本物の魔王   作:ペペック

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前回、高評価・コメントありがとうございました!


恐怖

ひとまずポーションで応急処置をし、呼ばれたペストーニャがニグレドの傷を癒していく。

幸い彼女は一命を取り留めたものの、その後の事情聴取で何があったのかを聞いても彼女は支離滅裂なことばかり口走り、隙あらば何度も自傷行為を続けた。

 

「ああ、いやっ………怖いっ、見ないでぇ……!」

 

時折中空を眺めて頭を抱えて震えるその姿は、まるで怨霊が見えているかのように怯えている。

もはやニグレドはまともな受け答えができない状態であった。

 

 

デミウルゴスの失踪。

ニグレドの狂乱。

 

 

続けざまの異常事態に対し、ただちに階層守護者達が円卓の間に集められて話し合うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すでに聞いているとは思うが、現在のナザリックは未知の敵に狙われている可能性が高い」

 

まず、何故突然ニグレドが錯乱したのかについてだが、一番考えられるのは情報系魔法を使用したことで敵の攻性防壁……それも精神系魔法が発動した可能性が高いことだ。

ただこのような事態に備えて、ニグレドの装備にはいくつか精神耐性のあるアイテムがあるはずなのだが、それすら効いていないともなると相手は相当強力な魔法かスキルを使っている可能性が高い。

こうなってくるといよいよデミウルゴスの安否が心配になってきて、ナザリックの警戒レベルがシャルティアの時とは比べ物にならないほど高くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議を終えて自室に戻ったアインズは、拳を握りしめて思い切り壁を叩く。

 

「クソが! 一体どこのどいつだ、俺の友の忘れ形見を傷つけやがって……! 楽に死ねると思うなよ!!」

 

ニグレドの痛ましい姿を思い出し、元凶に対する怒りが煮え立つもすぐさま沈静化が働いてしまう。

とはいえ状況が状況なため迂闊な行動はできない。最悪ワールドアイテムを使う必要もあるだろうと、アインズは戦略を練っていくが………

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

するとここで、地表部で見張りをしていたルプスレギナからメッセージがきた。

 

「何事だ?」

 

アインズが何気なくメッセージを受信してみると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デミウルゴス様がご帰還なされました!』

 

「!?」

 

ルプスレギナが慌てた声でそう報告したもので、アインズは声を上げそうになったが沈静化が働いてどうにか飲み込む。

行方不明だったはずのデミウルゴスが戻ってきた。本来なら喜ぶべき状況なのだろうが、アインズは逆に警戒心が高まり慎重に考えを巡らせる。

 

デミウルゴスの性格を考慮するに、未知の敵と遭遇したうえで無事でいられたのならばまず本人から連絡がくるはずだ。

 

となると、もしかしたら敵の罠か?

 

「デミウルゴスはどんな様子だ。怪我はしているか?」

 

ひとまずルプスレギナを通してデミウルゴスの状態を確認させてみるが、メッセージ越しの彼女の声には戸惑いが滲んでいる。

 

『そ、それが……』

 

ルプスレギナによると、彼女と共に地表部を警備していたエルダーリッチが何気なく空を見上げてみたところ、翼を広げたデミウルゴスがふらつきながら空を飛んできたのだという。

しかし彼は入り口の前で下りてくるとそのまま俯いて微動だにせず、自分達の呼びかけに応じず全く動こうとしなかった。

外見的特徴としては服に血がついてはいるようだが、デミウルゴスのものなのか敵の返り血なのかは見ただけでは判別できない。

報告だけではなんともいえない様相に自分の目で見たほうが早いと判断し、アインズはすぐさま指輪で地表部に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

「アインズ様!」

 

ナザリックの地表部に現れた主に、一同は頭を垂れて出迎える。アインズがチラリと目の前に視線を向ければ、ルプスレギナの報告通りデミウルゴスが入り口を前にして立ち尽くしている姿があった。

顔は俯いていて表情が見えないが、確かに自慢のスーツが血で赤黒く汚れている。怪我をしているのだろうか、あるいは敵の返り血か。

 

「デミウルゴス、一体何があった」

 

ひとまず報告を聞こうと優しく声をかけてみると、ピクリとデミウルゴスの肩が震える。

 

「…………あ」

 

デミウルゴスはアインズの声に返事するように掠れ声を漏らすが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺せ!

