長く生きてきた泥管は色んな事を見て聞いて知ってきた。知らぬことは積極的に学ぼうとする本人の気質もあり、ひょっとすれば鬼舞辻無惨よりも逃れ者の鬼よりも物知りかもしれない。
それでもこの世の全てを知った気になんてなれないし、どれ程の時が経っても理解できない事だってある。
その理解できない事の一つが乙女心。人間時代から筋金入りのニブチンクソボケである。
故にだ。たまに鬼も人も自分に熱視線を向けることがあるのだけれど、その理由もさっぱり分かっていない。とりあえず上弦の陸からの汚い野良犬を見るような視線とは違う、としか分からない。
「その……同衾の現場に踏み込んだりしてごめんなさい!」
「どどど、同衾じゃない!!」
「え?でもすっごく幸せそうな顔で……」
「それ以上言うなー!」
だから目の前で何をそんなに申し訳なさそうにしてるのかも、零余子が何をそんなに必死に否定しているのかも分かっていない。
二十時間ほど寝て零余子の悲鳴に起こされ、困惑しているうちに零余子と柱が言い争い(?)を始めている。こんな状況は泥管でも初めての経験だ。
しかし結論が出そうにないので、このまま続けさせても互いに熱くなって手が出かねない。二人を同時に落ち着けなければ。
「というか他人の家に───……泥管さん?」
「───」
「あ!!桜餅!!」
そういう時は美味いものを食うのが一番早い。また蛇柱から頼まれていた桜餅を作っていたので、蛇柱には悪いがここで使わせてもらおう。
ちなみにここで無理やり口の中に捩じ込んでこないあたり、泥管は女性には幾分か優しい。男なら問答無用で捩じ込まれてる。
零余子は泥管の菓子に、恋柱は桜餅に目がない。数秒前の言い争いから一転、ほんわかおやつタイムである。緑茶もどうぞ。
「はふぅ……相変わらず美味しいですね」
「んーっ!美味しい!」
「──」
緑茶と共にゆっくりと食べる零余子と、豪快に一口で半分以上を頬張った恋柱。どちらも笑顔を浮かべて味わっており、泥管もこれにはご満悦。
甘味とお茶で冷静さを取り戻したのか、口の中が空っぽになった時には先程のように取り乱したりはせず、腰を据えて話せる状態になってくれた。
「……それで、一体どんな御用で?」
「えーっと……その、最近泥管さんがとても忙しそうって柱の皆が言ってて……御館様から様子を見てきて欲しいって」
「──」
「鬼殺隊が鬼の心配をするんですか……?」
泥管限定でな。組織名と真逆である。
柱なら誰でも、しかしなるべく泥管と面識のある柱に任せたかった御館様だったが、逆にまだ面識のない柱とも会わせてみるべきか?と思ったらしい。
残る霞、水、岩、恋、花の誰にしようかと悩んだ結果の今である。霞と水は他の柱と一緒に向かわせた方がいいという判断により却下され、今手が空いていたのが恋柱だったという。
ちょっと乙女心センサーがフル稼働していてアレなテンションだった甘露寺だが、これでも一応他の柱からそれなりに泥管のことは聞いている。
曰く、深く考えるだけ無駄。
曰く、理知的でハツラツとした鬼。
曰く、俺よりちょっとだけ派手。
曰く、度し難いナマモノ。
曰く、あらゆる理から外れた理解不能の化け物。というかよくも太らせてくれやがったなこの野郎お前の手頑丈すぎて毒の試験にならねえんだよふざけんなアホボケカス。
なんか蟲柱だけ物凄い私怨増し増しだったような気がするけど概ねそんな感じ。
いざ実物を目の前にした甘露寺の感想はというと。
(この
正気に戻れ甘露寺。首から上は辛うじて可愛いかもしれんが、それ以外で全部駄目になってるぞ。
泥管は基本どんな頭になっていても無表情。意図的に変えようとしない限りは怒ろうが笑おうが泣こうが無表情のままだ。
なので物凄く、超超超好意的に見ればうさぎやペンギンのような『無表情に見えるけど滅茶苦茶感情の動きがあるマスコットキャラクター』に見えなくも……ごめんやっぱ無理。鬼狩りは異常者。
その可愛い(大嘘)見た目に加えて甘露寺の好み直撃の桜餅を作れる。こんなのもう運命では?蛇柱泣くぞ。
「まあ、事情は分かりましたけど……私はどうするつもりで?」
「え?」
「いや……私は泥管さんと違って人間を十一人くらい食べてますし、下弦とはいえ十二鬼月。流石に見過ごせないのでは?」
「それは……」
泥管はさておき、零余子はどうするのか。乙女脳が一瞬で鬼殺隊の思考に切り替わる。
普通に考えれば人間を食ったことがある時点で有罪。それに加えて十二鬼月となれば尚のこと見逃していいはずがない。
というか十一人って言った?十二鬼月になれるような奴が十一人?少なくね?
実は零余子、食った十一人のうち3人が『稀血』という、鬼にとっては栄養満点な人間だった。そのお陰で十二鬼月入りを果たせたのだ。
ついでに言えば十一人中十人が賊徒だったりもする。夜中に女一人で歩いていれば格好の餌だと思った賊徒を美味しく頂いた。残り一人は普通に浮浪者。
「……だから十二鬼月はたまたま入れただけ。下弦の肆になってからは泥管さんのお陰で人を食べなくてもよくなったから見逃して欲しいんだけど」
「そうなの!?」
「うん。月に一度、泥管さんのご飯を食べていればそれ以外は寝てるだけでいいし」
泥管の顔を与えられて変化した肉体は人の肉を必要としておらず、鬼とは違う別の何かになったようにも思える。
つまり今の泥管と零余子は新たに被害者を出すことの無い……討伐する理由が薄い存在になっている。
被害者の事を思えば敵討ちにするべきかもしれないけれど、襲った相手が人間であれば殺していたであろう賊徒の為にそんな事をする気にもなれない。
しかし柱としてそんな事を許していいのか。甘露寺は大いに悩んだ。目を閉じたままウンウンと唸り、さほど自信の無い頭の中で様々な意見がぐるぐると飛び交っている。
結局、自分一人では答えを出せそうにないと判断。待たせておいて申し訳ないが、下弦の肆については保留で……と伝えようとしたのだが。
「……あれ?居なくなっちゃった?」
目を開けた時には誰もいなかった。こつ然とその場から姿が掻き消えたと思ってしまうくらい、物音一つたてずに。
……いや、一つだけ音は聞こえていた。けれどそれは足音でもなんでもなかった。
「あの『べべん』って音、なんだったんだろ?」
【大正コソコソ話】
泥管は人間だった頃の記憶を持っている。なので鬼舞辻無惨のことはそこまで好きじゃないし、上弦の壱と肆と伍以外の鬼には基本的に優しい。年齢が低い鬼ほど甘やかしたくなる。
人間だった頃の名前は
12:20追記
上弦の伍を入れ忘れていたので修正しました。
ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?
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ええんやで
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駄目、全部書け