入学から二日目。初日ということもあってか、授業はなく説明や教科書を配るということだった。
しかし、その授業の中身はシェフの更に隣りに座っている池曰く、中学校の時と変わっていないそうだ。
中身は、国語・生物/科学・数学・英語・日本史/世界史・家庭科・情報/パソコン・家庭科・体育・美術/音楽・技術となっている。
なお、選択制授業は二学期になってからで、一学期は皆同じ内容でやるらしい。
・国語
「では、皆さん。森鴎外の気持ちを答えてください。もちろん、深く考えて答えてくださいね。人を慮ることのない人は、社会に出てから足を引っ張るばかりで生産性を下げます。そんな無駄をなくすためにも、人の考えや心に寄り添いましょう」
・理科
「さあ、皆さん。輪になりましょう。そうして、手をつなぎましょう。そうです! 友情とは手をつなぐことからはじまります!
ではイクゾオオオオ」バチッ
「「「痛ったーーー!!?」」」
・英語
「とりあえず、単語を覚えてどうぞ。そして、恥を捨てて単語で喋るのです。HURRY HURYY HURRY UP。
そう、話すのです! 書くのは後で良いんです、さあ【天使にラブコール】を!!!」
・日本史
「実は邪馬台国というのは、近畿と九州の2つの発祥がありますが、昨今では九州説が濃厚になっています。
また、日本列島にもともと居た縄文人こそ、近畿に住んでいた人たちなんですよ~。
で、朝鮮半島や中国大陸からわたってきた渡来人やかれらと混ざった人たちが、
文字や文化・農耕を起こしていったんですね。あ、ここテストに出ないんで、大丈夫ですよ!」
・家庭科
「今日は課外授業で、栄養学を学びましょう。みなさんが食べているこの金柑ですが、皮にビタミンCが含まれています。
別名アスコルビン酸といいまして、抗酸化作用をもっている物質です。肉体は常に酸素を使って、エネルギーを酸化させています。
いわゆるガソリンを燃やすと二酸化炭素が出て、爆発といったエネルギーを取り出す行為と同じです。
そして酸化したエンジンや皮膚に、煤といった酸化物質を残さないようにするのが抗酸化作用を持つ物質。ですので、ヒアルロン酸やクエン酸が、皮膚にいいというのはそういうことなんですね!
また、ビタミンCは水溶性なので体内に貯めておくことは不可能です。
接種しなければ壊血病、メレル・バロウ病になり、組織の壊死や骨の変形が起こります。
しかもビタミンという物の効能を見える化したのは、日本人の高木兼寛さんが最初となるんですね!
このときに、パリ万博が開催され日本文化に触れたフランスに、
工業所有権の保護に関するパリ条約への参入を認めてもらえればこんなはずも────」
・情報/パソコン
「あ、明日からゲーム作るから。皆で頑張って一学期努力してね。期末に発表会開くから。ちなみに、RPGツクールで作るか、プログラミングでもいいよ。
じゃあ、今から皆でマリオカートワールドをやろっか」
・体育
「え、今日は何するかって? ドッヂボールに決まってるよなあ!?」
・美術
「さあ、皆さん。裸婦を描くのデッス! モデルは、そう──!! 元グラドル様が、全身の美学でお教えしましょう! さあ、描きなさい。最高傑作の私の肢体を───っ!!」
・音楽
「よーし、てめぇら。これから11月に行われる合唱コンクールに参加してもらうからな。
嫌なら楽器吹け、楽器。お、ヴァイオリンできるやつが複数人いるな?
お前らは、ストリングスとしてピアノ交響曲にしてやるから、第九にしろ」
「魔王したいっす」
「じゃあ、お前ティンパニしながら歌え」
・技術
「全員つなぎと安全靴と安全帽被ったな? 安全確認、ヨシ! ご安全に!
