パンジー転生 作:ドラコはあれだからいいの。
雪のように白い肌、薔薇のような頬と血のように赤い唇、黒檀のような黒髪_____あっ、白雪姫の事じゃないわよ。私のこと。まあ、白雪姫って名前だとしても名前負けしないほどの美しさを誇っているわけだから、完全に間違いってわけでもないけれど。
私はパンジー・パーキンソン。
絶世の美少女で、聖二十八一族の純血プリンセスで、自分が生きている世界の道筋を全て知っている。
たぶん……いいえ、確実に特別な人間って奴。
ようやく言葉を喋れるくらいになった辺りで、突如脳内にこの世界の記憶が流れ込んできて____ちなみに記憶の持ち主はアジア系のなんだか地味な女だったけど、そんなことはどうでもいい____私は自分がこの世界のモブに過ぎないことを知った。
『ハリー・ポッター』に登場するいけ好かないモブキャラ。しかも、ブス。
気づいた時にはあまりの怒りに我を忘れ、一歳にして「アバダ ケダブラ」と口にしたので、両親は感動と恐怖に震えた。まあ、そんなことはいいの。
だって今の私は、原作パンジーと違ってパグ犬感なんて一切無い、寧ろ映画『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』バージョンにそっくり_____いいえ、あの美少女子役をも超えるほどの美しさを誇っているんだから。
それで今日は1991年の9月1日。要するに運命の日で、私はホグワーツ特急に乗ってるってわけだけど。
「あ、あの……パンジーは食べる?」
そう言って、ミリセント・ブルストロードがおずおずとパイの切れ端を差し出してくる。隣に座るダフネ・グリーングラスは心底どうでも良さそうに髪の毛を手ぐしでとかしている。
「私このパイ嫌いなのよね」と言うと、ミリセントはあっさりと引き下がった。もっと高級ケーキとか、食べやすいクッキーとかにしなさいよ……なんて、わざわざ言わない。
ミリセント・ブルストロードに大して興味は無い。
聖二十八一族だけど半純血、不美人でゴツいという情報通りの子だし、パーキンソン家のご令嬢である私にすっかり怯えきっていて、話したって何にも楽しくない。
別に純血じゃないからって蔑むつもりは無い。そもそも、どこの家も遡ればマグルの血が入ってるって
それにしても、これから何をしようかしら。この二人と話す気はあまり無い。ミリセントは先述の通り怯えきっていてつまらないし、ダフネともそんなに親しくはない。
_____暇だし気まずい。ああ、どうして純血プリンセスで超絶美少女の私が気まずさなんて感じなくちゃいけないのかしら。
もちろん、記憶の持ち主がブラック企業の営業部で培った媚びスキルでミリセントやダフネを懐柔する事は出来る。でもしない、私が媚びるなんて有り得ないもの。ネビル・ロングボトムのヒキガエルを探す気もないし……こうなったら、やっぱりアレか。
「____あの二人の喧嘩を生で見るしかないわね……」
名場面、「友達なら自分で選べる」を見ないわけにはいかない。いや、私の容姿的にこの世界が映画版って可能性もあるし、そうなら列車の中では喧嘩は起きないかも……?
