ようこそ個人主義上等の教室へ   作:名無しの権左衛門

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2:ようこそ、夢心地の学校生活へ

 卯月。今日は入学式。オレはバスの座席に座り、揺れに身を任せながら揺蕩う雲に目を移す。雲量3ほどの晴れで、温暖化を感じさせない涼しさだ。

全てから開放された先の新天地で、どのようにして過ごそうかと思案していると、

バス停にバスが止まる。

 

 別に偶然そっちに意識がむかっただけで、何も意味があったわけじゃない。

 

「どわあああ!! ふぅ、行ったかと思ったよ」

「とんでもねえ、待ってたんだ」

 

 オレはバスに乗車してきた同じ服装の男子生徒を見る。

そいつはおばあさんをお姫様だっこして、近くの席に座らせたのだ。

 

「もう、けーくん! 遅刻したら大変なんだよ!?」

「ごめんごめん。ほっとけなくてさ」

「ありがとねぇ」

「どういたしまして。おばあさんも、ゆっくりと羽根伸ばしてな」

 

 婆さんを抱っこしてきたそいつに、近寄る少女二人。

くっそ羨ましいことだ。今までそんな機会はなかったし、作ろうとも思っていなかった。

そうだとしても、男として羨望の眼差しを向けるのは間違ったことだろうか。

 

 爆音を垂れ流しているガタイの良い若くて金髪の男が、終始優先席を牛耳っている以外

何も問題なかった。実に生産的で、本当に個性がある。

 

 徐々に満員になってきて、行き先まで時間があるとなれば惰眠をむさぼるのも一興だろう。

 

 少しバスに揺られ目的地までまどろみ眼で、どんぶらことゆさぶられた。

 

 大理石のような表面加工された5次受けハイプラ樹脂製の門を、バスは容易に通り抜けた。最終到着地点であるバス停で、人工島に地に足をつける。

はっきりした意識の割には重い体を引きずりながら、豪奢な装飾がされた入口の門の前で立ち止まる。

 

 赤を基調とした制服に身を包んだ少年少女が、この全寮制の学校で学んでいく。

 

 東京都高度育成高等学校。大昔の偉人の願いが凝縮し、国家プロジェクトとして開発された経緯を持つ。

日本国政府が一枚かんで、日本国を色んな角度から支える人材を作り出す公的機関。

ここに義務教育を済ませ、未成年であるオレたちが世話になるばしょだ。

 

 妙な緊張感に包まれるというらしくもない感情を知りながら、深呼吸をして

門をくぐろうとする。

 

 しかし、背中に何かが当たる。

 

「あ、ごめん」

「ああ」

「……君、周囲を観察しておくと良いよ」

「は?」

 

 勝手にぶつかってきて去っていった少年は、参考書を片手にそそくさと人混みに紛れて消えていった。

一体何だったのだろうか? 

 

 

 入学式というものは、いつも長文で埋め尽くされている。そんなことはどうでもいい。

早く学校生活をさせてくれ。校長のありがたい訓示は、結局成功者の言葉に過ぎない。

 オレは行事としての入学式ではなく、節目としての入学式は有意義であると考える。

なぜなら交友関係が一旦リセットされるからだ。

 

 これから新たな学校生活を満喫するため、交友した人物により生活の質が担保される。

逆に言えば、十分に友人づきあいがなければ十分に馴染めないということだ。

 オレは前日、少々不得手ながらシミュレートをしてみた。

 

 やあやあみんな、完璧超人綾小路だよ。よろしくね☆

 

 我ながらキモいな。

脳内の最高のオレを唾棄して、教室内に視線を向ける。

視線をむけるだけで、誰にも話かけられない。

 友達というものは、中々作れないもんなんだな。

状況を振り返っても、何もいい答えが浮かんでこない。

 

 常に脳内がてんやわんやの大騒ぎで、人生の転換点にして最盛期。

 

 くそっ、友達っていうのは、勝手にできるもんじゃないのか?