 

 

次の瞬間、デミウルゴスは強い感情を込めて叫びだした。

しかもこれはただの叫びではなく、『支配の呪言』によるものだ。

 

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せえええエぇぇえエえェ!!

 

 

「!?」

 

 

デミウルゴスの命令によって、地表部に配備した内の影響化に入るレベル未満のアンデッド達が瞬く間に殺し合う。

 

「デミウルゴス!?」

 

「アインズ様、近づいてはなりません!」

 

配下の突然の凶行に思わず駆け寄りそうになるも、ルプスレギナ達が慌てて前に出てアインズを止める。

 

「ひっ、あぁ、目が! 黒い目が……! 見るなっ! 見るなぁ!!」

 

何かに怯えるように空を凝視しているデミウルゴスは、明らかに正気ではない。

間違いなく先のニグレドと同じ状態だ。

 

「どうした、何が見えるんだ!?」

 

アインズの呼びかけにデミウルゴスは答えない。

 

「あっ……『悪魔の諸相……鋭利な断爪』!!」

 

ここでデミウルゴスはスキルで自らの爪を伸ばすと、あろうことか自らの目を抉りはじめたではないか。

創造主から賜った青い宝石の眼がポロリと地面に落ち、デミウルゴスはそれを何の躊躇いもなく踏みつけだした。

 

『!?』

 

シモベにあるまじき蛮行にルプスレギナ達が凍りつくのを他所に、デミウルゴスは何度も何度も粉々になるまで宝石を踏み潰す。

 

「おい! やめろデミウルゴス!」

 

あれほど誇らしくしていた宝を嫌いな虫けらでも見つけたかのように自ら壊している姿に、アインズは必死に言葉で止めようとするも、こちらの声が聞こえていないのかデミウルゴスは自傷行為を止めない。

 

「デミウルゴス!」

 

ここで増援に来たコキュートスが背後から羽交い締めにするも、デミウルゴスはなおも叫び続けてコキュートスの腕に噛み付いたり引っ掻いたりして必死に抵抗する。

 

こんなのは、いつものデミウルゴスにはあり得ない事態だ。

精神魔法でも受けているのかとペストーニャを呼ぶよう指示するも、すでに手配されていたらしくいつの間にか彼女はアインズの後ろに立っていた。

 

「ペストーニャ、早クデミウルゴスヲ治セ!」

 

「かしこまりましたっ!」

 

語尾にわんをつけるのも忘れて『ライオンズハート』をかけるペストーニャだったが、デミウルゴスの錯乱は止まらない。

 

「………え?」

 

「どうしたペストーニャ、早く治療を!」

 

デミウルゴスの容体を診ていたペストーニャは何故か戸惑っている。

彼女は首だけをアインズに向けて躊躇うように口を開け閉めしていたが、意を決したかのようにこう告げた。

 

「………アインズ様、デミウルゴス様は精神魔法を受けておりません」

 

「え……?」

 

精神魔法ではない。

そう説明されアインズ達は唖然とする。

しかしペストーニャはさらに信じがたい診断結果を告げた。

 

「これは、ただ怖がっているだけのようです……わん」

 

普通に、ただただ『何か』に恐怖しているだけだという。

 

「なんだと!?」

 

そんなはずがあるかと思わず叫んでしまいそうになるアインズだったが、ここで沈静化が働いて口を噤む。ペストーニャに当たったところで答えなど出るわけもなく、冷静に考えを巡らせる。

まず状態異常でもないのにここまで狂うなど、普通ではありえるはずがない。となるとタレントや武技……ひいてはワールドアイテムに匹敵するなんらかのアイテムによるものだろうか。

 

 

ひとまずデミウルゴスを拘束し、偽装ナザリックで隔離しておくようコキュートスに指示を出す。

デミウルゴスはそれまで散々暴れていたが、拘束された途端に電池が切れたかのようにガクンと脱力しだす。

 

「あ………アベリオン、丘陵っ…………本物の……」

 

ブツブツとそう何度も口にする言葉は、自身が管轄している土地の名前だ。

 

 

(………アベリオン丘陵に何かいるのか?)

 

そう結論づいた時、アインズの次の行動は決まったのだった。

 

 

 

 

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