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鬼舞辻無惨との謁見から二日後。相も変わらず鬼とは思えない日々を過ごしている泥管だったが、先日から来客に恵まれているんだかいないんだか。
畑仕事を終えて井戸水の冷たさに感謝していた所、不意にうなじを思い切りぶん殴られた。
厳密には日輪刀を振り下ろされたのだが、泥管が硬すぎて切りかかられたと認識していない。ガキン、と音を立てて弾かれるばかり。刃がこれっぽっちも食い込まない。
何事かと振り返るとやはり鬼殺隊。目の色が片方違っている口元を包帯で隠した男だ。ぐにゃぐにゃと波打ったような刀を持ったまま呆然としている。
「っ、本当に切れない……」
「…………」
「何だその顔は。鬼殺隊が鬼を殺そうとして何が悪い」
鬼殺隊とは読んで字の如く『鬼』を『殺す』部隊。そりゃあ彼らが鬼を殺そうとすることに何ら異議を唱えるつもりはないけれども。
それはそれとして殺されかけた挙句にネチネチと文句を言われる筋合いは無い。今回は珍しく泥管の方が『なんだコイツ』と思っていた。
やはりというかこの男も妙な呼吸音。鬼殺隊に所属している者は全員こんな感じなのか?と疑問が湧いたけれどそれどころじゃない。
かつて出会した傷の男……不死川と同じくらいに殺気を感じるのだ。何としても殺す、絶対に殺すという凄みを感じさせる。
蛇の呼吸 壱の型・委蛇斬り
ヌルリと這い寄るような、鋭く不気味な横薙ぎ。並大抵どころか下弦の鬼ですら仕留めてしまいそうな一撃に対して泥管の対応は──
「…………」
「なっ……!?」
──何と棒立ちだった。
腕を持ち上げて防御だとか少しでも身を捩って回避だとか、そういった素振りを一切見せなかった。ただただ呆れたように男を見つめたまま立ち尽くし、その首で刀を受け止めた。
先程とは違い真正面から渾身の一撃を見舞った鬼殺隊からすれば理解し難い光景だろう。何せ肉が硬いとかそんな領域ではなく、刀で金属でもぶっ叩いたような手応えが返ってきたのだから。
まさか血の一滴も出させられないなどとは露ほども思っておらず、鬼を前にしているのに愕然としてしまっている。正気に戻った時には既に泥管が動いていた。
「しまっ──!?」
「…………」
「もがっ!!?」
男の口に何かが捩じ込まれた。まさか毒?と思考が働くよりも前にさっさと答え合わせがされる。
微かに感じる冷たい雫の感覚。鼻から抜ける独特の青臭さと、舌先に乗るズシリとした円柱状のなにか。
そう、きゅうりだ。
いや包帯はって?そんなもん、泥管が目にも止まらぬ速さでひっぺがしてから捩じ込みましたが。
「んぐぅっ……!!?」
「──」
絵面はふざけているが、実は男にとって割と致命的な一手だったりする。何せ口の中にいきなり物を突っ込まれたせいで呼吸が乱れた。即ちあの独特な呼吸で生み出されていた身体能力がなくなっているのだ。
まずい、この場を離れなければと焦る。いやきゅうりのことを不味いと言ったわけではなく。
慌てて後ろに飛び退いた男だったが、それをドスンと何かが受け止めた。まさか罠にかけられた!?と勢いよく振り向いた先にはこれまた泥管と同じような筋骨隆々が立ちはだかっていた。
「だから地味に先走んなって言っただろうが」
「っ……」
「──?」
「あー……何だ、同僚が迷惑かけた」
二人目の筋骨隆々。やはり刀を携えていたが、その男はきゅうりを突っ込まれた男と違って冷静だった。
軽く錯乱状態に陥りかけていた包帯男を落ち着かせつつ、泥管に向かって手を挙げ申し訳なさそうに話しかけてくる。
ぶっちゃけ泥管からすれば包帯男の攻撃なんて何発食らっても痛くも痒くもない。ので、もう一人の男には気にしていないよ、と手のひらを横に振っていた。
「ひとまず名乗ろうか。俺は宇髄天元、音柱だ」
「…………」
「……おい、お前も名乗れよ」
「嫌に決まっているだろう。何故わざわざ鬼に名乗る必要がある?それもこんなに頭が悪そうな──待て、名乗る。名乗るからそのきゅうりを下ろせ」
筋骨隆々は宇髄天元と、包帯男は伊黒小芭内と名乗った。これまた二人とも柱だとか。柱って暇なの?と思った泥管は悪くない。
この二人が泥管の元を訪れた理由は単純明快。泥管の事を信用していないからだ。
実際のところは柱の中でも特に伊黒がネチネチと疑っていた為、鬱陶しい追及にキレた不死川から「だったら自分で見て来やがれェ!!」と言われたからである。宇髄?絶対何かやらかすであろう伊黒の監視役ですが何か。
それで案の定首を切りにいってるから目も当てられない。穏便に確認だけしようとあれだけ言い含めていたのにこれだもの。
不貞腐れたような態度の伊黒と表情が読めない泥管だが、そんな中で宇髄は一人冷や汗ダラッダラだったりする。
(一瞬、殺られたかと思った……)
今でこそ日輪刀を持って戦う宇髄だが、かつては忍者の末裔として過酷な訓練を受けていた身。生物の気配には柱の中でも特に敏感であるという自負がある。
伊黒が真正面から切りかかった瞬間、宇髄には泥管の動きが微塵も読めなかった。
どんな動作にも『起こり』というものがある。竹刀を振る為に振り上げようとしたり、殴り掛かる為に腕に力を込めたり……要は行動に移る為の前準備のようなものがあるのだ。
それがこの泥管には一切見られなかった。いつどこから何をするかさっぱり読めなかった。気づいた時には泥管は動いていた。
尚、その高等技術を用いてやった事は伊黒の口にきゅうりを突っ込んだだけという無駄遣い。武術に詳しい人間ほど頭を抱えたくなるだろう。
「というか、もうよくねぇ?お前があれだけ派手にやっても殺しにこねぇしよ」
「……まだだ。まだこちらの隙を伺っていて、隙を見て俺達を──」
「───!」
「…………隙を見てきゅうりを食わせようとしてるな」
「頑なにきゅうりを食わせようとするのは何なんだっ……!?」
もしこの時泥管が紙と筆を持っていたらこう書いていただろう。
──今年のきゅうりは会心の出来なので。
ますます頭を抱えるかもしれない。だからずっときゅうり食ったり土産に押し付けたりしてたのかよお前。
当然ここに来たからにはお前達とも縁ができている、と言わんばかりに大量の農作物を押し付ける泥管。
おかしくて仕方ない宇髄は大笑いしながら土産を受け取り、伊黒もまた『恐らく拒否しても無理やり持たされるだけだろうな……』と短時間で泥管の事をよく理解したらしく渋々受け取っていた。
帰って来たら不死川に物凄く哀れなものを見る目で見られた伊黒はほんの少しだけ泣いた。水柱に八つ当たりして誤魔化した。
【大正コソコソ話】
宇髄が嫁が三人いる事を明かすと土産を多めに持たされた模様。どこに溜め込んでいたのか米俵まで持ってこられた時は流石の宇髄も少しビビった。
持ち帰った漬物が恋柱にウケたので伊黒は泥管の事を嫌いになった。でもまた行ったら漬物を貰うらしい。なんでやねん。
ほぼ原作沿い部分は大幅カットしてもいい?
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ええんやで
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駄目、全部書け