「よし、ついに来たなこのときが!」
「ああ、やっとだ。俺たちの念願がついに叶うんだ!」
「うむ! ワタシも皆さんの大切に育てられてきた肉体を見ることができる!」
「そうでござる! 肉体とは神秘がやどるで候!」
昼休みが終わる前、教室に興奮気味に入ってくる4バカたち。
なぜ4バカとよばれているのかというと、常に下心満載で女子生徒に現を抜かしているからだ。
しかも池と山内に至っては、授業中に寝たり遅刻したりと社会的規範に反することばかりしている。
別に二人が特別というわけではない。確かに他の名前も知らない取るに足らない生徒たちも、携帯電話を触ったりゲームをしていたりする。
だが、こいつら……水戸と外村はともかく、池と山内が酷い。
しかし下手をしなくとも外村や水戸は、セクハラや空気を読めない行動をするため、
一部の生徒から忌み嫌われている。
「楽しみで仕方がない! しかも、一ノ瀬ちゃんのあのぼんっきゅっぼんっ!を見れるなんて、眼福すぎる!」
「ああ、この學校は最高だよな! 男女平等バンザイ!」
山内が興奮気味に話している。なんでも、中学校では男女別でスクール水着も、全身をくまなく覆い二の腕や太ももを隠すものだったそうだ。
しかし、ここは国公立。男女差別はダメということだろう。男女間の身体差もあるだろうが、それで授業を行えるのだろうか。
「そういうわけだ。頼むぜ、兵頭」
「ぼくちゃんに任せてよ」
何が任せたのかと言うと、見学し肢体をカメラに収めるのだという。
「なあ、綾小路」
「なんだ?」
突然池の口から、俺の名前が飛び出る。一応グループもそうだが、あまり関わり合いがない。といっても、山内と違って交友関係は広いからな。
ただ、4バカのうち最も交友関係が広いのが、水戸という公然セクハラ男だ。
こいつだけ次元が違う。
「実は俺達、女子の胸の大きさで賭け事をやるんだ」
兵頭がタブレットを持ってきて、エクセル365を開く。
そこにはクラス内の女子全員のアンダーバストとトップバストが、ミリ単位で精密に書かれていた。語るに落ちているんだが、本当にこれで成立しているのか?
「ばっか、これは水戸が目測しただけで、服によってツンか垂れてるかで変わるんだよ」
「胸の計測方法は、ブラジャーをしている状態で御座るからなあ。
スク水にもカップはあるでござろうが、それでも分厚いベールがなくなるで候」
「状況によって変わるはずだよー。あ、オッズ表もあるから、やってくかい?」
しかもわりとよくできている。条件式までつけており、ちゃっかりしているな。
1口3000円。しかし、一ノ瀬と井上がトップクラスとは。
逆に井村と坂柳は……。当たる気がしないな。
「なあ水戸」
「おんや、ワタシに何かようかな?」
「バストサイズは、どうやって測ったんだ」
「乳頭から逆算」
「ああ、そう」
もはや何もいうまい。多分いい意味でも悪い意味でも、同年代で水戸以上にいろんなやつの肉体を見ている奴はいないだろう。そいつがそういうんだ。なら、一ノ瀬だな。
「締め切るでござるよ!」
オレは安藤たちに、参加しないのか聞こうとしたらすでに教室にいなかった。
見捨てられたか! すぐに着替えを持って更衣室に向かうが、すでに鍵が外されている。
まさか、あれからすぐに着替え終わるとは。
あいつら、本当に性欲はあるのだろうか。同じ男として、すこし心配になってきたな。
「よ、おそかったじゃないか!」
「お前等が早すぎるんだ、シェフ・オリジナル」
シェフ、オリジナル、安藤、龍園、石崎、鬼頭、平田。
揃いも揃って肉体が締まっている。昨今は肉体派の学生は、少なくなりつつあると聞いた。しかし、真実は語った。だがしかし、何故安藤は學校指定のブーメランパンツなんだろうか。
安藤は妙に恥ずかしがっている。
