ようこそ個人主義上等の教室へ   作:名無しの権左衛門

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7:ポイントの偉大さを見たり

 入学してから3週間が経過した。今、オレはシェフと共に、監視カメラの死角になっている場所で、上級生を相手にとある事をしている。

最初はオレもやめておいたほうがいいぞ、と冷や汗を流したもんだ。

 しかしシェフが必要経費と、悪魔も真っ青な笑顔で返してきたからどうしようもない。

さらに言えば、このばしょに一ノ瀬もやってきているということだ。

 普通はありえないだろう。こんな闇が深い場所に、光属性の聖女様を連れてくるのは

全男子生徒を敵に回す行いだ。

 

「ハイ、ツボォ!」

「く、どっちだ!?」

「ドッチモ、ドッチモ!」

「せっかくだから、俺は赤を選ぶぜ!」

「丁方ないか、半方ないか!?」

「3000だ、3000!」

「俺は2000かける!」

 

 いわゆる、丁半博打をやっている。

そして、一ノ瀬は男子生徒の隣に行き、胸元を寄せて言う。

 

「えぇ? 少なくないですかぁ? もっと男らしいとこ、見せてほしいなあ」

 

 掛け金を上げるほど、一ノ瀬が身を削っている。

いや、シェフが分前をくれてやるという契約で、一ノ瀬を誘ったのだ。

お互いにWIN-WINであるなら、オレから言うことはなにもない。

おかしいな。こんなにノリノリだったか?

 二週間前の一ノ瀬は、こんなことしちゃダメ!と正面切って拒否・拒絶しただろうに。

やはり、ポイント1万の譲渡は目がくらんだようだ。

結果、資本主義は悪だということが、オレの中の総論である。

 

「コマが揃ったあ! 勝負、勝負!」

「「「来い、来い!!」」」

 

 そして勝った一人と負けた二人、そしてすかさずシェフが後ろでみていた生徒も含めて

囁く。

 

「次は3つのカップで、一つは1.5倍。1つは元返し、1つは0。連勝ボーナスで、0.1倍上がってくけど。やるかい?」

「や、やるぜ!」

「次こそは!」

「面白くなってきたあ!」

 

 なんだろうな、この……虚しさというもの。

裏を知っていると哀れとしか思えない集団にしか見えない。

人とはこうも愚かになれるのだろう。

 

「んしょ……センパイ、今月のお金をもっと増やそ?」

「い、いや、でも」

 

 一ノ瀬。挑発係だからといって、ただでさえ短いスカートをひらひらするのは止めてくれ。この日陰者たちにとって効果は覿面だろうが、やりすぎて本人も顔を真っ赤にしている。恥ずかしいなら、止めておけばよかったのにな。

 足を組み替えるだけでガン見しているこいつらは、シェフのシャッフルに気づいていない。

 さて、そろそろか。オレは部活の部費とpt(プライベートポイント)の折半で購入されたタブレットに備え付けられたアプリを起動し、文字列を打ち込む。

 

【チャンス到来!! 2.5倍キャンペーン!!!】

 

 昨日シェフの部屋に集められたオレと一ノ瀬に、シェフが急遽発表した事柄。

その中にこれが含まれる。Unityのアセットを組み合わせて作られたこれらは、

激しい光と音楽による演出で射幸心を煽る。

 

「さあさあさあ!! 左か、右か、中央か!!!」

 

 シェフは白い手袋をしていて、丁寧にカップを徐々に持ち上げる様は一ノ瀬の服のようで中々そそるものがあるのだろう。

実際、シェフが何かをするときや一ノ瀬が何かを仕込む時、目線をどこに移させるかを重視しているようだ。

 

「はい。じゃあ、今日はここまで! 撤退するよ」

 

 2.5倍キャンペーン、か。最初は元返しなどで、ツキの良さとして自信をつけさせて最後は持って行く。

項垂れる生徒と実質1.2倍勝った生徒。ただ、全体で言えばオレたちが、10倍程勝っている。7回程持ち金を乱高下させた弊害だろう。いっとき12万のポイントを持っていた生徒は、見事に3万まで減っていた。元の所持ポイントは7万だったはずだ。

