開戦の狼煙……というには少々ド派手が過ぎる大爆発。原作ならば駆けつけていた柱達もそこにお館様が居ないことは把握しているので、十分な覚悟を決めて無限城へと身を投じた。
障子一枚向こう側の空間は泥管達から聞いていた通り、果てのない無限に広がる城内の如き様相。上下左右も曖昧ときた。
しかし彼らの顔に動揺はない。ここで刺し違えてでも戦いを終わらせる為に、今日この時まで備えてきたのだ。
血が滲むほどに拳を握りしめて鬼の根城へと降り立つ。すべき事は一つ、鬼舞辻無惨の討伐。
それにはまず無惨の居場所を探らなければならず、また障害となりうる上弦の鬼も討伐する必要がある。
柱達が、鬼殺隊が、ついでに寝返った鬼達が。千年の戦いに終止符を打つ為に動き出した。
異質な空間の中でも一際異質。似たような構造が続く無限城の中に更に居城を構えているような光景。
庭園のような造りとなっている板張りの桟橋を歩きながら、胡蝶しのぶは日輪刀を握りしめていた。
(……ここだけ雰囲気が違う。匂いも)
薄らと冷たい空気に、蓮の花の香り…………と、何か美味しそうな匂い。夕暮れ時に漂ってくる煮物のような、焼き魚のような。
え?ここ鬼の根城だよね?何で美味しそうなご飯の匂いがすんの?と、しのぶは割とマジで困惑中。絶対あの鬼が居ると思ってきたのに、何か思ってたんとちゃう。
もう何度目かの曲がり角を進んだ先に、これまでとは少し違う様子の引き戸が現れた。障子とも襖とも違う、装飾の施された豪華な引き戸。
音を立てないよう微かに開いた隙間から覗き込むと、中からボリ、ボリ、と奇妙な音が届いた。
そこにあったのは桟橋のど真ん中に座り込んだ鬼の背中。脱いだ被り物を横に置き、頭から血を被ったような後ろ姿。何を口にしていたのか、咀嚼音を響かせている。
今しのぶの存在に気づいたのか、猫背気味の座り姿だった鬼は顔を上げてゆっくりと振り返る。
「…………え゙」
「んっ!?」
振り返った彼を見てまず目がいくのは上弦という文字──……ではなく、口の端についた米粒。
少し視線を落とすと、彼の前にあるのは人肉などではなく大きめのお膳。更に覗き込んで見るとその上にあるのは食道楽でも驚くほどの大量のご馳走。
何も知らぬ第三者がここにいれば、誰がどう見ても食事中に来たお客さんを見て硬直した人間である。
「え、嘘!もう始まったの!?まだ食べ終えてないんだけど!ちょっ、ちょっと待って!」
「いや、あの……お気になさらず?」
「ごめんね!すぐ食べ終えるから!」
どう考えてもコイツこそが姉が遭遇した上弦の鬼なのだが、あまりにも気が抜けてしまう。だって本当に申し訳なさそうに慌ててご飯を掻き込み始めたんだもの。
ヒョイパクガツガツとみるみるうちにご馳走が消えていく。天ぷら刺身味噌汁漬物白米、それからザルそばにカレーライスまで。同僚にも劣らぬ食べっぷりは見ているだけでこちらまで腹いっぱいになるくらいだ。
全ての皿が空になり、最後に湯呑みも呷ってそれでお終い。口元を拭いてからようやく姿勢を正し、態とらしい咳払いをして不気味に微笑む。
「……いい夜だねえ」
「いや、流石に立て直せませんよ!?」
「だよね!知ってた!」
今更威厳は出せないから諦めろ童磨。しのぶのツッコミに自分でも同意し、ヤケクソじみた言葉を返す。
盛大に何も始まらない鬼と柱の邂逅。これでも最終決戦のはずなのに、この瞬間から殺し合いに持っていく方法が微塵も思い浮かばない。
童磨もそれを察しているのか、バツが悪そうに顔を逸らす。
「だってさあ……今日で全部終わるなら、最期くらい美味しいもの食べたいじゃん?」
「それは……わかりますけど」
「戦いが始まるまでに食べ終わるつもりだったんだけど……あの御方はどうやら想定より早くおっ始めたみたいだ」
つまり悪いのは無惨。OK?