色々考えた末、退屈そうなコンパートメントを見て、私は結局ハリー・ポッターを探しに行くことにした。喧嘩は見られなくても、「お日様、雛菊、とろけたバター!」を見られるかもしれないし。あの超偉そうな状態のハーマイオニー・グレンジャーがいるかもしれない。
黒髪の地味な少年と赤毛の冴えない少年を探してキョロキョロしながら歩いていると、前からやって来た人間にぶつかられてしまった。
「大丈夫かい?」
「ちょっと、どこ見_____」
そこには、かなり整った容姿をした男子生徒がいた。もちろん、私の美しさには劣るけど。癖のない黒髪に灰色の瞳、ゴツすぎないが程よく厚みのある体型。爽やかなスマイル、キラリと光りそうな白い歯。恐らく私よりも二、三歳上だろう。
さっきまで怒鳴りつける気満々だったけど、あまりにイケメンなので思わず言葉を失ってしまった。私としたことが。
「あ、ハイ」
「じゃあ良かった。気をつけて歩くんだよ」
イケメンはそう言って歩いて行ってしまった。
こんな美少女がいるってのにそれだけ? 信じられない。
_____てか、あんなキャラいたっけ? たぶんモブね。
「何やってんのよ」
フラフラ歩いていると、ようやく騒がしいコンパートメントを見つけ、中に入ってみる。どうやら原作通り、ドラコはハリー・ポッターたちと喧嘩になっているみたい。
私が声をかけると、ドラコは恥ずかしそうな顔をして「な、なななななんだパンジー」とこちらを振り返る。その隣にはクラッブとゴイル_____あれ、必要の部屋で死ぬのってどっちだったっけ? まあどうせ私には関係ないけど。
そして、ドラコの目線の先にいるのが恐らくハリー・ポッターとロン・ウィーズリー。うーん、どっちも地味。私以外は概ね原作準拠なのね。
ドラコになにか言おうとすると、汚いネズミがゴイル(いや、クラッブかも。こいつらって見分けがつかないもの)の指に噛み付いた。
このネズミってピーター・ペティグリューなのよね? どういう気持ちでガキの喧嘩に参戦してるのかしら?
「ドラコ、そういうの十九年後……じゃなかった、二十数年後には黒歴史になるから控えといた方がいいわよ。それからアンタ達」
ドラコの耳たぶを引っ張りながら、キョトンとした顔でこちらを見る主人公組に何か言おうと考えたけど_____別に言うことがない。「アンタのペットのネズミ、汚いおっさんだから」とか「ハアイ、ハリー。アンタって実は分霊箱なのよ。知ってた?」とか言ったって不審者扱いされるだけだし。かと言って、美少女スマイルで懐柔してやろうというつもりもない。別に、主人公組と仲良くなって原作改変してやろう! とか思ってないし。
ハリーがジニーとくっついたのはちょっと驚きだったけど、ロンとハーマイオニーの方は文句のつけようがないお似合いカップルだし、他の組み合わせなんて有り得ない。そもそも、主人公組に関わって命を危険に晒すなんて絶対嫌。純血プリンセスで超絶美少女たるこの私がそんな事するメリットはどこにも無いもの。
「コイツが迷惑かけて申し訳なかったわね。それじゃ、またホグワーツでね」
取り敢えず無難な挨拶に留めておく。これで原作の“感じ悪いブス”ルートは避けられただろう。まあそもそも、私は超絶美少女なわけだからブス呼ばわりされることはほぼ確実にないだろうけど、一応ね。
_____ってか、「友達なら自分で選べる」見れなかったじゃない! 私はネズミがガキに噛み付くのを見に行ったんじゃないわよ! それに、
「アンタのせいで私が謝罪する羽目になったじゃない!」
ドラコの耳たぶを勢いよく離し(ドラコは「うぎゃ」とかいうダサい悲鳴をあげたけど、どうだっていい)、怒鳴りつけた。
なんで一切悪い所のない私が謝らなくちゃいけないのよ。
「何するんだ! 君が勝手に謝ったんだろう?」
「うるさいわね! あそこで謝らずに去ったら七巻までパグ犬ブス扱いされる可能性があるのよ!」
「君は何を言っているんだ? _____そ、それに……」
先程の喧嘩のせいか、顔がまだやや赤いドラコがモゴモゴと口を動かしている。さっさと言いなさいよ、これだからガキって嫌いなのよね。
「君はブスというより、その、むしろ……」
「あ! こんな廊下のど真ん中でギャーギャー騒いでたら株がダダ下がりじゃない。私、自分のコンパートメントに戻るわ」
「君はなんなんだ! いつもそうやって身勝手で! 父上に……」
ドラコが必殺技「父上に言い付けるぞ!」を繰り出そうとしてきたので、その前に何か言ってやろうとした瞬間、「入学前から喧嘩かい?」と穏やかな声が聞こえてきた。
先程のイケメン上級生だ。
「ちょっと議論が熱中してただけよ」
「そう。なら良かった_____あ、さっきも会ったね」
イケメン上級生がこちらを振り向いて爽やかスマイルをかましてくる。こんなイケメンがモブキャラどころか、役名すらない可能性もあるなんて。
「ええ。ところであなた、名前は? 私はパンジー・パーキンソンよ」
私がその名の通り花のような愛らしい笑顔で白くてすべすべな美しい手を差し出すと、イケメン上級生ががっしりとした大きな手で包み込んだ。今のところ、非の打ち所が一切ない。
