泥管は基本お人好しである。
何度も何度も言ってきたことだが、彼は人に頼られることが嬉しいし頼まれたら断れない。
そんな人柄の彼に、可愛くて可愛くて仕方ない愛弟子から頼み事をされたらどうなると思う?
「───!!」
そうだね。『お父さん張り切っちゃうぞぉ!!』状態突入だね。
零余子が器用に【爆血】で鬼の体を汽車から焼き尽くしている中、泥管は全ての車両で客を食おうとしている鬼の身体を吹き飛ばしている。暴力的なシャトルランですね。
しかも煉獄を見て覚えたのかゴォォォ……と炎の呼吸の音までしている。雷の呼吸と切り替えて物凄いスピードとパワーだ。
「このっ、このっ!!せっかく頑張ろうってしたところによくも水を差してくれたわね!!」
「───!」
「大体アンタ、初対面の時に私にも血鬼術使おうとしたこと忘れてないからね!?ふざけやがってよぉ……!」
「───!!」
「その腐った性根、根こそぎ焼き尽くしてやるわぁ!!」
「───!!!」
なんということでしょう。元下弦の肆と一般通過ムキムキ鬼によって下弦の壱の肉が根こそぎ消えていくではありませんか。
ついでに何故か一緒にいる禰豆子に【爆血】の使い方を教えておられる。そうそう溜めて放つ、じゃねえよ。何教えてんだ。
「むー!」
「汚物は消毒だー!」
「──!」
もう誰にも止められない。色んな意味で止まらない。ここにイカレた鬼三人衆が爆誕した。
残念ながらその後、すぐに汽車そのものが止められた。さすが柱、仕事が早い。
「はぁ、はぁ……少しすっきりした……!」
「む……」
「──?」
「眠いんじゃないですか?ほら、目を擦ってますし……ああもう、ほら、木箱はこっちだって」
ついでに禰豆子も体力切れ。ナマモノ二人についていけるほど人間はやめてなかった。今鬼だけど。
禰豆子を木箱に戻らせ、乗客達に重傷者がいないことを確認。持ってきた弁当も無事。ヨシ!
窓から脱出して汽車全体を見てみると、想像の数倍酷いことになっていた。
全ての車両が脱線し、蛇のうねりのようにぐにゃぐにゃで停止している。それに鬼の肉がまとわりついていて醜悪極まりない。
「うへぇ……アイツ何しようとしてたの?気持ち悪っ」
「───」
「あー……これと同化できたら纏めて4、50人くらい食い続けられるって思ってそうですね」
何考えてんだアイツ。そんなの先に廃線になるわ。下手すりゃ日本政府そのものに鬼の存在が知れ渡ってどえらいことになるだろうに。
だがそうはならなかった。下弦の壱──魘夢は討伐された。この醜悪な肉もやがて消えていく。時が経てばまたいつも通りに汽車は運行する。
まあ、少なくともここから先は自分の足で移動することになったが。えっ、大阪まで徒歩ですか?
どうすっぺ……と悩んでいた零余子と泥管。次の瞬間、凄まじい轟音が響いて思考を中断した。
「っ……!?じょ、上弦の……参!?」
「──」
「あ、知り合いなんですね……じゃなくて!あの人何でこんな所にいるんです?」
全身に罪人の刺青のような紋様のある、引き締まった肉体を持つ鬼。上弦の参、猗窩座。
鬼殺隊の切り札とも言える柱すら屠ってきた正真正銘の怪物。それが何でこんな何も無いところにいるのか?
