COIN ーCOunter-INsurgencyー /PROTOTYPE   作:シーウィード

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Prologue
COIN ー COunter-INsurgency ー


 私はかつて平和の手段以外として戦争を主張したことはなく、ゆえに平和を求め、しかし戦争に備えている。なぜなら戦争は……戦争は決して変わらない。戦争は冬のようなものであり、冬は必ず到来するのだ。

──ユリシーズ・グラント

 

【Prologue. COunter-INsurgency】

 

 かのアルバート・アインシュタインは言った。第三次世界大戦でどんな兵器が使われるかは私には分からない。だが、四度目は言える──石だ!

 一九四九年、ドイツの東西分裂やソビエトの核実験の成功を皮切りに、アメリカとソビエトという二つの超大国が睨み合う東西冷戦が、激化の様相を呈する年である。この後、数十年にわたって、世界は核兵器を用いた全面戦争による破滅に怯えることになる。第三次世界大戦は、核兵器か、あるいは核をも超える新たな兵器が使われ、その末に文明は崩壊する。それゆえに、アインシュタインは第四次世界大戦の武器は石だ、と言ったのだ。

 朝鮮半島で、ベトナムで、アフガニスタンで──世界中をチェスボードにして米ソが代理戦争を繰り広げた冷戦。二つの超大国は直接対決を避けながら、キューバ危機を始めとした全面核戦争の危機を辛うじて回避し、やがて一九八九年のマルタ会談、一九九一年のソビエト連邦の崩壊を以って、冷戦は完全に終結した。

 相互確証破壊(MAD)に基づく恐怖の均衡は終わり、世界にはようやく真の平和が訪れる。──そんな幻想はすぐさま打ち砕かれた。

 東西という巨大な枠組みは民族や主義主張、宗教といった小さな単位に分割され、米ソという抑圧と矛先を失った力が無秩序に暴発した。低強度紛争、あるいは不正規戦争として。ルワンダ内戦やボスニア紛争を始めとする数多の内戦や紛争には、時に、民族浄化──すなわち、虐殺が伴った。

 

 ◆

 

 二〇〇一年九月十一日、ハイジャックされた旅客機がワールド・トレード・センターの二つのビルと国防総省(ペンタゴン)に突入したアメリカ同時多発テロを発端に、アメリカとイギリスの両国は不朽の自由作戦を発動、アルカイダおよびアフガニスタンに対して報復攻撃を開始する。

 国家のような確たる形を持たない、テロリストという姿形のあやふやな敵との戦い。冷戦の終結は、古い戦争の終焉であり、新たな戦争の始まりでもあった。

 テロリズムという共通の敵を前に旧東側を含む国々も参戦、人類史上最大の連合と呼ぶに相応しい有志連合が結成され、先進諸国はテロとの戦いに明け暮れることとなる。

 このような国際協調は、今日に至る一連の大破壊の発端となる、「フランシスの厄災」まで続いた。

 遡ること一九九七年、ある小惑星が発見された。仮符号1997AC、軌道確定後に発見者の名からフランシスと名付けられたそれは、非周期彗星に似た双曲線的軌道をとる直径約八・五キロメートルの小惑星であり、これはかつて恐竜を絶滅させたとされるチクシュルーブ衝突体に近い大きさであった。

 フランシスは木星の公転軌道の内側に入り込むと、他天体との摂動で軌道を乱されながら地球に接近、多くの国々がテロとの戦いに苦戦する最中、地球のロシュ限界を突破することとなる。

 フランシスは超高密度の金属核に、岩石の外殻が付着した異質な天体であった。岩石の集積によって形成されるラブルパイル天体に類似するこれは、準ラブルパイル天体と呼ばれる。地球の潮汐力によって金属核から引き剥がされた外殻は、まるで一掴みの砂利を投げつけたかのように、地球に襲いかかった。重力に引き寄せられた破片は数週間に渡って地上へと無差別に降り注ぎ、落下しなかった破片も軌道上の人工衛星と衝突、それによって生じたスペースデブリがさらに衝突を起こすという連鎖的な破壊現象──ケスラー・シンドロームを引き起こした。