関係性が0から始まるから、それを作り上げることはなかなか難しいと思っている。

だけれども、こんなにも断崖絶壁に囲まれているとは思いもしなかった。

 

 

 どんどんと登校し、自分のネームが書かれた席にすわっていき密集し、集団が形成されていく。このままだと、一人孤独の海に沈められる。

焦りを感じたのと同時に、重い腰をよっこいしょと持ち上げ眼前の席にいる生徒へ声をかけようとする。

 

 が、しかし。他の男子生徒に話しかけられている。

ああ、よかったねえ君。学校内で初めての友人じゃない?

メガネをかけた恰幅のいい彼は、和やかに談話している。

 

「くっ、先を越された」

「よっ!」

 

 机に突っ伏すところだった。

一体この孤高の富士山であるオレに話しかけてきた珍妙なクラスメイトは誰だ。

そう思いながら、顔をあげる。そこにいたのは、バスでおばあさんを抱っこしていたイケメンだ。

 

「お前は」

「俺は安藤敬介! 君はバスにいたよな、友達になろうぜ!」

「あ、あぁ。オレは綾小路清隆。よろしく」

 

 初めて友達ができたっ! しかも同性の友達だ! 女子と友だちになるのも、それは嬉しいがすこしむずかしい挑戦だったろう。

次の目標は友達二人目と女の子の友達を作ることだ。

そこから彼女ができるんだろう。 これこそ、高校生の醍醐味だ。

 

「あれ、けいくん。友達できたの?」

「ああ、綾小路っていうんだ」

「へぇ、中々のイケメンね」

 

 まさかの女の子! しかもかわいい。スレンダーだけど童顔で、背の高い中学生と言われたら信じてしまいそうだ。

しかもオレのことを、イケメンだと。そうかそうか。君、見る目あるね。どうだい、この後オレとお茶を飲みに行かないか?

脳内でイメトレをしながら、自己紹介をする。

 

「オレは綾小路清隆。よろしく、ところで……」

「あたしは、井村夏樹! クラスメイトとして、これから3年間よろしくね!」

 

 ああはい。そりゃそうだよな。こんなかわいい子が、お手つきされてないわけないもんな。安藤の腕を取る井村は、公然とイチャイチャし始めた。ここでやるんじゃねえよ……!

ほら、メガネの男子や女子のおっぱいで、盛り合ってる男子から白い目で見られてるぞ。

 

「あ、ナッツー! けーくんを独り占めとか許さないよ!」

「あ、あきちゃん、別に独り占めなんてしてないって」

「いーや、してた! 私の目が黒いうちは、ハピハピタイムなんてさせないんだから!」

 

 くっそ。あのイケメンめ。また違うタイプの美人を侍らせやがって。

 

「な、なあ綾小路」

「なんだよ」

 

 おっと思ったよりも低い声が出てしまった。思ったことが言葉出たのは失策だった。

どうにかしてリカバリーを。

 

「助けてくれないか?」

「爆発しろ」

 

 無自覚にもてるappealしなくていいぞ。別に羨ましくはない!

 

 

 

「はろはろー! 皆さん元気ですねー」

 

 チャイムがなる前に教室へ入ってきた、背の低い一人の女性教師。

にこやかに、かつ元気に手を振りながら教壇にたつ。

 

「私は、緋山花子っていいます! 教える教科は、日本史です!

続いて入ってきたのは、日本史補佐の茶柱佐枝さんです」

「茶柱佐枝だ」

 

 ちょうど予鈴が鳴り響き、スーツ姿の女性がひとり入ってくる。

彼女は茶柱というようだ。

まだクラス内が浮足立って、ぺちゃくちゃとおしゃべりしている。

 

「これから三年間、クラス替えはなくこのまま卒業まで付き合うことになります。

それと、今後の学校生活の根幹になる、Student Systemについての資料を渡しますね」

 

 見覚えがある冊子を前から配られる。

入学が決定したときに、入学証明書の発行願いを出すときに見た記憶がある。

 この学校は他の学校と違い、国内唯一のポイント制度が周辺インフラや経済を支えている。他にも外部との接触を禁止し、寮で日々の生活を過ごす。

もちろん生徒たちの不満をそらすために、娯楽の全てを網羅している。

 

「皆さんには、スマートカードをお配りします。学生証兼クレジットカードになってますので、ぜったいになくさないでくださいね!

