勝ちヒロインを好きになってしまったのですが   作:北極鳥ユキ

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その18 ギルティ

 翌日の放課後。部室の空気はいつもとは打って変わって重苦しかった。

 窓際に座らされた俺は、すぐ正面に座る重浦先輩に睨まれていた。

 脚を組み、腕を組み、自分が怒り心頭である様子を全身を使って表現している。

 

「これより、被告人、北見祐一の漫研裁判を始める」

 

 先輩は100均で買ってきた木槌を叩くと、仰々しく声を上げた。

 

「あのー、パイセン? これは一体……」

「黙れ被告人! 蘆吹、罪状を頼む」

「はい。北見祐一は『女子たぶらかし罪』で起訴されています」

「された憶えないけど?」

 

 二人そろって大きなため息を上げる。

 

「罪状認否に移ろう。北見よ、お前は昨日、女の子とバスケをしたな」

「え? あぁ、はい。しましたけど」

「その相手というのは幼馴染の有針紗由でもなく、まして散々想い人だと言っていた姫宮華恋でもないんだな?」

「亜希っていう中学からの友達ですが」

「なんで相手(ヒロイン)が増えてんだ!」

 

 先輩は声を上げると、身を乗り出して俺につかみかかる。

 そんな様子を見かねて、隣の康斗が慌てて止めに入った。

 

「止めるな蘆吹! お前の妹だって被告人(コイツ)にたぶらかされているんだぞ!」

 

「「え?」」

 

 俺と康斗は声を合わせて固まる。

 それってハルのこと? マジで心当たりがないんですけど!?

 

「ちょ、待ってくださいよパイセン。確かに亜希と仲良くしたのは事実ですけど、ハルは関係ないでしょ」

「大ありだ! 幼馴染、高嶺の花の美少女、妹系後輩、小悪魔女子……四人を同時攻略しようだなんて、お前はどこのエロゲの主人公だ! 私は純愛派だ! ハーレム野郎は許さん!」

「だからハルは関係無いって! あと華恋さん以外は攻略する気ないから!」

「だったら、兄に聞いてみようじゃないか、え?」

 

 俺と先輩の視線が一斉に康斗の方に向いた。

 急に引っ張り出された康斗は困惑しながらも口を開く。

 

「えーっと、僕もハルは関係ないと思いますよ。だってまだ中二だし。昔から祐一には懐いてるけど、それは兄貴分って感じだし」

「そうですよ。ハルはまだ子供です。流石に無いですよ」

「なっ! このっ……揃いも揃って鈍感男どもめ」

 

 先輩は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつ、不承不承と言う感じで頷く。

 

「まあいい、蘆吹(妹)の件については、起訴を取り下げよう。しかし、だ。それでも三人、重罪だ、ギルティだ」

「それについては僕も同意見です。紗由ちゃんを泣かせるのは許さないぞ! あと一人だけモテてるのずるい! リア充爆発しろ!」

「いや別にモテてる訳では……」

 

 華恋さんとはまだまだ微妙な距離感だし、紗由は幼馴染、亜希は昔馴染みってだけで、俺の現状はモテとは程遠いんですが。

 あと俺のどのあたりがリア充なんでしょうか。その言葉は袴田に向けてください。

 

「被告人には反省の色もないと見える! 情状酌量の余地も無いようだな」

 

 カン、カン、カン、と先輩は勢いよく木槌を叩いて注目を集めた。 

 

「判決を言い渡す! 被告人、北見祐一。主文後回し──」

「ちょっと! それもう決まったじゃないですか! 重すぎでしょ!」

「当たり前だ。女子たぶらかし罪(三人)に対する量刑は極刑か無期懲役だけだ」

 

 内乱罪かよ……。

 

「てか、俺は誰のこともたぶらかしてないですからね! ずっと華恋さん一筋だし!」

「じゃあ、あの資材置き場の裏、二人きりで何してたんだ? えぇ!?」

「なんもしてないですよ!」

「嘘つけ! あんな人気のない場所で男女二人きり……。なんて破廉恥な!」

 

