結局あの後、珠世さんは戻ってこなかった。愈史郎が『お労しや珠世様……』と言っていたが何があったのだろうか。
今日はもう疲れてしまったらしく、申し訳ないがまた後日に……との事。疲れたならしゃあないか。事後報告でもいいから教えてね。
この分だと蟲柱の方も似たような感じになっているだろうし、何かしらの成果が出るまでは気長に待つとしよう。
本格的に無惨討伐に動き出した今、やるべき事はいくらでもある。ならばこうして時間があるうちに少しでも進めておくべきか。
上弦の鬼を味方に……はもう無理だな。童磨と妓夫太郎、堕姫以外は鬼殺隊に与するなど受け入れてはくれないだろう。というか鬼殺隊の方から拒否されそうだ。
猗窩座なら、と思ったこともあったがやめた。彼は心のどこかで自分の終わりを求めていると分かってしまったから。
じゃあ鬼殺隊の手伝いでもするか。無惨を殺す方法については珠世さんと蟲柱に任せていればいいだろうし、それ以外の方向で何か協力できそうなことはないだろうか。
「───」
泥管、いいこと考えた。忘れてくれ。
そうと決まれば善は急げ。泥管はさっそくとある場所へと向かった。
「…………君、が……泥管、という鬼かな?」
「───」
「ふ、ふふ……なるほど……柱の皆が、言っていた通りの鬼みたいだね……」
ご機嫌麗しゅう。泥管です。
目の前にいるのは顔の七割ほどが変色し、目から色が失われている男……産屋敷耀哉。鬼殺隊の首領にして鬼舞辻無惨の仇敵だ。
ここは鬼殺隊の本部。鬼殺隊の中でも極一部の人間しか所在を知らされていない、極秘中の極秘であるはずの場所。
何で泥管さんが来れるんですかね。
お館様の奥さんも娘さん二人もビックリ。足音がしたかと思ったら頭が親指みたいな形をした筋肉モリモリマッチョマンが出てきたんだもの。
鬼だから、というよりは見た目が不気味過ぎて娘のにちかとひなき*1は腰を抜かした。奥さんのあまねさんは声すら出ない。誰か助けて。
何とかして柱を呼ばなければ、と思っていると泥管が何かを差し出してきた。
風呂敷に包まれた何か。恐る恐る布を解いていくと、中に入っていたのは重箱。あっ、もう何が入ってるか分かりますねこれ。
「……ああ、柱の皆にもあげていたね。お弁当かい?」
「お、鬼が柱の皆様にお弁当を……!?」
「──」
「流行りのハイカラな甘味を?ふふ、ありがとう……」
流石に病人にヤバそうなものは食わせない。中身はフワフワに仕上げたパンケーキやカステラです。皆さんで食べてね。
仲良く(当社比)なれたことだし、さっそくだが本題に入りたい。病床の人間に無理をさせて悪いが、無茶振りになるであろう話をさせてもらう。
泥管は鬼殺隊を鍛えたいと言い出した。
善逸や獪岳、村田にしたように呼吸を無理やりに強化してやれるし、見せてもらえば大抵の型を習得して組手の相手をしてやれる。
基礎的な体力や身体能力だって効率的に鍛えられるように指導もできるし、美味しいご飯も用意できます。
ここで働かせてください!と聞こえてきそうな勢い。ずいっと迫る親指みたいな頭にお館様の腹筋が危ない。
「んふっ……そうだね。柱の皆も君のことを少なからず、信用している」
「…………よろしいのですか?」
「無惨を殺せるのなら、私は何だって利用するつもりだ」
お館様、割と乗り気。絵面だけ見れば正気を疑われそうなものだが、鬼殺隊の執念を思うとそんなものかで済んでしまいそうだ。
元々産屋敷家は鬼舞辻無惨を殺す為だけに生きながらえてきたようなもの。無惨を殺せる可能性が少しでも高まるというのなら、鬼の手を借りることさえ躊躇わない。
しかしだ。それはあくまでも産屋敷家に限った話。他の鬼殺隊の隊士がそれを受け入れるかはまた別だ。
すぐにでも隊士の強化を、とはできない。善逸と獪岳という前例があるが、それが大多数にも適用されるかも分からない。
なのでまず、柱を納得させて欲しい。お館様は少し申し訳なさそうに頼んだ。
「……私だけでは無意味だが、柱の皆が納得しているとなれば子供たちも……鬼殺隊の隊士達も受け入れてくれるはずだ」
「──」
「私は子供たちを信じている……そして、君のことも」
お館様からの真っ直ぐな信頼。こんな感情を向けられるのは何百年ぶりだろうか。
今でこそ童磨や妓夫太郎からは信用されているけれど、その二人だって最初の頃は警戒心があった。初対面でこれほどの信頼を向けてくれる存在は人間の頃にもいたかどうか。
ならばその信頼に応えなければ。泥管は元気よくサムズアップで返事をした。
「……ありがとう。君の……いや、泥管殿の協力、感謝する」
「──」
「そうだね。すぐにでも──もがっ!?」
「「「!!!?」」」
というわけでまずはお前からだ。顔の肉をお館様の口にシュゥゥゥーッ!超!エキサイティン!
