を覚悟した。
零余子を抱えたまま布団にダイブ。もしやそういう役目か!?とワタワタし始めた零余子は二秒後の寝息に恥じ入るばかり。このムッツリさんめ。
「ていうか力つっよ……!?」
「zzz……」
「ああもう抜け出せないし……いいや、私も寝ちゃお」
ジタバタと暴れてみても身体が引っこ抜ける気配がこれっぽっちもしない。特に困ることも急ぐこともないし、零余子もそのまま泥管の腕の中で眠りについた。
「…………これ、どうしたらいいのかしら……」
恋柱・甘露寺蜜璃は大層困惑していた。
最近、泥管がいつにもまして忙しなく動き回っている事に気づいた鬼殺隊。御館様から任務として頼まれたので様子を見に来たのだけれど。
警戒心スッカラカンの鍵がかかってない家に上がり込んでみれば、鬼と思われる少女を抱えたまま爆睡している泥管の姿があった。
しかもその鬼の少女、見間違いでなければ先日交戦して取り逃した下弦の肆の鬼だ。
もしここに来たのが霞柱か蛇柱だったなら、問答無用で頸を切って素知らぬ顔でこの家を後にしていたかもしれない。風?風柱は切れない事を理解してるので舌打ちして帰っていくよ。
では恋柱ならどうするのかというと。
「こんなの……絶ッッッ対に夫婦よね!?」
突然の尊みの供給に耐えきれず赤面。テンション上がってきた。
恋柱の名が指し示す通り、彼女は大変惚れっぽい。それも異性に限らず同性でさえも乙女センサーが反応し、様々な仕草や感情にさえ逐一ときめいてしまうほど。
そんな彼女の目の前に、鬼とはいえ同衾*1している男女をお出しすればどうなるか?そりゃあ尊みの過剰供給でその場にへたり込むだろう。
先日交戦した記憶もどこへやら。願わくばこの二人がどんな風に仲良く*2しているのかを直接見聞きしたくて堪らなくなっている。
「んぅ……?おきゃくしゃん…………?」
「…………あ」
しかし如何に熟睡していたとて、寝ている者の横で出していい声量ではなかった。
目を覚ましてしまった零余子が寝ぼけ眼を擦りながら、舌っ足らずな話し方のままこちらを向いた。向いて、しまった。
「………………」
「………………」
「こ……こんばんはー……?」
「ぎゃああああああああああっっ!!?はしっ、はし、柱ァアアアア!!?!?」
挨拶は大事。だけど今じゃない。
零余子からすれば目を覚ました瞬間、目の前に自分の頸を切りに来た処刑人が居たようなもの。そりゃあ脳内ポップコーンでてんやわんやな大騒ぎ。
零余子が叫べば当然泥管も目を覚ます。愛弟子の悲鳴に跳ね起き、零余子を小脇に抱えて離脱。甘露寺の背後へと思い切り飛び退いて何事かと周囲を見回している。
甘露寺は甘露寺で大仰天。気まずくならないように無難に挨拶でも……と声をかけたら鬼を見た一般人くらい驚かれた。立場逆転してんじゃねえか。
「はし、柱!泥管さんあの人間柱です!」
「───」
「ち、違っ……く、はないけど……!違うの!話を聞いて!?」
「私の頸を取りに来たんだろ!?あの日殺し損ねたから何としても殺してやろうって思ったんだろう!!?」
「私の事なんだと思ってるの!!?」
「鬼狩りの最上位の柱でしょ!?妥当な評価と反応だよう!!」
もうこれ収拾つかねえな。一番困ってるの泥管だぞこれ。
【大正コソコソ話】
伊黒を経由して泥管お手製の桜餅を食べた甘露寺は大層それを気に入った模様。伊黒はブチ切れたけど頼まれた以上はどうしようもなく、血管ピキピキで桜餅を大量に注文した。後日千個届いて頭を抱えた。
零余子から泥管への感情は父親に対する親愛が一番近い。一回間違えて「お父さん」と呼んだらその日は一日中甘やかされまくった。
ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?
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ええんやで
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駄目、全部書け