 うぐっ、と思わず言葉に詰まる。そこを詰められると確かに弱い。

 ま、まあ、その、亜希とは肩を寄せ合っていい感じの雰囲気だったことは認めるけど、でも別にやましいことはなにもしてないぞ。匂いだって嗅いでないし……。

 

 そもそも、あの体育館でのシュートが決まったのだって、ひとえに華恋さんへの想いあってのものだ。だから、やっぱり亜希がいたとしても、俺の大事な部分は揺らいでいないというか、なんというか。

 

「北見は掃除をサボり、女子といちゃいちゃバスケに励んでいた。これは決して許されることじゃない漫研への背信行為だ。そうだろう蘆吹」

「そうだそうだ。祐一のせいで僕まで掃除させられたんだ。極刑だ! 処刑だ!」

 

 別にいいだろ! ちょっとぐらい女子を遊んでも! 俺だって男子高校生なんだぞ!

 

 あと日本では特別法廷も私刑も認められてないんだからな!

 

      ◇

 

 部活が終わり、何とか極刑は免れた。

 康斗の方はともかくとして、先輩はマジで俺を殺しかねない様子だった。純愛派こわい。

 ほとぼりが冷めるまで、女子と関わるときは色々と気を付けよう……。

 

「ねえ、祐一。一応聞くんだけどさ」

 

 いつも通り二人で駐輪場に向かっていると、ぽつりと康斗が口を開く。

 

「真登瀬亜希とは、何にもないんだよね」

「ちゃんと経緯を説明しただろ」

「聞いたし、バスケ部のことは僕も知ってたけどさ……」

 

 気まずそうに言って、自転車の施錠を外す。

 

「やっぱり外聞は悪いと思うよ、ああいうの。周りに勘違いされても無理ないんじゃないかな」

「……分かってるよ。でも俺が華恋さん一筋なのは変わってないからな、マジで。この前のはサブルートみたいなもんでさ、亜希との過去に決着をつけて、ここからはまた華恋さんルートに戻るって感じだよ」

「重浦先輩みたいなこと言うんだから。僕は、現実ってそう上手くものだとは思えないけどね」

「どういう意味だよ」

「べつに。僕と違って女子に人気な北見祐一君への、ちょっとした恨み言だよ」

「お前なぁ……」

 

 冗談なのか皮肉なのか、なんとも判別の付かない小言。

 俺だって客観的にみて自分の置かれている立場が分かっていない訳ではない。

 なんとも気まずくて、頭をかいた。

 

「あっ、康斗くん」

 

 そんな話をしていると、ちょうど紗由が現れた。

 

「紗由ちゃんおつかれ。じゃあ僕行くね」

 

 挨拶もほどほどにして、康斗は自転車をこぎ出す。

 せっかく会ったのだから、もう少しぐらい紗由と話していけばいいのに……なんて思いながらその背中を見送った。

 

「何の話してたの?」

「なんでもないっす……」

 

 まさか亜希の話をしていたとはいえずに、適当にごまかす。 

 

「そういや母さんが今夜は遅いらしくてさ、飯を食べてから帰ろうと思うんだけど、来るか?」

「ちょうど私も家に誰もいないの。いつものファミレスで食べて帰りましょ」

「いないのか? おじさん単身赴任中で……おばさんは?」

 

 紗由の親父さんは仙台に単身赴任中だ。この前も笹かまぼこを送ってくれたし、まだ仙台に居るんだろう。

 おばさんの方は専業主婦だから仕事は無いはずだけど、なんか用事でもあるのかな。

 

