勝ちヒロインを好きになってしまったのですが   作:北極鳥ユキ

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その15 バスケやろうよ

「ね~、なんか面白い話して~」

 

 資材置き場を背にして芝生に座っていると、隣の亜希がダル絡みしてくる。

 

 一人で掃除をサボるはずが、なぜか一緒にサボることになっていた。

 華恋さんのアカウントを確認したいからできれば一人になりたいんだけど、追い返す口実も思いつかない。ここで過剰反応するとかえって怪しまれそうだし……。

 

 スマホの振動に気が付き、ちらっと画面を見る。

 

  ……

 『姫宮 華恋』

 やっほー! 本当に返信してくれるかどうか確かめたくなっちゃった

 いまは部活中かな?

  ……

 

「!?」

 

 予想外のことに、思わず体が震える。

 ロック画面に届いたLINEの通知は、なんと華恋さんからのものだった。

 連絡先を交換しただけでも夢みたいな出来事なのに、メッセージまで送ってくれるなんて!

 

 し・か・も。

 

 わざわざ放課後に送ってくれたという事は、学校の外でも俺のことを考えてくれている証拠。

 これ以上に嬉しいことがあるだろうk──いやない!

 

「面白い話してよ~」

 

 しかし、タイミングが悪い。

 

 スマホを握りしめながら、ちらっと亜希に視線を向ける。

 

「どしたの祐一、そんなスマホをガン見しちゃって。サボってるのバレた?」

「いや……別に……」

 

 何事もなかったようにスマホを懐に戻す。内心ではめちゃくちゃ焦っている。

 早く、早く返さないと。でも今はダメだ。亜希がこっちを見ている。もし返信中のトーク画面を見られたら確実にからかわれてしまう。

 っていうか、この前はその話になった途端に逃げたから、問いただされるに決まってる。

 

「あー、なんか喉が乾いたなー!」

 

 俺はわざとらしい大声を上げて立ち上がった。

 多少強引だが背に腹は代えられない!

 

「亜希もなんか飲むか? 買ってくるぞ」

「ほんと~? 優しいじゃん」

 

 ここからやることはたったのスリーステップ。

 

 ①亜希に背を向ける。

 ②歩き出しながら、スマホを取り出す。

 ③移動中に急いで返信する。

 

 よし、完璧!

 

 背後で亜希が何か言っている──たぶん欲しいジュースでも注文しているんだろう──が、それに構っている暇はない。

 スマホを手元を隠しながら素早くフリック入力を開始。

 

『今日は漫研で校内掃除の手伝いをしてて──』

 

 焦りで指が震えて、誤字りそうになる。

 落ち着け。短く、かつ好印象なメッセージで返すんだ。

 

 トーク画面を開く=既読をつけてから既に数十秒が経過している。

 これ以上待たせたら「既読スルーかな?」と不安にさせてしまうかもしれない。

 

 急げ、急ぐんだ。俺は既読スルーはしない男、北見祐一だっ!

 

 ぽちぽちと入力を終え、送信ボタンに親指をかけた……その時だった。

 

「……ねーえ!」

 

 薄いシトラスの香りが舞うと、どしんと背中から体重をかけられる。

 いつの間にか忍び寄っていた亜希が抱き着いてきたのだ。

 

「!?」

 

 心臓が跳ね上がった──体が密着して、亜希のやわこい部分が当たってるんですけど!?

 

 あまりの衝撃にスマホを上空へとぶん投げてしまい、ひゅーっと宙を舞う。

 

「おっとあぶない」

 

 亜希は俺からあっさり離れると、するりと体を動かしてスマホをキャッチした。

 さすがテニス部、無駄に良い反射神経だ……って感心してる場合じゃない! 俺のスマホが!?

 

「やけに集中してたじゃん。なーにやってたの~?」

「わっ、見るな!」

 

 飛び掛かって奪い返そうとするが失敗。亜希は身をひるがえすと画面を凝視した。

 

「LINEのトーク画面……。相手は……姫宮華恋?」

 

 少しの間ぽかんとしていたが、やがて亜希の口元がニヤリと三日月形に歪む。

 

「へえ、お相手はあの姫宮華恋さんですか。そういえば同じクラスだったね」

「こ、これはちょっと授業についての連絡をだな……」

「バレバレだよ。この子が前に言ってた意中の相手なんでしょ。随分と身の程知らずな相手を狙ってるね~」

 

 亜希はニヤニヤしながら、脇をツンツンしてくる。

 

「うっ、うっせぇ!」 

「しっかし、祐一も大変だね。1-Cには袴田くんがいるじゃん」

「なんで袴田が出てくんだよ。てか知り合いなのか?」

「うちのクラスに袴田くんと同じ中学の子がいて、そこ繋がりでたまに話したりするの」

「すげぇなアイツ。どこにでも知り合いいるじゃん」

「いやー、袴田くんは超強力なライバルだよね。うちのクラスの女子も、みんな『袴田くんカッコいいよね』って言ってるし」

 

 きゃっきゃ、きゃっきゃと袴田が女子から持て囃される様子は簡単に想像できる。

 既に八奈見と華恋さんがいるというのに、なんて野郎だ! うらやましい!

