「はろはろー! 皆さんそろってるねー」
「実に馬鹿みたいな顔をしてるな、お前たち」
担任の緋山先生と紙束を持った副担任の茶柱先生が入ってくる。
そしてクラス内の微妙な空気を察してか、茶柱先生はオレたちに罵詈雑言を放つ。
事実だから仕方がない。
「さて、質問はあるかな?」
教壇についた緋山先生が、明るく朗らかな挨拶をしたらすぐさま真顔になる。
それを見て生唾を飲み込む音がすこし聞こえた気がするが、
ここですかさず平田が挙手する。
すこし思い詰めていながらも、方向性をきっちりときめていてポイントが
入金されていない事実を受け止めている。
心構えを朝一に取れていたこともあり、おどおどせず堂に入った態度で
はっきりと思いを口にする。
「今月の入金が0円でした。 授業態度や遅刻などが査定に影響したと考えているのですが、具体的にどの行動が何ポイントの減点に繋がるのか、目安を教えていただけますか?」
「それはできません。総務課が全て決めています。
ですが減額された要因は、基本的な授業態度や技術・美術の時間で行われた小さな作品紹介の非出展等、小さな積み重ねが散り積もった結果です」
「納得いきません。僕の父親が所属している大企業は、遅刻で一万・無断欠勤が自主退社・居眠りで5千・パワハラで月給半額・セクハラで賠償・中程度のしっぱいでボーナス査定無し、と明確に通達されています。
国の機関とありながら、そこらの大企業よりも不透明なんですね。なさけない。
それが企業に税を収めてもらっている国に雇われ、働いている国家公務員の態度ですか」
「おい、平田。口を慎め。お前の親がどこの企業に勤めてようが、ここは“お遊び”じゃない。 国家が金を出して育ててやってるってのに、授業中に寝てるだの、スマホいじってるだの、 そのツケを払う段になって文句垂れるとは、どこまで甘ったれてんだ?」
茶柱先生は緋山先生よりも前に出て、オレたちを一瞥する。
最後に平田を見て、睨みつける。突き刺すような目線が、平田を貫くが当の本人は唇を噛み締めて、いまを耐えている。流石だ、このクラス公式のリーダー。
「査定が不透明だ? 笑わせるな。 お前らみたいな底辺クラスに、いちいち説明するほど暇じゃない。
減点されたくなければ、黙って授業受けて、言われたことをやれ。 それができないなら、さっさと退学しろ。税金の無駄遣いは、こっちの方がよっぽど納得いかないな」
あまりの言葉に、緋山先生も驚きが混じった顔をする。
だが、 茶柱先生の棘ある口撃に気を取られるクラスメイトは、あまりそれに気づいていないと思う。
「それとも何だ? お前の親が国に文句でも言うのか?
だったらどうぞご自由に。 その代わり、次に口を開くときは、査定対象が“個人”になるかもしれないからな。 覚悟して喋れよ、ガキ共」
そういうと、まだ何か? と言ったふうな雰囲気の茶柱先生に萎縮して、平田は席にへたりこんだ。この空気のままホームルームを始めるのか。
勘弁してくれ。
「ワタシから質問があります」
「言ってみろ」
大変なことに気付いた。水戸に頼んだ質問の内容と酷似している。二番煎じはまずい。オレはどうにもならない事態に、静観を決め込んだ。
「中間テストで高得点を取ればクラスポイントが回復するとのことですが、
得点と回復量の具体的な関係式や目安はありますか?」
「いい質問だね」
ピリピリしている茶柱先生を下げて、緋山先生が目の前に出てくる。
なるほど、たしかに。緋山先生はどんなに取り繕っても、見た目や身長から
マスコット感が拭えない。
緋山先生をだしにして、茶柱先生でお灸をすえる算段か。
「基本は平均点。そこから100ポイントを前後するよ。
それと、順位によって、追加で報酬がもらえるから頑張って勉強してね」
先程の茶柱先生の剣幕が効いているのがわかっているから、少し緩めの空気でお出しされる。
それでも、この空気は弛緩しなかった。
おかげさまで、やっとこの教室も変われるかもしれない。
いや、変わるだろう。真実が、このあと発表されるからだ。
そう。次の中間で、総合得点40位が強制退学させられる真実を。
「それでは、3週間後にある中間テストについてお話するよ」
質問を終えた水戸が座ると、茶柱先生が黒板にもってきた紙束を貼り付ける。
そこには基本5教科のテスト範囲、そして総合40位はきついお仕置きが待っていることが判明される。
さすがに強制退学を明言することはなかったか。
しかし、いずれテストが終われば、全員が気づくだろう。
そのときにオレたちの隠蔽がバレる可能性がある。
更にこの後質問をすれば、緋山先生からそこを突かれる可能性がある。
「範囲はこの通り。基本5教科だけだけど、他の教科も先生から課題を出されていると思う。どちらもおろそかにしないでね」
「先ほども言った通り、この學校は中学の義務教育で鈍った精神を、社会で通用するよう鍛え上げる場所でもある。
甘っちょろい考えでいるなら、退学も辞さない。
覚悟して事に当たれ。以上だ」
ちゃんとここで、退学に関して言及している。これに気づけるのだろうか。
気づいてほしいが、先程の剣幕で萎縮している一部生徒にその声は届いていないかもな。隣のシェフは、ニコニコしている。いつも楽しそうだよな、お前。
きっとこの後どう動くか思案しているのかもしれない。