では、今日はお前たちに木工で図画工作をするか、ガラスを使って美術品を作るか、鉄を使って機械仕掛けのからくりを作ってもらう。
ちゃんと題材を決めて作るように! 簡単なやつはポイントが少ないからな、ちゃんとまじめにやれ。
あと、グループで作ってもいいぞ。ん、お前らは何つくるんだ?」
「レールガンを作りたいです!」
「コイルガンでいいぞ。一年待ってやる!」
授業初日で説明という比じゃない。がっつり今後に関わってくることで、寝る時間は与えられなかった。少しでも寝ようとしたら、きつい言葉が帰ってきた。
「お前たちは企業に就職して居眠りをするというのか? 眠たいというのは、自己管理ができていないということだ。 そういうやつは、この學校に必要ない。ここは高校だぞ」
義務教育というぬるま湯に浸っていたオレたちは、容赦なく社会という理不尽な一般常識を叩き込まれる。
なお、先生の容赦ない言葉や実験のおかげで、居眠りするような奴らはいなかった。
「あっという間だった……」
厳しい面もあったけれど、ちゃんと注意してくれる優しい先生たちだった。
これなら皆楽しくやっていけるだろう。かくいうオレも、初めての感覚に放心ぎみだ。
昼休みになってすでに出来上がっているグループが、昼食を求めて解散していく。
オレもコンビニでパンを買って、適当に屋上でも食べるかと席をたった。
「あの、綾小路くん」
廊下に出ようとすると、井上にお姫様だっこされた坂柳が話しかけてきた。
どういう状況なんだ。
「お昼、一緒に食べませんか?」
オレは坂柳が済まし顔のような照れ顔のような雰囲気を感じながら、井上の拒否したら許さないオーラで屈した。
早速校舎屋上へ向かい、どこか座れるばしょはないか。
探していると、聞き慣れた声が聞こえた。
「おーい、こっちだこっちー」
そこにいたのは、シェフ・安藤・井村・オリジナル・龍園・石崎・鬼頭だ。
どういう組み合わせなんだ……。
しかもブルーシートを敷いて、皆で弁当を食べている。
本当に、どういうことなんだ。
「シェフ?」
「はい、弁当」
「あ、ああ」
「ヤナちゃんと井上も」
「ありがとうございます」
「ありがと!」
なんでもシェフがオリジナルから徴収したポイントで、弁当を作っているらしい。
中身はバランスが良くいろんな色が入っている。しかも、それぞれ好物が入ってるらしく。不良と言われた龍園らも、素直にシェフに従っていた。
坂柳はオリジナルが作った特製の椅子に座っている。そういえば、技術の授業でアーク溶接をしていたな。
どこに溶接の要素があったんだろうか。
坂柳が座っている方を向くと、軽く微笑み返してくる。
「そうそう、これからの対策として、僕の部屋に集まってほしいんだ」
「どういうかぜの吹き回しだ?」
龍園がシェフに食って掛かる。石崎や鬼頭もなりゆきを見守っているようだ。
流石に和気あいあいとはいかない。しかし、ポイントの一部を使わなくて良いことになったため、そして奢らされたという認識のためか静かに聞いている。
「取り敢えず、僕の部屋に来る時、一ノ瀬……イッちゃんは井上が連れてきて。次に、井村は、坂柳……ヤナちゃんを迎えに行くこと。オリジナルは、龍園たちを護衛すること。安藤は見張ってて」
「わかった」
「いいよ」
「おっけー」
「了解!」
話がどんどん進んでいく。彼らは妙に真剣で、クラスの人気者である一ノ瀬もお呼びらしい。平田も人気者のはず。それなのにハブられている現状が、不思議にしか思えない。
一連の雰囲気だが、あれに似ているかもしれない。
フラッシュバックで、すこし気分が悪くなる。
そこへ、追撃が加えられる。
突然坂柳がオレの手を両手で包んできた。
「綾小路くん、私、貴方とチェスがしたいです」
「あ、ぁあ、オレは別に構わないけど」
「実はあの自己紹介の時、同じ趣味ときいて胸がドキドキしました。ですので──」
坂柳が何かを言おうとした時、嫌な予感を感じた。
おいやめろ。これ以上のキャラは、オレの脳内記憶を圧迫する……!!
屋上のドアが乱雑に解き放たれてしまう。
そうして、メガネをかけた男子生徒が、ドリフトしてオレたちの眼の前に現れた。
もしかしてだけど、へんなことを口走るなよっ。
そう懇願していたのだが、皆が驚愕で固まっているときこいつが、変なことを言い出してしまう。
「今、心臓が動悸動悸すると言ったな──!!」
「え、は──「それは心不全の予兆である!」──ぃ」
坂柳が呆然として応えようとしたのがいけなかった。
眼の前の男子生徒は、メガネをくいっとするとへんなポーズを取り始めた。
「ワタシが触診しよう! そして、すぐに病院へ連れて行こうではないか!」
そうして、聴診器をセットした眼の前の変人がダッシュし始めた時、3人の男子生徒が止めに入る。
「待て、冷静になれ、将軍!」
「そうでござるぞ! ただでさえ日陰者の拙者たちが、白い目で見られるで御座る!」