つまり忘れたか、井上井村のどちらかにおねだりされたか、だ。
羨ましくない、哀れみを感じる。
「龍園」
「どうした、綾小路」
「池たちの女子バスト当てゲームをしないか?」
「安藤に半殺しにされたきゃやればいい」
「あー」
「俺はしないからね!?」
オレと龍園のジト目が、安藤に降り注がれる。それに気づいた安藤は、顔の前で手を振り拒絶を見せた。
だがほぼ安藤のものであると公言されている、井上と井村の二人をやましい目でみられるのは彼氏(?)的にどうなんだ。
「別に皆が思ってるほど、弱くないさ」
正々堂々といちゃついている奴は、言うことが違うな。
そのメンタルは見習いたい。さて、ぞろぞろと集まり、チャイムが鳴る。
筋肉質の先生がやってくる。この先生……塩塚先生は、最初にドッヂボールで無双していた。
後は身体測定か。
そのときも実力を隠したかった奴らや気軽にやってた奴らが多かったためか、
サンプルテストで計測した先生に勝つことができなかった。
握力122Kgとか、普通は無理だろう。
「ぐあああ、巨乳が、巨乳がああああ」
池が叫んでいる。お前がこの状況で崩れ落ちるとは思わなかった。
少なくとも、一ノ瀬と井上が参加しているじゃないか。
坂柳も、体操服すがたでバインダーと電子ホイッスルを持ってきている。
よかった、事前に伝えたとおりに動いたんだな。
これでシェフの目論見通りになるだろう。
「む、胸んで御座る」
「ふむ、いい肢体だ! 全員ある程度絞れているようだ! やはり、ワタシの目に狂いはなかった!だがしかし! 外村、篠原、森下。ちょっと後でお話しようじゃないか!」
「「「ひえっ」」」
外村は見た目からわかるが、あの女子二人もダメなのか。人は見かけによらないな。
しかし、予想よりも参加している女子が多いな。それでも、胸が大きい順にいえば、
井上以下三名の見学だ。合計で、女子は6名の欠席。
一ノ瀬が説得してもダメだったか。
あの時の、部活動結成時シェフの部屋で話したことは、すこし残念な結果になってしまったな。
それでも、坂柳の参加は評価を維持できるだろう。
「よし、集まったな。まずは準備運動を行う。そして消毒槽に入り、泳ぐ練習をするぞ。
坂柳、ゆっくりでいい、ビート板がある倉庫を開けてきてくれ」
「わかりました」
坂柳が杖をついてゆっくりと歩いていく。
そして俺達は準備運動を行い、消毒槽に入り坂柳が開けた倉庫から先生がビート板やら水中ゴーグルを持ってくる。
「泳げない生徒はいるかあ? いるなら、先生といっしょに泳ごう。 他の皆は、50Mを泳げるよう軽く運動をしておくように。
ただし、無理だと思ったら男子組は助けてやってくれ。坂柳は、ストップウォッチを持って50Mを泳げる生徒の計測をしてほしい。 では、解散!」
「「「はい!」」」
解散して行動を始める。
殆どの生徒が50Mを泳ぐために軽い運動や水温を確かめて、体を慣らせるためゆっくりと泳いでいく。
「うーん、やっぱりみんな凄いよね、細マッチョって感じ」
「そうだな」
一ノ瀬がオレに近寄ってきて話しかけてくる。
ふぅ、今日も爽やかな真っ昼間だ。生理現象が起きそうで辛い。
なにせ一ノ瀬は、学年一の美人だ。最高の肉体美が、俺達男の性を屹立させる。
「平田くん凄ーい!」
「かっこいいね!」
「その腕で抱きしめて!」
「ははは……」
平田はいつもの人気者だ。そして、安藤はというと、井上井村に腕を取られて胸というか、体を押し当てられていた。常に変化する胸の凹凸は、本能を刺激する。
見ちゃだめだ見ちゃだめだ見ちゃだめだ。よし、精神統一完了だ!
「うおおおおお!!」
「ぬおおおおおお!!」
「がぼがぼごぼがぼ」
「……」
「負けねえ!!」
シェフ、龍園、オリジナル、鬼頭、石崎。こいつら、本当に仲いいな。
つか、オリジナル。お前、溺れかけてないか?