泥管の突然の奇行。やっぱダメじゃねえか!とあまねさんや娘二人が思った次の瞬間。
「げほっ、ごほっ……ご、強引過ぎないかい…………?」
「ぇ…………?」
「どうしたんだい?私になに、か…………」
見える。あまねの、娘二人の顔が鮮明に。
ぼんやりとした輪郭しか見えていなかった泥管の全身も、屋敷の外を飛んでいる鎹鴉の姿も。
「見え、てる……?」
布団を押しのけて立ち上がる。鉛のように重かった身体が羽のように軽い。
あまりに未知の感覚に呆然としていると、あまね達が縋りついてきた。驚かせてしまったか、と思ったが違う。涙を流して嗚咽を漏らしている。
泥管の方に視線をやると、悩む素振りを見せた後にどこかへ行ってしまった。
かと思えばすぐに戻ってきた。他の部屋から姿見を持ってきたようだった。
「あ…………」
「──」
そこに映っているのは、呪いに冒された死人の顔ではなかった。健康的な、しかし日に焼けていない真っ白な肌。もう何も映さないと思われていたはずの、藤の花のような色の目。
鬼舞辻無惨を生み出してしまった為に与えられた呪いが、解けている。
「これは……泥管殿が?」
「──」
泥管は一度頷き、しかし首を傾げていた。
曰く、完治させるはずだったが根本的な所が治っていないとの事。
今は症状の進行を振り出しに戻すことができただけで、時間が経てばまた同じような状態になってしまうだろう。
泥管は申し訳なさそうにしているけれど、お館様にとってはそんな事はどうでもよかった。
まだ生きていられるから?否、自分の代で完全に蹴りをつけられると思ったから。子供たちにこの禍根を遺さずに終われるかもしれないと、希望が見えたから。
「…………柱の皆を、呼んでくれ」
「っ、はい……!」
「泥管殿、本当に……本当に感謝する!」
「──!!?」
あまねに指示を出した後、お館様は勢いよく泥管に抱きついた。待って待って、貴方まだ貧弱だから怖いのよ。折れそうなのよ。
泥管の心配を他所にお館様は続ける。
「願ってもみなかった……!これで、これで終わらせる!私の代で何としても鬼舞辻無惨を殺してみせる!」
「───!!?」
「ち、父上……泥管殿が、困っています……!」
分かったから。分かったから大人しくしてくれ。
泥管が完全に振り回される側に回ってしまっている。これが鬼殺隊の最高権力者。無惨でも成しえないことを成した傑物……傑物?の姿か。
鎹鴉や隠に指示を出したあまねさんが戻ってくるまでの間、お館様は子供のようにはしゃぎ回っていた。滅茶苦茶怒られた。
【大正コソコソ話】
実は泥管が産屋敷の元に行こうとしていることを察した無惨は泥管の思考と位置を把握しようとしていた。
結論から言うと無理だった。珠世と会った時に無惨の呪いを外す方法を知って完全に自由になっている。あーあ、一番ヤバイ奴が自由になっちゃった。珠世様のせいです、あーあ。
尚、それを理解した無惨は一瞬発狂したものの、それでも死ぬことはないとタカをくくって落ち着いた。現実逃避ともいう。
ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?
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ええんやで
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駄目、全部書け