変化の完了から三日が経った。
継国巌勝──もはや黒死牟ではない彼は、カプセルコーポレーションの医務室のベッドに横たわり、天井を見つめていた。人間に戻った身体は予想以上に虚弱で、激しい変化の後遺症により、しばらく安静にしているよう医師に言い渡されていた。
だが、彼の心は複雑だった。数百年ぶりに感じる人間としての心音、規則正しい呼吸、そして人肉への渇望の消失に安堵を覚える一方で、失われた圧倒的な力への喪失感も否定できなかった。そして何より、縁壱への想いは依然として心の奥底で渦巻いていた。
(縁壱よ…私は人間に戻ったが、お前への想いは変わらぬ。この気持ちは一体何なのだ…)
「調子はどうだ?」
扉をノックする音と共に、ピッコロが部屋に入ってきた。緑色の戦士は、巌勝の枕元に椅子を置いて腰掛ける。
「…身体は弱くなったが、心は…複雑だ」
巌勝は起き上がろうとしたが、ピッコロがそれを制した。
「まだ無理をするな。人間の身体は鬼ほど頑丈ではない」
「ピッコロ、私は本当に正しい選択をしたのだろうか」
ピッコロは巌勝の表情を静かに観察した。
「後悔しているのか?」
「いや…だが、この力のない身体で、果たして何ができるというのだ…」
「お前はまだ、亡霊と競おうとしているのか」
ピッコロの声に僅かな厳しさが混じった。
「人間に戻ったのも、結局はそいつを超えるためか?」
巌勝は答えられなかった。自分でも分からないのだ。縁壱への想いが愛なのか、憧れなのか、それとも依然として嫉妬なのか。
その時、病室の扉が勢いよく開かれ、悟空が顔を覗かせた。
「よぉ、巌勝! もう動けるか?」
「孫、まだ安静にしてろって言われてるんだぞ」
ピッコロがたしなめるが、悟空は気にした様子もない。
「でも、元気そうじゃねぇか! じゃあさ、軽い修行から始めてみないか?」
巌勝の目が輝いた。
「修行…そうだな。この身体で、どこまでできるか知りたい」
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一週間後、巌勝は完全に回復し、ついにZ戦士たちとの本格的な修行を開始した。
カプセルコーポレーションの裏にある広大な訓練場。そこは重力装置も完備された、最新鋭の修行施設だった。
だが巌勝は、まず通常重力での基本的な動作確認から始めることにした。
「よし、まずは型の確認だな」
悟空が構えを取る。
「巌勝の月の呼吸、オラたちにも見せてくれよ」
巌勝は深く息を吸い、刀を構えた。人間に戻った今、彼の動きは以前ほど超人的ではない。だが、長年の経験は健在だった。
「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」
振り下ろされる刀が、三日月状の斬撃を生み出す。しかし、鬼だった頃と比べて、その威力は明らかに落ちていた。斬撃の数も少なく、射程も短い。
巌勝の表情が曇った。
「やはり…人間の身体では、この程度が限界か」
「うーん」悟空が顎に手を当てて考える。
「威力は下がったけど、でもさ、なんか技が綺麗になったな」
ベジータも腕を組んで観察していた。
「技の精度が上がっている。無駄な力みが消えたせいだ。だが、貴様は納得していないようだな」
「…私は縁壱を超えるために鬼になった。だが人間に戻った今、その目標がより遠くなったような気がする」
天津飯が静かに言った。「お前は今でも、そいつを超えることを考えているのか?」
巌勝は刀を下ろし、自分の手を見つめた。「分からない。だが、この劣等感は消えぬ。人間に戻っても、私は私だ」
それから数日間、巌勝の修行は思うような成果を上げられなかった。人間の身体の限界に阻まれ、かつての威力を取り戻すことができずにいた。
「くそっ!」修行を終えた夜、巌勝は一人で刀を振り続けていた。
「これでは縁壱の足元にも及ばぬ!」
その時、ベジータが現れた。
「貴様、まだやっているのか」
「ベジータ…私は、何のために人間に戻ったのだろうか。この程度の力では…」
「ふん」ベジータは冷笑した。「貴様は根本的に間違えている」
「何?」
「力を失ったと嘆いているが、貴様は本当の力をまだ知らないだけだ」
ベジータは手のひらに小さなエネルギー球を作り出した。
「これを見ろ。これが『気』だ」
巌勝は興味深そうにその光る球体を見つめた。