「そうだぞ将軍! 俺だって博士号を取ったんだけど、卒業したら失効したんだ。お前もそうなるぞ!」
「HA☆NA☆SE!!」
そうして将軍とあだ名をつけられた男子生徒は、彼女募集中と誇張話大好き男子に連れて行かれた。
恰幅が良い男子は、平謝りをする。
「まっこと申し訳ござらん! 彼は悪いやつじゃないんで御座る! それでは失礼仕る!」
地面に額をこすりつけて土下座を敢行して、すぐにアデューと階下へ消えていった。
いったいなんなんだ、お前たちは。
しばらくの間、話題があの男子生徒に集中する。
そして音楽が流れ始めると、校内放送が結構な音量で垂れ流される。
その内容は、部活動の説明会を行うというものだった。
既存の部活動をするのも構わないが、オリジナル曰く新規立ち上げには3人以上の部員が必要なんだと。
しかし部活動か。
オレ、部活動をやったことがないんだよな。
「なあ、皆は部活に興味ないのか?」
「俺はない。集まるだけ無駄だ」
「むしろ作ろうか?」
「えー、散策する暇がなくなるじゃん」
「よーし、部活作っちゃうよ!」
「私はパスしたいのだけれど」
「新しい部活は、『さんぽ部』にしようぜ!」
「めんどくせえ」
「部活内容は?」
「この校内をRTAする部活で、いろんなことを試してタイム短縮を図るんだ」
「俺は参加しないからな!」
「えー、龍園くんもやろーよー」
「くっつくな、鬱陶しい!」
皆が和気あいあいと新部活動の立ち上げについて、輪を作っている。
シェフも俺の肩を叩いて、一緒に部活動を立ち上げて活動しよう、と言ってくる。
しかも満面の笑みで、だ。しかし、なんだろうな、この含んだ笑いがすこし引っかかる。
オリジナルは龍園に抱きついて、石崎や鬼頭に剥がされているし本当に引っ掻き回している。
そして坂柳は、俺の腕を取ってくる。距離が近い。いい匂いがする。
「綾小路くんは、『さんぽ部』に入りますか?」
「あー」
「入ろうぜ、綾小路!」
坂柳が目をうるませて見てくる。何の意図があって見てきているんだ。
先ほど拒否したじゃないか。
「『さんぽ部』の活動内容に、チェスにおける戦略的歩様の攻略という感じで追加するからさ!」
安藤は妙なテンションで言ってくる。
平田とは違う爽やかさをもっている。なんだろうな、気苦労な影を持っている感じがあるな。
「有栖ちゃんかわいいから、一緒に『さんぽ』しようよ」
「綾小路くんが参加するならいいですよ」
「なんでオレなんだ。チェスなんて、帰ってからでもできるだろうに」
「へー、綾小路って、自分の盤面に持ち込むの上手だね。しかも、可愛い子ときた。
こりゃ、お持ち帰りですわよ、おくさん」
「誰が奥さんだ、誰が」
「ほらほら、乗ってあげなよ」
「はぁ、取り敢えず使う前に考えろよ」
「ヤリサーですか、龍園さん!?」
「お前が最初に言い出したんだろうが!!」
好き勝手いいやがるな、オリジナルと龍園。
しかもオリジナルは龍園に対して、はしごを外すのが早すぎるだろう。
坂柳はどうだ。
「闇のチェスゲームをしますか? 負けた方は、相手に好きなことができると」
「顔を赤らめるな、話がこんがらがる」
さすがにオレの風評に傷がつく。いかに坂柳が顔を赤らめてまで、そんなことを言い出したのか理解できない。少なくとも、自分の容姿に自信を持っていることがわかっただけ、収穫だろう。
「イケメンは辛いな、綾小路」
「なんで物知り顔で……嗚呼、そうだったな」
安藤が同情の眼差しを向けてくる。なんでだよ、と心のなかで突っ込んだ。
だが、安藤を取り巻く女性関係が複雑なのは、昨日今日でみたからわかった。
<我々リア充撲滅委員会は、不健全な男女の仲を是正すべく活動しています。
権謀術数が渦巻く生活の中で、お互いの心を傷つけ肉体を支配するやり方にはうんざりであります。そこで、われらの──な、何をするだー!?>
突然演説が響き渡ったかと思えば、なにやらゴタゴタしてピーという音を鳴らし放送が途切れてしまう。
大変だなぁ。僻みじゃなくて、中々今の現代のあり方を否定していて面白い。
「そろそろチャイムがなりそうだし、解散しよっか」
「片付け片付け」
「この椅子はどうしますか?」
「あ、ぼくが預かるよ。取り敢えず、綾小路が坂柳さんをエスコートしてあげて」
「オリジナルから聞かない言葉を聞いたな、明日は雨か?」
「仲間には優しくするよ?」
言外に仲間以外は蹴散らすって聞こえたんだが。
パーソナルスペースをガン無視しているオリジナルだが、案外嫉妬深いのかもしれない。
「後はメンバーズの登録だな!」
「もちろん、石崎と鬼頭も入れよ」
「俺等も入って良いのか!?」
「入っておいて損はないよ?」
「なら入るか」
そういえば友達作りは、成功したんだろうか。苦労したことはあった。
しかし、きっかけはシェフから話しかけられたことだ。
今はこうしてクラスのグループに所属している。
あいつのおかげで、俺は……信頼できる仲間を手に入れられた。