「皆さん、早いですね。ほぼ横並びです。シェフくんが一番早いのは意外ですね。
ところで、綾小路くんは、泳がないのでしょうか?」
「おーい、コージ。愛しの彼女が期待してるぞー」
「なに!? 綾小路っ、おま、お前、俺達を裏切ったのか!?」
「色男だね!」
こいつら好き勝手言いやがる。なにげに一ノ瀬も便乗しているのが、更にたちの悪さを助長している。
いいぞ、そこまで言うなら本気出す。
「坂柳、そしてお前等。刮目してみてろよ」
「お、本気出すのか!」
「有栖ちゃん、水かけてあげよっか?」
「下半身だけお願いします」
井上のその気遣いはなんなんだ。というか、このクラスのやつら、オレの思考の埒外をかっ飛んでいくから
予想がつかない。オレらしくもない。感情が高ぶる。
「ふっ」
オレはクロールではなく、バタフライでどんどんと泳いでやった。
古式泳法に近いクロールでもよかったが、実力が出やすい方にしてやった。
「ちょっとトイレに、イってもいいですか?」
「有栖ちゃんって、意外と乙女だよね」
「お前等一度プールに入って、頭を冷やしたらどうだ?」
ぜったいに昼間の熱射で、頭が茹で上がっているんだろう。
しかも坂柳だけでなく、オレの泳ぎに驚いたのか龍園たちが驚きを隠すようにふかしている。
オリジナルは溺れたからか、安藤の正拳突きで水を吐き出した。
水戸は女子の森下をマッサージして、池や山内に羨ましがられている。
シェフはビート板を装着しサーフィンをしているが、水中から鬼頭が強襲し打ち上げられている。
井村は白波と一ノ瀬を抱えて、空中で二回転して飛び込む。
カオス────!!
そうして、計測しきれた頃を見計らって先生は、自由時間を取る。
そのとき、水戸が上機嫌かつにこやかに坂柳へ提案をした。
「彼氏同伴で構わない。キミの四肢を調べさせてもらいたい。いかがかな?」
丁寧な口調だと、ここまで紳士風に見えるのが不思議なんだよな。
いつものハイテンションが身を潜めている。
それと彼氏ではない。
「ええ、構いませんよ。なにをするのですか?」
こうして水戸は、プールサイドに座った坂柳を丁重に扱う。
足を触って、縮め伸ばしたり、腕を触っては険しい顔をする。
「筋ジストロフィーを疑ったが、これは後遺症か?」
坂柳は動揺してみせる。すこし瞳が揺らいだ。
後遺症。合併症ではなく、手術後ということだろうか。
「ちょっと心臓を触らせてほしい」
「どうぞ」
触診の精度が高すぎる。本当に水戸は、医療資格を持たないだけでほぼ医者レベルだ。
こんな逸材が、いつも奇行を繰り返しているのは、なんかのバグだろう。
「……治療はできているようだが、心室の音が悪い。これだと、肺に血液があまり回らず、
筋肉が必要する酸素や栄養が届かない。このままだと、筋力が低下したり骨格の変形・骨粗鬆になるだろう」
「水戸さん、どうにかできないのでしょうか……」
「あるにはある。だが、キミのご両親に許可をもらわなければならない」
両親か。オレには無縁の存在だな。いや、むしろその枷をなくしてほしい。
オレは自由を得たい。この手でこの人生を……。
「キミも聞いたことがあるだろう。
関西先進医療都市【翠環(すいかん)メディカルアーク】」
スイカンメディカルアーク? 聞いたことがない単語だ。いや、どこかで聞いた気がする。いつだったか。いや、きっと聞き間違えか、空耳、一種の記憶結合だろう。
ランダムの記憶が、曖昧な思い出と結びつくことで、聞いてことがあると勘違いする。
「そこは……お父様が、あまり関わってはいけないと」
「大丈夫だ。夏にならあいつが帰ってくる。夏休み、行かないか」
「綾小路くん、ついてきてくれますか?」
「なんでオレに聞くんだ。少なくとも、今の不自由でハンデがある生活をなくせるなら、
治療しに行ってもいいんじゃないか」
オレの言葉を聞いて、坂柳はとても不安そうな表情をする。
そんなにか。ついぞ耳に入れたことはなかった病院だ。一度調べ直す必要があるみたいだ。
「そうですね。夏休み、外出許可をいただいてお父様といっしょに、翠環メディカルアークへ赴いてみようと思います」
「そうか。決心してくれてありがとう。なにせ、キミの命にかかわることだから。
特に彼氏と籍を入れたいなら、なおさらのことだ」
オレを見るな。あと彼氏ではない。ただ、懐かれているだけだ。
坂柳と水戸、二人と話していると予鈴がなり授業が終わる。
意外と早かったな。