「気とは生命エネルギーだ。すべての生物が持っているが、ほとんどの者がその使い方を知らない。だが、正しく修練すれば、人間でも途轍もない力を得ることができる」
「気…」
「貴様の呼吸法は、無意識のうちに気をコントロールしている。だが、それを意識的に行えるようになれば…」
ベジータの手のエネルギーが大きくなった。
「人間の限界など、軽々と超越できる」
巌勝の瞳に希望の光が宿った。
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翌日から、巌勝の修行は根本的に変わった。
悟空が気のコントロールの基礎を教えた。
「気ってのは、体の中を流れるエネルギーなんだ。最初は感じるのが難しいけど、慣れればすぐだぞ」
巌勝は瞑想の姿勢で座り、体内の流れに意識を向けた。すると、確かに感じることができた。血管とは異なる、もう一つの流れが全身を巡っているのを。
「これが…気か」
「そうだ! じゃあ次は、それを手のひらに集中してみろ」
巌勝は集中し、体内の気を右手に集めようとした。最初は全く感じられなかったが、数時間の練習の後、手のひらに僅かな温かさを感じることができた。
「何か温かさを感じる…」
「やるじゃねぇか! じゃあ今度は、それを刀に流してみろ」
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気の操作を覚えた巌勝の成長は目覚ましかった。
一週間後、彼は刀に気を込めて月の呼吸を放つことができるようになっていた。気を纏った斬撃は、以前よりもはるかに鋭く、射程も威力も格段に向上していた。
「月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月」
気を込めた連続斬撃が、広範囲を薙ぎ払う。その威力は、鬼だった頃に匹敵するほどだった。
「すげぇ!」悟空が興奮して言った。「気を覚えただけで、こんなに変わるなんて!」
だが巌勝は満足していなかった。「まだ足りない。縁壱の日の呼吸の前では…」
「また縁壱の話か」ピッコロが呆れたように言った。
「お前は人間に戻っても、結局同じことを考えているじゃないか」
巌勝は黙り込んだ。確かにピッコロの言う通りだった。
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気の強化は続いた。
気のコントロールが向上するにつれ、巌勝の既存の技は次々と威力を増していった。
「月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月」
気を込めた連続斬撃は、以前とは比較にならない範囲と威力で敵を薙ぎ払う。
「月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間」
気で強化された縦方向の斬撃は、まるで月光の滝のように美しく、そして致命的だった。
「月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月」
気の力により、地面を割るほどの強烈な斬撃はさらに威力を増し、その軌跡は虹のように美しかった。
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修行の日々は続いた。
気の操作に習熟した巌勝は、ついに通常重力での修行を卒業し、重力室での修行を開始した。10倍重力の中でも、彼は気の力で身体を強化し、月の呼吸を展開することができた。
「月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面」
重力に逆らって舞い踊るような軽やかな動きで、三日月の斬撃が雨のように降り注ぐ。気のコントロールが極限まで達した証拠だった。
「すげぇな、巌勝」悟空が感心した。「もうオラたちと同じレベルで修行できるじゃねぇか」
「ああ。気の力を覚えたおかげだ」巌勝は充実感を味わっていた。「人間の限界など、気の前では些細なことだった」
だが、巌勝の心にあるのはそれだけではなかった。鬼として孤独に強さを求め続けた数百年。あの頃とは比較にならぬほど、今の自分は満たされている。共に高め合う仲間がいるからこそ、この境地にたどり着けたのだと、彼は強く実感していた。一人では決して見えなかった高みが、確かにそこにあった。