 世界中が同時に大打撃を受けた。巨大な小惑星が一つの地点に落ちるのではなく、小さな──尤も、大気圏を突破できるほどの破片が、世界中に落ちたのだ。危惧された大量絶滅は起こらず、しかし同時多発的な被害のために復興のリソースは分散され、遅々として進まない復興、気候変動や難民、食糧危機といった諸問題と、そして宇宙インフラの壊滅による情報伝達の遅延や途絶のために、やがて世界には「外」に原因を求める過激な極右排外主義が蔓延した。フランシスの厄災からの復興期にして第三次世界大戦の前夜、旧アメリカ合衆国で発生した反国際協調とブロック形成を推進するグレイヴス主義は、その最たる例だ。

 国際関係は急速に修復不可能なまでに悪化し、あちこちで行われる紛争は加速度的に規模を拡大、戦火は世界を包み込んだ。やがてある時、どこの誰が最初に放ったかも分からぬまま、核兵器の投げ合いが始まった。第三次世界大戦の勃発である。

 最初の一ヶ月で世界に存在した核兵器の半分以上が消費されたと考えられている。多くの都市と人間が熱線で焼き払われると共に、高高度核爆発によって生じる電磁パルスで多くのハイテク機器が鉄屑と化した。戦前に急速に研究と配備が進められた人工知能や無人兵器の類は、急造品のシールドの防護性能を超える電磁パルスに頭脳たる電子回路を破壊され、謳われていたクリーンな戦争は、歩兵と小銃と火砲という前時代的な戦力による白兵戦へと回帰していった。

 すなわち、政治的にも文字通りにも泥沼の戦争である。

 

 ◆

 

 第三次世界大戦は四年に渡って続いた。戦争とすら呼び難い狂気の応酬に勝者は無く、血と鉄の濁流が押し寄せた後には、焦土のみが残った。

 戦後、国家というシステムがその力を失い、著しく衰退する一方で、大戦を糧に急成長を遂げた九つの巨大複合企業体(メガコングロマリット)──グローバル・ナインが、国家に代わって力を持つようになる。G9体制と呼ばれるそれは、少数の企業グループによる国際経済の寡占である。

 フランシスの厄災と第三次世界大戦、一連の大破壊は文明を滅ぼすにはいささか足りず、しかし、従来の体制を破壊するには十分すぎたのだ。

 黙示録とさえ呼ばれた大破壊からの復興を担うのは、経済や軍事を含むあらゆる分野で国家をも凌駕する存在となったG9と、主権への介入すら可能なほどに強力に再編された国際機関たる国際連合(INU)である。インターナショナル・ユニオンはその名の通り、ユナイテッド・ネーションよりずっと強い結合を持つ。国家の共同体というよりは世界連邦に近いものだ。

 国連戦災復興局が立案した計画に基づいて世界中に展開する国連停戦監視軍(INU-PKF)やG9傘下の民間軍事会社は、しかし、現地武装勢力からの攻撃を受ける事態が頻発した。

 強権を理由に、秩序回復の名の下に、秩序を押し付けるのだ。反発が生まれない方が歴史上の例外というもので、当然といえば当然の話だ。しかしINUの存在意義は世界の秩序回復であり、事実上の無政府状態に陥っているそのような地域こそ、「救済」の対象である。

 このような状況には、イラク戦争における占領期の米軍という事例が存在する。ゆえに、それを踏襲した戦略が採用された。

 一つは非軍事的手段(ソフトパワー)。治安区の設立を始めとした住民の保護やインフラの復旧、医療の提供、経済活動や社会秩序の回復といったものである。

 一つは軍事的手段(ハードパワー)。反乱勢力の直接的排除に加え、特殊作戦部隊やそれに相当する部隊での指導者層の捕縛・暗殺といったものである。

 反乱勢力の人員や物資は主に現地の住民から調達される。ソフトパワーによって現地住民による反乱勢力への協力を断ち、その一方でハードパワーによって反乱勢力そのものを撃滅する。これが現在、INUとG9が展開する対反乱作戦の核心部分である。

 本質的に、これらは「平和のための戦争」であり、人類の歴史にはありふれた大義である。その結末もまた、歴史上、枚挙にいとまがない。

〈マーク・L・ジャクスン『クロニクル:ジ・アポカリプス』〉より抜粋

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