このクレジットカードには、ポイントが入っています。このポイントで買えないものは、敷地内に存在していません」

 

 学生証と携帯電話・クレジットカードが一体化した媒体は、これ一つで全てのことを最低限行えるようになってる。

少なくとも通話ができるし、軽く掲示板につなげる事もできた。

 

「校内施設にそのカードを照らせば、お買い物ができます。毎月1日に、ポイントが支給されます。確認しましたか? 10万ポイントが付与されている事がわかると思います。

価格レートは、1pt=1円ですよー」

 

 クラスの半数がざわついた。入学祝いということか。さすが政府主導の国立學校、大盤振る舞いだ。

中学卒業したての子どもにとって、これはかなりの大金だろう。

 

「こちらのポイントですが、卒業時に回収しますので貯めても意味はありません。

使い方は自由ですが、お金がなくなって明日食うに困る、なんてことがないようにしてくださいね。

 あ、それと暴力によるカツアゲは、ダメゼッタイ! です。いじめがあったら先生に言ってください。政府が介入します」

 

 先生はものすごい熱意で、クラス全体を見渡した。

昨今問題になっていて、不安を覚えているであろうクラスメイトたちは、妙な安心感を覚えているようだ。

 

 そうして先生は教壇を降り、もう一人の副担任を従えて出ていった。

このあと入学式であるというのに、クラスメイト皆は妙に浮足立っている。

 

「いやーすごいよねー」

 

 共感を求める隣の席の男子生徒。

 

「入学祝いに10万。しかも、毎月入金されるんだ。豪遊しそうになるよね」

 

 にこやかとしているが、何やら言葉に棘があるような。

 

「おっと、紹介が遅れちった。僕は四位府 力(ちから)。気軽にシェフって呼んでね」

 

 そういってにこやかにクッキー6枚がはいった小包をくれる。

 

「あ、ああ。オレは綾小路 清隆。気軽に呼んでくれよな」

「じゃあ、コージね」

「おう」

 

 妙な簡略化をされたなあ、とクッキーをポリポリ食べる。

チョコチップが入っていて、レンジでチンしてからの方が美味しく食べられそうだ。

 

 この高度育成高等学校は、就職率進学率100%。

入学したからには、順風満帆といった未来に希望あふれる生活になるだろう。

外部との連絡が取れないというデメリットはあれど、それを補って余りある商業施設。

そして高額ポイント。

 夢のような、というか本当に夢見心地が良い環境で、オレたちは學校教育で自らを鍛え上げていくのだろう。

 

「皆、ちょっといいかな?」

 

 そわそわしている生徒や静かに座っている生徒がいる中で、スッと手を挙げる好青年。

髪は地毛なんだろうか、特徴的な頭髪をしている。表情も意見具申と言った具合だ。

 

「僕たちは今日から同じクラスで、これから三年間を過ごすことになる。

そこで今から自己紹介をして、一日も早く皆が友達になれたらと思ってるんだ。

一時限目までに時間があるし、どうかな?」

 

 おぉ、オレが友達を増やすイベントを増やしてくれた。

やはり最初にグループを作れなかったのは、とても痛かったがこういう奴が一人でもいるとしれてよかった。

 

「いいこと言うじゃねえか! これから、体育祭とかもあるし、皆のことを知っておいて損はねえ!」

「よかった、賛同してくれる人がいて」

 

 彼の斜め後ろにいる男子生徒がサクラかな? おかげで、迷っていた生徒や孤独になって、机に突っ伏している生徒が顔を上げ始めた。

 

「まずは提案者の僕からだね。僕は、平田洋介。中学では洋介って呼ばれる事が多かったから、皆も気軽に下の名前で呼んでほしい。趣味はスポーツ全般。特にサッカーが好きで、この學校でもサッカー部に入るつもりなんだ」

 

 言い出しっぺの好青年は、非の打ち所がない自己紹介をする。爽やかイケメンスマイルとサッカーの合せ技で、モテレベルが青天井だ。ほれみろ、隣の女子なんて、ハートマークを粗製乱造しているぞ。

こういうやつがクラスの中心になって、卒業まで皆を引っ張っていくリーダーになるんだろうな。そして色んなイベントを経て、クラスで一番かわいい子と付き合う。よくある流れだと思う。

 