 

「袴田くんと祐一の二択だったら、女子の九割九分は袴田くんを選ぶよね、普通。姫宮さんも実は袴田くんのこと気になってるんじゃない?」 

「そ、そんなの分かんないだろ。俺の邪魔をしないでくれ」

 

 スマホを奪い返すとメッセージを送信する。

 とりあえず、これで一安心。

 

 ふーっと息をついていると、亜希が迫ってくる。

 

「祐一はさ、袴田くんと姫宮さんを奪い合うことになったら、勝てると思う?」

「ぐっ……」

 

 痛いところと付かれた。

 俺は何かと袴田をライバル視してるが、別に彼からライバルと思われているわけではない。

 実際のところ、そもそも同じ土俵に立っているかも怪しいのだ。

 

 もはや言うまでもないが、袴田草介は、顔よし・性格よし・コミュ力よしのパーフェクト陽キャ超人。なんなら帰宅部なのに運動神経だって良い方だ。この前の体育祭でも「運動できる側」として活躍していたし、隙がなさすぎる。

 

 その上、華恋さんと俺以上に仲が良いのだから、()()()()()()()()で恋仲になっても不思議ではない。

 

「今の祐一はちょっと運動できるガタイの良いオタクくん。モテモテ爽やか万能イケメン相手には勝ち目薄じゃんね」

「お、おれだってぇ、最近ファッションとかかじってるしぃ……」

 

 あと! 俺も体育祭じゃ袴田と一緒に「運動できる側」に分けられたし!!

 すぐに足つったせいで活躍できなかったけど……。

 

「祐一の私服ってクソダサくなかった? 怒られて紗由にイチから選んでもらってたよね」

「アレは中学時代のことで、今はちゃんとしてるし」

「ふーん。ま、でもさ、少しだけ頑張ればゼロじゃないとおもうよ。勝ち目」

「え、マジで?」

 

 亜希の発言はちょっと予想外だった。

 てっきり諦めろとでも忠告してくるのかと思っていたが……。

 

「袴田くんって帰宅部だよね?」

「趣味でスポーツはしてるらしいけど帰宅部ではある」

「校内じゃないならよし。いい? 女子はね、『汗かいてスポーツしてる男子』に弱いの」

 

 まあ確かに、運動部の男はモテるよな。

 体感だが特にサッカー部とバスケ部の男子はモテてる気がする。

 

「特に普段冴えない男子が輝いてたりすると、そのギャップに女子はイチコロなわけ。つまりバスケだよ。またバスケをやって逆転勝利を狙うの」

「なっ!? なんでバスケが出てくる!?」

 

 確かに亜希の言うことには一理ある。

 袴田に勝てる要素があるとしたら、バスケの経験ぐらいしかない。

 でも嫌だ。コートに立ったら絶対に昔を思い出す。

 

「動いてる姿を見せればいいんだろ? だったら体育の授業で頑張るからいいよ。今更バスケ部に戻る気はない」

「だーめ。体育は男女別だし、姫宮さんが見てくれる保証ないじゃん。それとも一年後の体育祭まで待つつもり?」

「見てくんないのはバスケ部に戻っても同じだろ。放課後の学校には華恋さんいないわけだし」

 

 亜希はチッチッ、と人差し指を振ると、自分のスマホを取り出してひらつかせる。

 

「バスケ中の様子を他の生徒に撮ってもらって、さりげなく流すんだよ。これは授業中にはできないことだし、校外でスポーツしてる袴田くんにもできないでしょ」

 

 たしかにそれなら効率的に、自然に、華恋さんまで俺が動いている様子を届けることができる。

 くっ、こいつ隙がねぇ。確実に外堀を埋められつつあるぞ。

 

「で、どうする? このまま袴田くんにストレート負けしちゃっていいの?」

「うぅ……。わ、分かったよ、少し動くだけなら……」

「決まり! そんじゃ、善は急げ!」

「ちょ、どこ行くんだ」

「祐一はそこで待ってて! すぐに戻るから!」

 

     ◇

 

「祐一! へい、ぱーす!」

 

 数分後。声と共に、ひゅんとボールが飛んできた。 

 反射的にそれを受け取る。ズシリとくるゴムの重みと感触。

 馴染みのあるバスケボールのざらざらとした触感が指に伝わる。

 

「……このボールどうしたんだ?」

「バスケ部から借りてきた」

 

 亜希のやつ、一体どんな手段を使った──いや、なんとなく想像できるぞ。

 男子バスケ部はその名の通り男がたくさんいる訳で、亜希からすれば絶好の狩場だろう。適当な部員をたぶらかしたに違いない。

 