「僕はセドリック・ディゴリー。ハッフルパフの三年生だ。ところで、もうそろそろ着替えた方が良いと思うよ。ああ、君は?」
「ドラコ・マルフォイだ。ハッフルパフに入る予定は無いから、覚えなくて結構だ」
セドリックはドラコの最悪な態度にも怒ることなく、爽やかなまま去って行った。ドラコは相変わらず口を尖らせている、ガキね。
_____って、ドラコなんてどうでもいいのよ。それより、セドリック・ディゴリーですって? あの、『炎のゴブレット』で死ぬ、チョウ・チャンの彼氏? あんなにイケメンだったの?
私はドラコを置き去りにして元いたコンパートメントへ戻った。なにかキーキー騒いでいるけどどうでもいい。
あんなネズミ、さっき殺しておくべきだったわ。なんでイケメンがドブネズミのせいで死ななくちゃならないのよ。良いとこ無しのハゲたオッサンのせいで将来有望なイケメンの命が失われるなんて、本当に嘆かわしいわ。
「ど、どうかしたの?」
ピーター・ペティグリューを殺すか否か真剣に考えていると、ミリセントがオドオドしながら話しかけてきた。
「別に。なんでもないわ」
「そ、そう……」
いじめる気もバカにする気もないんだから、必要以上にオドオドするのはやめてほしい。そもそも、ミリセント・ブルストロードっていうキャラに興味は無いんだから。
でも、聖二十八一族なのに半純血って所は少し面白いかも。ダフネの方も色々ワケありっぽいし、『ハリー・ポッター』って脇役も色々と面白そうなキャラが多くてすごい。
_____あれ、その点パンジー・パーキンソンって何も無くない? ただの感じ悪いパグ犬面のブスじゃない? 噛ませ犬以外の役割がなんにも無いザコキャラすぎるでしょ。こんなのに原作の知識や記憶があっても、何にも面白くないじゃない。まあ、半端なキャラだからこそ安全が保証されているのだけど。
私が心の中でパンジー・パーキンソンというキャラクターのつまらなさにツッコミを入れ、ダフネは相変わらずミステリアスなご令嬢らしく憂鬱な表情で窓の外を眺め、ミリセントがオドオドしていると、「もうすぐ着きます」というようなアナウンスが流れた。
「イッチ年生!」と騒がしいハグリッドに連れられ、私たちはボートに乗ったり暗い道を通ったりして、ようやくホグワーツ城に着いた。大雨の年の新入生って、ボートに乗る時はどうするのかしら。まあどうせ、全部魔法で何とかするんでしょうけど。
____それにしても、ハグリッドってアラ還の割に幼稚すぎるわよね。猫や犬の五歳が人間のアラフォーなのの反対で、巨人族のアラ還は人間のティーンエイジャーって感じなのかしら? でも、見た目は四十代くらいには見えるから損ね。
その後も完全に私が知っている通りに進んで行った。ハーマイオニー・グレンジャーは『ホグワーツの歴史』で読んだとかいう知識をひけらかしているし、ハンナ・アボットはハッフルパフに組み分けられた。
ドラコがスリザリンに組みわけられた辺りから、私はイライラし始めた。初めの方は知っているキャラの運命の瞬間を見ることが出来て嬉しかったけど、思ったより人数が多い。メインキャラがどこに組み分けされるから知ってるし、原作に名前が無かったキャラがどうなろうが知ったこっちゃない。ああもう、早送りとか出来ないの? タイムターナーが欲しい。いや、あれって過去に戻る事しか出来ないんだったかしら。もう何年も
「パーキンソン・パンジー!」
とうとう名前を呼ばれ、私はみんなの前を優雅に歩いた。ただでさえ純血プリンセスな上にとんでもない美少女なので皆からの視線が突き刺さる。ハイスペ美少女も楽じゃないのよ。
帽子をかぶって数秒、帽子は「フーム」と短くうなり……。
「スリザリン!」
____ちょっと待ちなさいよ!
なーんて言う訳にも行かず、私はスリザリンのテーブルに向かって歩き出す。みんな大きな拍手をしてくれている、当たり前だけど。
別に、スリザリンが不満ってわけじゃないの。分かってたし、そうするつもりだったけど! ちょっと早すぎるんじゃないの?