泥管は何となく予想がついている。大方、見込みありで送り出した下弦の壱を監視していたら普通に失敗したので、せめてもの憂さ晴らしとして鬼狩りの柱を殺してやらぁ!と無惨が言いつけたのだろう。自分達は処分を諦められているので対象外。
こういう時は決まって猗窩座が派遣される。他の上弦は信用ならなかったり鬼殺隊に知られたくないという理由で動かさないから。
「素晴らしい提案をしよう。お前も鬼にならないか?」
「断る。泥管殿のような見た目にはなりたくない!」
「……普通はああはならん!だから安心して鬼になれ!」
「じゃあ何故泥管殿が生まれている!」
「俺に聞くな!?」
尻拭い的な役割で出てきた時の猗窩座はつまらなそうな顔をしている場合がほとんどなのだが、この時ばかりは違った。どうやら柱に楽しみを見いだしたようだ。
「……あれは流石に介入できませんね」
「──」
「あ、そういえば泥管さんはどっちにも手を貸さないんでしたっけ?」
「───」
「『終わった後なら幾らでも』って……そりゃあの御方も怒りますよ」
人に与するかというとそんなわけでもない。かといって鬼に加勢することもない。鬼と鬼狩りの戦いには首を突っ込まないのが泥管だ。さっきのやつは愛弟子の頼みなのでノーカン。
煉獄と猗窩座の戦いは苛烈を極めた。
猗窩座の再生力でなければ何度頸を切られたか分からないほどの踏み込みの速さと、上弦を前に一歩たりとも退かない胆力。
並大抵の血鬼術すら上回る破壊力の
いつまで経っても決着がつかないのでは?と思えるほど拮抗しているように見えた。
だが、煉獄はどこまでいっても人間である。
「──鬼であれば瞬きする間に治る。そんなもの、鬼ならばかすり傷だ。どう足掻いても人間では鬼に勝てない」
猗窩座の言葉は道理である。
同等の実力の鬼と人間が戦った時、体力と再生力の差で必ず鬼が勝つ。なんなら多少人間が上回っていたとしても勝ってしまえる。
故に、猗窩座は自分に食い下がる強者ほど勿体ないと思っている。
そこまで強くなったのにこんなところで死なせるのは惜しいと、鬼になればそこからもっと強くなれるのにと心の底から思っているのだ。
「……あれ鬼狩りには絶対逆効果ですよね」
「──」
「ですよね。命懸けで鬼を殺そうとしてる人にそんなこと言ったらますます奮起するだけですよね」
第三者からはこの評価。異常者の集まりが鬼狩りだからね。たとえ真っ当な理論で説得しても聞いてくれるわけないよ。
やはり煉獄も猗窩座の勧誘を蹴った。おそらく彼の体力的にも次の一撃で決着が着くだろう。
──炎の呼吸 奥義
玖の型・煉獄
──術式展開
破壊殺・滅式
「…………ん゙っ!?」
「───!?」
互いの全力の一撃がぶつかり合う一瞬、何か別のところから切り込んだ者が見えた気がした。
零余子には残像しか見えなかったけれど、泥管の目にはハッキリと映っていた。
空を裂く雷の如き一閃が。
──雷の呼吸 漆の型・火雷神
「なんっ……!!?」
「浅い……!」
「我妻少年!?」
上弦でさえ紙一重の回避が間に合うかどうかだった。全てを削ぎ落として速度を上げ、頸を切る以外の一切を考慮しない一太刀。
それは猗窩座を驚愕させるには十分過ぎた。
(羅針は反応していた!反応していた、のに……!羅針が反応してから俺に刀が届くまでに刹那ほどもかかっていなかった!!なんという速度!!)
飛び退くように避けたのに、猗窩座の頸からは血が零れていた。三分の一ほどを切られ、死がすぐそこまで迫っていたことに背筋が凍りつく。
自分の奥義と上弦の技。凄まじい殺気を感じる二人の戦いに割って入るどころか、後出しで誰よりも早く決着を着けようとした。正直、煉獄は助けられたとすら思っている。
「素晴らしい速度だ……!日が昇らなければ名を聞きたかった!」
「っ、待て!」
「待つのは君だ!我妻
「でも……!」
故に、これ以上の深追いはまずい。あの一撃で仕留めきれなかったのだ、このまま続けていれば真っ先に善逸が殺される。
鬼殺隊に死人は出ず、下弦の壱が討伐されて上弦の参は撤退。鬼殺隊の勝利と言っていいだろう。
しかし彼らはとても勝利したと言えるような状況ではなく、誰もが力不足を痛感していた。
「……あ、あのー」
「っ、まだ鬼が……?」
「泥管さんが『治療、いる?』と……」
「……頼む」
「───!!」
泥管、頼むから空気を読め。空気より人命?そうだね!
【大正コソコソ話】
実は泥管と零余子は無惨の呪いが半端に解けているので、他の鬼と違ってちょっと集中しないと思考を読めないし視界も共有できない。
流石に下弦の壱を邪魔したのは伝わっているが、多分アイツらがいなくても負けたと思ってるのでどうでもいい。なんなら猗窩座に矛先が向いた。可哀想。
泥管の思考を長く読みすぎると頭痛や吐き気がするらしく、更に続けているとしばらくの間綺麗なジャイアンみたいになるとか。
ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?
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ええんやで
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駄目、全部書け