「そのボール使って、あたしと1on1しようよ」

「俺が動いてるところを撮るんだろ? 別に1on1する必要は……」

「まずはあたしと勝負だよ。どうせ鈍ってるんだろうから練習ってことで」 

「なんで亜希とバスケの試合をしないといけないんだ。テニス部だろ」

「今のあたしはテニス部員ではなく、しがないバスケ星人でござんす」

 

 亜希はボールを奪い返すと自分の顔の前まで持ってきて、ボールの陰から顔をちらちらと見せたり隠したりする。

 

「誰だよバスケ星人」

「そりゃーバスケが好きな星に生まれたバスケ星人だよ」

「バスケ選手の名前言ってみろよ」

「ナダル、ジョコ、マレー、フェデラー」

「BIG4じゃねぇか! それはテニス星人だ!」

 

 こいつ、完全に俺をおちょくってやがる。

 

「そもそも亜希ってバスケできるのか?」

「できるよ~。バスケ部にいた美少女マネージャーの顔、忘れちゃったのかなぁ~」

 

 それとこれとは話が違うだろ。

 あとその「美少女マネージャー」さん、最初の頃はバスケのルールすら知らなかったじゃないですか。ルール教えたの誰だと思ってるんですか。

 

「なんなら今のあたしはテニス部で動いてる分体力あるし、案外勝っちゃうかもね」

「勝っても亜希に得ないだろ。そこは俺にカッコつけさせてくれよ」

「ダメダメ。得あるもん。1on1で負けた方は勝った方の言うことを何でも一つだけ聞くんだよ」

「んなルールしらないが!?」

「あっ、相手に一点入るごとに服を脱いでいくんだっけ」

 

 おもむろにジャージの襟元に手をかけ、ジジジ……とファスナーを少しだけ下ろしてみせる。

 

「野球拳でもねぇよ!」

「あはは、冗談だよ。祐一ったら赤くなっちゃって~」

 

 俺の反応が余程面白かったのか亜希はケラケラ笑いながら、腹に抱えたボールをなでた。

 

「まっ、そういうわけで勝負しにいこっか」

「俺はバスケができそうな場所なんて知らないぞ。あと絶賛サボり中なんだけど」

「あたしだってサボり中だよ。あと大丈夫、場所なら用意してあるから」

 

 そう言って、亜希は体育館を指さす。

 

「ボールだけじゃなくて、コートも貸してもらってるんだ~」

「は?」

 

 マジかコイツ……。いや本当にマジかコイツ!?

 

     ◇

 

 来てしまった。体育館……。

 眼前には先ほどまで外から見ていた風景が広がっていた。

 校舎から続く廊下を進んで、俺たちはバスケ部員たちの下に向かう。

 

 体育館のバスケ部側につくと、休憩中の部員たちの視線が集まる。明らかに「異物」を見るような目だ。女子マネもいるが、そっちはそっちで亜希に睨みを利かせている。

 

 俺たち歓迎されていないようだけど、本当に来てもよかったの……?

 

 きょろきょろしながら怯えていると、一人の部員が俺たちの前に出てきた。

 俺よりも少し背の高い男で体つきもよい。いかにもスポーツマンって感じだ。

 

「部長さん、急なお願いなのにありがとうございました」

「少しの時間なら問題ないさ」

 

 ぺこり、と猫を被った声で亜希が言うと、彼は優しい笑みで返す。

 どうやら男子バスケ部の部長らしい。なんかオーラ感じるし、たぶん強キャラだ。

 

 部長は俺の前までやってくると軽く精査してきた。

 

「ふむ。君が北見君だね。身長は?」

「えっと……180ぐらいです」

「バスケは中学でやってたんだっけ」

「ええ、まあ」

 

 え、何これ、面接? 

 もしかしてこのままバスケ部に入れられる? 

 話が違うんですけど?

 

「最後に質問なんだけど……」

 

 急に真剣な顔になると、ぐいっと近づいてきて耳打ちする。

 よほど大事な条件があると見た。それだけ聞いて、入部は断ろう。

 

「君のクラスに八奈見って女の子がいるよね?」

 

 急に何を言ってるのこの人?

 

「八奈見ですか? 八奈見杏菜?」

「そうそう。君は彼女の友達と聞いたんだけど」

「まあそうっすね。すごい仲がいいわけじゃないですけど」

「いや、それで十分だ」

 

 部長は腕を組んで頷くと、俺の肩をポンと叩いた。

 

「コートは自由に使ってくれ」

 

 それだけ言って彼は背を向けると部員たちの下に戻っていく。

 

「なんで???」

 

 コートの真ん中に残された俺は、状況が何にも理解できていなかった。

 分かっているのはバスケ部員たちの視線が一心に俺に集まり「この一年坊主はこれから一体どんなプレイを見せてくれるのか」という謎の関心を集められている事だけ。

 

「そろそろ始めるよ~」

 

 準備運動を済ませていると声がかかる。

 亜希はジャージの上を脱ぎ捨て白シャツ一枚の身軽な姿になり、ポニーテールを揺らしていた。

 

「さ、やろっか。バスケ」

 

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