「浜松のおばあちゃんが倒れちゃって」

「まじ?」

「意識はあるんだけどね、寝たきりになっちゃって介護しに行ってるのよ」

「いつから」

「一週間ぐらい前よ」

「えっ。そんなに一人だったのか? 言ってくれれば、紗由の分ぐらい母さんが弁当なり夕飯なり作ってくれたのに」

「北見家にそんな迷惑かけられないって。ご飯作るのって大変なんだから」

 

 まあ、確かに食事を母親任せの身では、あまり言えたものではないか。

 

「あんたも、お母さんに感謝しなさいよ」

 

 げしっと足を蹴られる。どうやら俺の足を損傷させる件については迷惑に入らないっぽい。

 っていうか、この一週間、紗由の昼食は変わらず手製の弁当だったけど、あれ全部一人で作ってたのかよ。すげえな。

 驚きやら感心やらで立ち尽くしていると、再び足を蹴飛ばされた。

 

「なに突っ立ってんの。行くわよ」

 

      ◇ 

 

 鷹胡台の外れにあるジョイフル。

 お互いの家から一番近いファミレスということもあって、中学時代から通い詰めている。

 こじんまりとした内装と少ない客入り。環状線を通っているトラックの方が余程音を出しているぐらい静かな店内は、なんだか居心地が良くていつも長居しがちだ。

 

 ポテトとか、ハンバーグとか、適当に注文しつつドリンクバーへ向かう。

 こういう時、俺はいつもパシリ係。もはや慣れ過ぎて、紗由から何か言われるよりも前に二人分の飲み物を取りに行ってる始末。

 こういうのなんていうんだっけ。パブロフの犬? 

 

 ……いやまて、俺は犬じゃない! ただの訓練された幼馴染だ!

 

 紗由は大抵の場合、ドリンクバーでの一杯目はコーラを飲む。ふっ、子供っぽい奴め。

 俺はアイスコーヒーを注ぐ。これこそ、高校生らしい大人の余裕ってもんだ。

 

「しっかし、浜松のおばあちゃんがねぇ……」

 

 取って来たコップを並べながらつぶやく。

 

「ありがと。まあ、おばあちゃんも歳だから」

 

 小学生の頃、夏休みなると毎年のように浜松に行っていたことを思い出す。

 

 紗由のおばあちゃん家は庄内半島にあって、浜松市街地からはだいぶ離れている。浜松駅からバスで一時間ぐらいかかる場所で、政令指定都市の中にこそあるけど豊橋よりもずっと田舎。

 信じられないかもしれないが、スーパーやファミレスが近所に一個もない上、唯一あるコンビニが24時間営業じゃないド田舎っぷりだ。

 風景のほうも、浜名湖とか、山間の感じとか、こことはぜんぜん違う場所で、いかにもな「田舎のおばあちゃんち」って感じだった。

 

 そういえば、ここ数年は浜松に行っていない。

 中学に上がると夏休みにも部活があるわけで、お互いになかなか時間が取れないせいだ。

 

「また行きたいな。浜松のおばあちゃんち」

「どうせ、うなぎが食べたいだけでしょ」

「バレたか」

 

 親には内緒だけど、紗由のおばあちゃんはいいトコのうなぎをご馳走してくれるんだ。

 最近うなぎなんて食べてないし、また食べたいなぁ。

 

 ウナギに想いを馳せていると、テーブルの下が騒がしいことに気が付いた。紗由がいつもの癖で足をぶらぶらさせているんだろう。

 体は正直ってやつだ。口では俺を非難しつつ、どうせ紗由もうなぎが食べたいんだろう。

 ふっふっふ、分かりやすい奴め。

 

「でも、いいわね浜松。私もしばらく行ってないし、こんど行きましょうか」

「パルパル行きたい」

「行きたい場所が遊園地って、あんた子供じゃないんだから……」

 

 呆れ声と共に、紗由はコーラをすする。相変わらず、足はぶらぶらしていた。

 