「じゃあ、次は君からお願いしようかな。そして、後ろまで行ったら左側へ、そして前へっていう感じで蛇行していこう」

 

 あくまで自然な確認をとなりの女子生徒にする。隣の少女は鷹揚と頷いて、それに対応する。

 

「ええ、構いませんよ。私は、坂柳有栖といいます。好きなものは……チェスですね。

甘いものも、それ相応に好きです。それと、少し歩くのが遅いので、どなたかお手伝いしてください」

 

 銀髪の可憐な少女は、椅子に体重をかけ杖を握って軽く振るう。

……一瞬じゃなくて、あの少女はなぜ最後オレの方をじっと見つめてきたんだろうか。

 い、いやまて、まさかオレに気があるのか!? いつ知り合ったかもわからないのにか。それか井村がいうように、イケメンだから食いついてきたのだろうか。

わからない。

 

 しばらく何人か一言で済ませたり、同調圧力か気遣いかわからない言葉を投げかけられたり、と回っていく。

 

「拙者、外村秀雄と言うで御座る! 趣味はアニメや小説鑑賞で候。すきなものは、かわいいイラストや専門的な漫画で御座る!」

 

 太めの体型で、特徴的な言葉遣いが妙に印象に残る。

むふぅと満足げに着席する。まさしく決まった! といった顔だ。オレも同じようにやってみようか。いや、女子生徒の目がよろしくない。この路線はやめておいたほうが良いだろう。

 

「俺は龍園 翔。以上だ」

「好きなものは足を舐めてくれる子で、嫌いなものは圧制者でしょ?」

「はあ?」

 

 うわ、後ろの男子生徒が、髪を染めているロン毛であからさまな不良に楯突いてる。

大丈夫かよ。

イライラした表情で、席から立ち上がる男子生徒を睨みつける。

 

「ぼくは織時成太。語感が悪いからオリジナルってよばれるんだ。ぼくとしてもそっちがいいから、そうよんでくれると嬉しいぜ。

趣味は人間観察。すきなものは、わかりにくい人。だから、よろしくね龍園くん!」

「願い下げだ」

「えー、あーそーぼーよー」

「お前は小学生からやり直せ!」

 

 さて、イチャイチャパラダイスが繰り広げられて、今度は典型的な美人が立ち上がる。

 

「私は一之瀬帆波といいます。これから三年間、卒業まで一緒に楽しく過ごしていきたいと思ってます。そこでこのあと、皆さんと連絡先を交換したいと思います。よかったら、交換してね」

 

 スタイル抜群、容姿端麗とはこのことか。一部の男子と女子から、熱烈な視線を向けられているな。あ、にこっとした。これゼッタイ、オレの方を見ただろう。

イケメンは辛いなぁ。いやまて、こんなことで一喜一憂してたら間が持たない。深呼吸をしろ、ビークールだ。

 動揺せずなんてことないようにして、オレの番が来た時のシミュレートをする。

ハイテンションか人受けする言葉を使えば良いのか。

オレはそんなキャラでもないし、どうしたもんか難しいものだなあ。

 

 そう思案にふけっていると、俺インターハイに行ったみたいなツッコミどころ満載の自己紹介があった。

いきなりのことに呆然としてしまうが、その男子生徒は法螺を吹いて席に座る。

山内といったか。なんというやつだ。

 

 そうして、いろんな奴が挨拶をした後、オレにお鉢が回ってきた。

決めてやるぜ、あの坂柳も期待している目を向けてくる。

さあ、刮目してみるんだな、オレの輝かしき自己紹介を。

 

「じゃあ、次、君だね」

 

 ゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。

 

「オレは綾小路清隆といいます。得意なことは……特にありませんが、趣味はチェスや将棋などの盤面遊戯です。

同じ趣味を持っている坂柳さんとは、一度対局を願いたいですね。えーと、これから三年間、よろしくお願いします」

 

 よし、決まった!

 

「よろしくね、綾小路くん。一緒にこの三年間を協力して過ごしていこう」

 

 パチパチと多くの人に拍手してもらえた。同好の士でありそうな、坂柳からも拍手される。こうしてオレは、新天地となる高度育成高等学校1年Dクラスの生徒となった。




平日投稿はキツイっす。
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