実は、組み分け帽子をかぶるのはすごく楽しみだった。二次創作だったら大体、「グリフィンドールにも向いてる~」だとか、「レイブンクローの知性も~」とかウンタラカンタラ言われつつ最終的にグリフィンドールかスリザリンに決まるところを、即決スリザリン?
組み分け帽子とお話したかったのに!
不貞腐れて頬杖を着いていると、隣に座っている女子生徒が話しかけてきた。うーん、完全に見覚えが無い。まあ、メインキャラ以外ではっきり顔が分かるのなんてハンナ・アボットとかスーザン・ボーンズくらいだけど。
「ハアイ、よろしく。私は____」
「退け」
そう言って、金髪横暴お坊ちゃまことドラコが私の隣に腰掛けた。わざわざ移動してきたのかしら。
「ここは純血しか座れないんだ」とお手本のような小物イキリムーブをかましている。二十数年後に後悔するんだから、あんまり黒歴史を量産しない方がいいのに。まあ、わざわざ注意してやるほど私は優しくないけどね。
「君はやっぱり、スリザリンだと思っていたよ」
「そうね。妥当よね」
別にスリザリンに組み分けされたことは不満じゃないけど、原作の方で「スリザリンに入るやつは全員感じ悪い気がする」とかハリーに思われていたのを思い出すと…………そこまで良い気分はしない。もちろん、スリザリンに入るのが私にとっての最適解なのは分かっているけど。
そもそも、原作でのスリザリンの扱いが悪すぎる。スネイプの善行だけじゃかき消せないほど悪い。『呪いの子』で挽回したとはいえ、あれって正史といえるのか怪しいラインだし。
____まあ、この顔があればなんだっていいか。可愛いは正義だし。
ドラコの方は相変わらず、上級生から媚びを売られたり、同級生から媚びを売られたりしている。本人も満更じゃないみたい。やっぱり小物ね。
もちろん私もお父様から「ドラコと仲良くするように」とは言われてるけど、超絶美少女なので媚びを売らなくたって何とかそこそこ仲良く出来ている。
それに、パーキンソン家は他の子にヘコヘコしなきゃいけないような家じゃないもの。
偉そうなドラコを眺めたり、ダフネと少しだけ会話したり、上級生のくだらない話にテキトーに相槌を打っていると、ようやく組み分けが終わったみたいだった。魔性のイケメン、ブレーズ・ザビニがスリザリンのテーブルにやって来て、女子たちが色めき立つ。私はあんまりタイプじゃないけど。
「そーれ! わっしょい! こらっしょい! どっこらしょい! 以上!」
ダンブルドアがそんなことを言って、ようやく食事が始まった。案の定他のスリザリン生たちが「ボケてんじゃねえの」「百歳だろ? 仕方ないよ」とか何とかバカにしている。愚かだわ。
とはいえ、生で見ると中々キテレツ。いくら偉大な魔法使いって知っていても、ガキなら「こいつが?」と思ってしまうのも無理はない。まあ、彼がこれからすることを全て知っている私は例外だけど。
「あんなのにホグワーツを任せておけない、そうは思わないか?」
ステーキをカットしていると、ドラコが話しかけてきた。来年度、父親がダンブルドアを引きずり下ろそうとして失敗するという未来を知っているとなかなか味がある。ついでに言うと、こいつ、六年生でダンブルドアを殺そうとして失敗するのよね。
「アンタってどこまで行っても小物噛ませ犬よね」
「はあ!? 君はなんて失礼なんだ!」
失礼でえらそうで高飛車なパンジーを書きたかっただけすぎ