 注文したものが届き、俺たちは適当に食事を始める。

 そうだ、華恋さんのインスタ確認しちゃおうっと。昨日は色々あったせいでできなかったし。

 ポテトを食べつつ片手でスマホを弄る。家でやるとお行儀悪いって母さんに怒られるヤツだ。

 

 ふっふふーん。どんな投稿してるのかな~。

 

「いてっ!」

 

 期待に胸を膨らませてインスタを開くと、即座に脛を蹴飛ばされた。

 

「おい、今日なんか蹴る回数多くないか」

「食事中に向いに居る奴が鼻の下伸ばしてる私の身にもなりなさい」

 

 視線を皿に向けたまま、紗由はむすっとした顔で和風ハンバーグを口に運ぶ。

 べつにいいじゃん。好きな人のインスタ見るんだし。

 

 そう思って口を尖らせるが、そろそろ脛の耐久値が減りつつあったので、紗由を刺激しないように気を付けることにした。

 

 おっ、華恋さんのストーリーが上がってる! 早速みちゃおっと……。

 

 出てきた画像は、サラダとパスタだった。どうやらファミレスで頼んだ食事らしい。

 へーっ。華恋さんって、こういう日常の写真を上げるタイプなんだ。てっきり、オシャレな場所の写真とか、自撮りとかを上げてるもんだと思ってた。

 

 でもなんか親近感湧くなぁ。華恋さんってロイヤルホストとか行ってそうなイメージだけど、これたぶんガストのやつだし、意外と庶民的なんだな。

 ……まあ、そもそも豊橋にロイヤルホストはないんだけども。

 

 華恋さんって一人でファミレス行くようなタイプには見えないし、誰かと一緒なのだろうか。

 写真に写っているのは一人分のご飯だけで、よくわからない。でもいいなー。今度は紗由じゃなくて華恋さんとファミレスに行きたいなー。

 

 そんなことを考えていると、ストーリーが勝手に次の投稿に進んだ。

 

 次もガストの食事を写した画像で、テーブルの上にあるのはハンバーグミックスグリルだった。

 ほらあの、ハンバーグにソーセージとチキンが付いてくるやつ。

 ふむ、こいつはセンスいいな。俺も良く頼んでるし……って違う!!!

 

 すぐ、その投稿をしているアカウント名に目が行った。

 袴田のアカウントだ。

 しかも、机は四人掛けのテーブル席で、向かい側には華恋さんの写真に写っていたのと全く同じ「サラダとパスタ」が見切れていた。

 

 あの野郎!!

 

 危うくスマホを投げかけたが、辛うじて踏みとどまる。

 落ち着け、北見祐一。ほら、これはいつものだよ。いつもの誤解。

 思い返せば誤解の多い人生でした。

 二人が一緒に帰っているのかと思えば八奈見がいたし、二人きりで空き教室にいるかと思えば俺についての相談だったし。

 

 うん、だからきっと今回も誤解に違いない。

 そうだ、ファミレスだし絶対に食欲旺盛な八奈見も同席しているに違いない。幼馴染と親友がファミレスに行くんなら、付いていくに決まっているだろ。なんたって八奈見だぞ? これは画角的に袴田と華恋さんが向い同士だから、八奈見は見切れているだけという高度なトリックなんだ!

 

 そうと決まれば……と俺はストーリーのアイコンをスクロールして、八奈見を探し出した。

 よし、ストーリーが上がってる上がってる。さっすが陽キャのJK、自分の生活をなんでもSNSに上げてるもんな。助かるぜ。

 気持ちを落ち着かせながら、八奈見のストーリーを開く。

 画像の上にデカデカと表示されているテキストは以下のようなものだった。

 

『カレーうどん最高!!!!』

 

 うん、ガストじゃないな。どう見てもカウンター席だし、なんなら知ってる店だし。

 

 投稿時間を確認してみるが、袴田、華恋さんのストーリーとほぼ同じぐらいの時間だった。

 

 俺はスマホを床に投げた。

 

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