 オレたちは一ノ瀬を間に挟みつつ、かけ道具をカバンにいれて帰路へつく。

そのままシェフの部屋へ上がり、無言のままシェフが手袋を外した。

 

 その手袋から落ちてくるのは、超強力磁石。昼休みにオリジナルと外村が協力して、

電磁石を作り上げた。それがここに入っている。

 

「ほら、約束のポイントだよ」

 

 一ノ瀬に1万、オレにも1万。シェフは……いや、よそう。

あまりにも勝ちすぎているとだけ、ここに記す。

 さて、あまりの勝ちっぷりにしばらく博打は無理とわかりながら、

今回のタネと仕掛けを教えよう。

 

 簡単なことだ。

 

 元返し以外は磁石でくっつくボールが入っている。これにより、手袋の中にある磁石でカップ越しに、勝ち負けを調整できる算段となる。

おかげでオレたちの利益を、最大限に引き上げることができた。

 

「じゃ、僕はこれから買い物にいくから。二人はどうするの? 一緒に行く?」

「行く行く! ねえ、明日はハンバーグ作ってよ」

「いいよ、でも豆腐ハンバーグも乙なものだと思うんだ」

「豆腐! うん、いいね。それを作って欲しいな」

「おっけーリクエストね」

 

 一ノ瀬が、シェフの腕に抱きついておねだりをする。

先程の博打のアレでテンションが上がっているのか、それとも偉大なるポイントのおかげか。

 かくいうオレも、何かおねだりをしたほうがいいのだろうか。

流石にまだ知り合って3週間で、しかも男にそう言われるのは気持ち悪がられるだろう。

 そう思い同行を取りやめようとした。

しかし、シェフがオレの肩を組んで、一緒にいこうぜと言ってくれる。

 

「コージも、何か食べたいものがあったら教えてよ。からあげとか好きかな?」

 

 からあげか。昨日も鳥ささみのチーズフライを食べさせてもらった。

アレ以外にも驚天動地の代物を作ってもらえるのだろか。

 

「セロリのハムマヨ炒め」

「おっけー」

「すまん、間違えた」

「いやいやいや、いいよいいよ。セロリ、おいしいもんね。ちゃんと筋もとって、

とってもおいしいセロリ料理を食べさせてあげよう!」

「待ってくれ、いや、ほんと。っそうだ、肉、えーとコロッケがいい」

「お、通だね。やっぱ、肉コロッケかー」

 

 コロッケ。昔から作られているおやつ感覚の食べ物。手軽でほくほくあつあつ、

冬なんかにゃ体を温めてくれる奴。やけどして皮が剥がれることもあるらしい。

 

 行きしなにコロッケ談話を、一ノ瀬やシェフと交わしつつスーパーへやってきた。

 

「コロッケには、これを使うのか?」

「インカの目覚めは罠だからやめときな」

「綾小路くん、コロッケはまず蒸してから潰すんだよ? だから、こっちの男爵が必要ってわけ」

「こっちのメークインはどうなんだ」

「こっちは煮崩れしにくいから、肉じゃがとかそういう惣菜に使うんだよ」

「そうなのか」

 

 じゃがいもの種類はある程度勉強してきたが、流石に1年間ほど全力で勉強していないと

情報が変わってしまうんだな。

初めて見る高級路線のじゃがいもを見て、そうひとりごちた。

 カゴをカートに乗せて、生鮮食品をにこやかに入れていくシェフと一ノ瀬。

オレも必要そうな朝食類を、籠の中へ入れていく。

 

 シェフや一ノ瀬がレジへ歩いていくのを、後ろからついていく。

薬のエリアを通過していくが、違和感を感じた。

いや、別に薬品がどうのというわけじゃない。

 棚の一角。小柴胡湯と書かれた札がある場所。そこだけ、商品が枯渇しているのだ。

小柴胡湯は、漢方でありながら風邪薬。ほかのクラスで、病気が蔓延しているのだろうか。

オレたちも気をつけないとな。

 

 

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