じゃあ最後の晩餐も終わったし死ねや……とはならない。だって確かに姉のカナエが遭遇した鬼ではあるけれど、特に何をされたわけでもないし。
強いて言うなら美味しくなさそう、と言われた姉がしばらく落ち込んでいたくらい。というか落ち込むもんなの?それ。
何より、泥管の言葉が正しければ比較的鬼殺隊寄りの鬼のはず。上弦の陸と違って泥管についてきたりはしなかったけれど、頼み込めば手を貸してくれるかもしれない。
「それで、手を貸して頂けるんですか?」
「うん?貸さないけど?」
「…………は?」
おっと、しのぶさんがピキり始めた。
「いや……俺がいてもあの御方相手には何の役にもたたないぜ?妓夫太郎達と違って呪い外れてないし」
「はぁ!?」
「だから鬼との戦いには手を貸せないけど、戦えなくなった鬼狩りを守ってあげようかなって」
曰く、童磨は零余子や上弦の陸のように離反できるわけではなく、無惨の首輪を外せていない……いや、外していないのだと。
監視の目こそ外したけれど、無惨の呪いそのものは健在。鬼舞辻無惨が死ねば童磨も死ぬし、無惨の機嫌次第ではこの瞬間に殺されても何らおかしくはないと……童磨は語った。
「……何ですか、それ。つまり、貴方はどの道死ぬって事ですか」
「うーん、どうだろうね。あの御方が死ねば俺も死ぬけど、鬼側が勝ったら……ダメか。あの御方は自分以外の鬼を嫌悪してるし」
鬼殺隊の勝利は無惨の死。無惨が死ねば童磨もまた死ぬ。じゃあ鬼殺隊が全滅すればどうなるのかというと、無惨はきっと自分以外の鬼を皆殺しにする。
つまり、この戦いが始まった時点で童磨の生存は潰えた。誰に勝とうが誰が負けようが、最終的に童磨の死は避けようがないのだ。
「まあしょうがないよね。俺は泥管殿や妓夫太郎達と違って普通に人を食っちゃってるし。零余子ちゃんは……襲ってきた賊ばっかりだしまだいい、のかな?」
「……悲しくないんですか?」
「えー?これでも悲しんでるんだけど?泥管殿の美味しいご飯が食べられなくなるし、妓夫太郎達と遊んだりもできなくなるもん」
「そうは見えませんけどね」
「いやあ、これでも随分とマシになった方なんだぜ?」
ヘラヘラと笑ってこそいるが、言葉の端々や表情には僅かな悲しみが見て取れた。だが、その程度で済むものなのかというしのぶの問いに対し、童磨は困ったように笑うだけだった。
美味しいものを食べれば笑うし、美味しくないものを食べれば顔をしかめる。かつての童磨に比べればまだ感情豊かとすら言える。
そうなれたのは偏に泥管と会えたから。教えてもらったから。だから後悔はないのだ。
「さ、ここに居ても何にもならないよ。俺はもう何もできないし、何もする気もない。早く行きな」
「…………」
「あ、でも他の鬼狩りに伝えといてね?重傷を負ったらここに来るように、って」
「……わかり、ました」
わかっていた。上弦の陸がこちらについた時に来なかった時点で。お館様や胡蝶姉妹は何となく察していた。
上弦の弐は無惨と共に死ぬ気だと。多くの人を食った自分では人間と共に生きる資格はないと思っていることを。
これ以上話すことはない。一刻も早く無惨を見つけ出し、その過程で一体でも多くの鬼を殺さなければならない。蟲柱である自分がいつまでもここに居るわけにはいかない。
「……さようなら、上弦の弐」
「うん、じゃあね───」
「あーっ!いたぁ!!!」
「───うん?」
「姉さん!?」
踵を返してお別れ──の、はずでしたが。しのぶの目の前でスパァン!!と勢いよく開かれる引き戸。そこにいたのは同じ羽織を纏った胡蝶カナエ。
童磨にとっても忘れられない、ちょっと想像以上にしつこかった柱の少女胡蝶カナエ。ここでようやくカナエとしのぶが姉妹であることを知った。
ハハーン、さてはあの夜に仕留めきれなかった自分を仕留めに来たか?と眉を下げる童磨。悪いけど君に付き合う気はないよ、と告げようとして。
「よーし!一緒に無惨を倒しましょうね!!」
「…………へ?」
「あの、姉さん……その鬼は」
「大丈夫!コレを食べれば何とかなるでしょ!」
「え?それ泥管殿の──むぎゅうっ!?」
「ね、姉さぁああああん!?」
口を開いた瞬間に見覚えのある塊を口の中に突っ込まれた。ちょ、いきなりはやめて。
見覚えのある塊の正体とは、泥管の顔の肉。柱達に緊急時の治療用として渡されていたはずの物。それを躊躇なく童磨の口に押し込んだのだ。
いや確かに何とかなるけども。無惨の呪いも外せるけども。それを敢えてしてこなかったのに。
「ごほっ……君のお姉さん、強引過ぎない……!?」
「……姉さんがごめんなさい」
「さあ行きましょうか!」
「ああもう、どんな顔して泥管殿に会えばいいのか……絶対妓夫太郎にも弄られる……」
これで最期とばかりにカッコつけまくった記憶がある童磨。間違いなく己に突き刺さるであろう今後のことを思うと既に憂鬱である。
「というか姉さん!アレ無しで大丈夫なの!?」
「大丈夫!途中で泥管さんと会えばまた貰えるから!」
「……ここがどれだけ広いと思ってるんだい?」
「………………大丈夫!大丈夫ったら大丈夫!」
「「絶対後先考えてないよね!?」」
【大正コソコソ話】
童磨が『あんまり食べたくないけど人間を食べてる』と話したのを聞いたカナエは『この鬼なら仲良くなれるのでは!?』とテンションがぶち上がっていた。
童磨がしつこかった、と言っていたのは『仲良くしましょう!』と追いかけ回してくるカナエから一晩中逃げ回っていた為。当時だと普通に無惨直々に手を下しに来る未来しか見えなかったので逃げるしかなかった。
ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?
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ええんやで
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駄目、全部書け