「次に私から。次の中間テスト、総合得点で最下位の人は、強制退学になります。
救済は5000万プライベートポイントです」
手厳しいな。と言いつつも、残り156人。かすり傷か?
「坂柳、それは平均以下の赤点じゃないのか」
「ええ、龍園くんのおっしゃる通り、何かの聞き間違いと思いちゃんと伺いました。しかし、お聞きの通りです」
「ハッ、面白ぇ」
「つまり、勉強すればいいってことか」
「石﨑。オリジナルが勉強を教えてくれるってよ」
「うん! だから、龍園くんも鬼頭くんも、一緒に勉強しようね!」
「残念だったな、俺は頭がいいんだよ」
「家庭科でお裁縫もできないのに?」
「それは関係ないだろうがっ」
人差し指に巻かれた絆創膏。龍園が家庭科の裁縫で、ボタンを着ける作業の時指を刺した。布地を貫通したためか、結構グッサリやっているようで痛そうだ。実際に血が滲んでいる。
「なあ坂柳、もしこのまま行けば退学になるのは池か?」
「はい。全てが平凡な彼は、このままなにもしないと退学になります」
「じゃあ、男子から一人退学者を出そうよ」
「「!?」」
オレが坂柳にそう聞くと、予想通りの答えが帰ってきた。
それにオリジナルが、男子から出そうと提案する。
何故そんな判断なのか。
「女子には使えそうなのが何人かいるけど、男にはクラスに馴染めず孤立しているのが二人いる。 そこで、女子は坂柳と一ノ瀬がまとめ上げてくれない?」
「おいおい……オリジナル。お前、発言に気をつけろよ?」
「あ、ごめんごめん。いや、だってさぁ、無駄な労力使いたくないでしょ?」
震えた。こいつの発言で、一瞬にしてオリジナルが敵になった。
学校側の制度だから仕方ない。だが、感情面が追いついていないのに、
オリジナルの使えるかの言葉が炸裂。
安藤は、オリジナルの感情が乗っていない声に反論する。
だが実際問題どうしようもないのに、男子を出さないとなれば次に出されるのは女子だ。
「足を引っ張る奴は敵だよ? 無能な味方ほど、ぼくらを危険にさらす。
切り捨ては要領よく行わないと」
「それ、お前にも当てはまるんだぜ?」
「別にいいよ? じゃあ、次のテストで、皆100点とってね?」
「お、おま、ほざいてんじゃ──」
「じゃあ、5000万ポイントも貯められる?」
安藤は立席してオリジナルの胸ぐらを掴み、壁へ勢いよく押し付けた。
睨みを効かせるが、オリジナルは無表情で安藤を見る。
一ノ瀬は勝手に進む状況に混乱して、完全に萎縮してしまったようだ。
さて、場は最悪だが、オレは考えることにした。
どのようにして、生徒に退学者を出さないか。
「ふーん、じゃあ。ぼくが退学しようか」
「お、それがいいな」
「まあ、それが妥当だね」
「ちょ、龍園・シェフ!?」
「だって、安藤は誰も退学者を出させたくないんでしょ?
じゃあ、今ここで最大の排除論者は誰?」
「はあ!? 誰って」
「ほら、言ってごらんよ」
「オ……リジナル……」
やるな、オリジナル。ヘイトを自身に向けさせる、いわゆるヘイト管理・コントロールをやってのけた。
だが操りたいなら、自分が矢面に立ってはいけない。
オレはまだこの自由を楽しみたいから、手を挙げるわけにはいかない。
すると、坂柳が静かに手を挙げる。
「少々よろしいでしょうか、安藤くん」
「ああ」
「トロッコ問題というのは、ご存知でしょうか」
「たしか、一人か多数かってやつだよな?」
「そのとおりです。今回は、一人のために多数をとるか、多数のために一人をとるかという議題です。私の意見ですが、オリジナルくんは使えます。今後のクラスへの貢献具合と比べても、孤立してアクションを起こさない誰かより、誰かのために犠牲になる精神を持つオリジナルくんを持っていたほうが、今後の展開において使える時が来るかもしれませんよ?」
従順なコマは持っておくに限る。だが、そのコマの実力は推し量れないものとする。
不良筆頭の龍園が、オリジナルと友人として付き合っているのがその証明だ。
特に武力を抑え込むという意味では、今オリジナルを失うことは首輪がなくなるということ。使えるときに使える猛獣や番犬が使えないでは、今後の状況次第で不利になりかねない。
俺は坂柳に賛成を表明する。
「傍観を決め込んでいる綾小路くんはどうですか?」
「……オレも、オリジナルは退学しないほうが良いと思う。
なにより龍園を抑え込めるのは、オリジナルしかいない」
「ん? 俺は別にいいぜ。ほら、退学しろよ」
「龍園さんはツンデレですから、こうやって言ってますけど。
すっげぇ辛いとおもうんですよ」
「おい、石﨑!」
「いやいや、ここはちゃんと意見を言いませんと!」
「今後、俺達はオリジナルを欠くと困るぞ」
寡黙な鬼頭でさえこういう。意見は2つに割れている。圧倒的反対が多数を占める。
だが、本当に冷静になって考えてほしいものだ。
安藤はオリジナルを持ち上げたまま、席に置いてなんとも言えない表情をして部室を去る。
「あ、えと、けいくんが気になるから」
「あたしも!」
救いは井上・井村が、精神的な面で安藤を支えているということだろう。
彼女らの行いで安藤も冷静になってもらえると助かる。
「坂柳」
「なんでしょうか、綾小路くん」
「お前がオリジナルをかばうなんて、珍しいな」
「そうでしょうか? 有象無象より、恩を優先しますね」
坂柳は杖を縦置きできるように再設計された椅子に座っている。
これはオリジナルと水戸が、技術の時間帯に作り上げた傑作の一つ。
木製で角もちゃんと削り、コーティングされている。ささくれはない。
「じゃあ、皆。このことは内密に。それと掌握をお願いね」
そうシェフが言って解散になる。さて、オレは思い詰めた表情をしている一ノ瀬を追いかけて、影を踏む頃には追いつく。
「どうしたんだ、一ノ瀬」
ずっと胸をおさえて辛そうにしていたのを確認している。
どんな集団でも意見の分裂はある。
いちいち心を傷つけるなら、お前には向いていない。
「ふぅ、綾小路くん。これって、皆に教えたほうが良いよね」
「そうだな。遅かれ早かれ緋山先生から、情報伝達があるはずだ」
「うん。皆で頑張ってクラスポイントを上げるために、勉強してもらおうよ。
そうすれば……ううん、退学について言わないようにしたほうがいいかな?」
一ノ瀬は今回の話を共有しようか迷っている。
退学の部分か。言うと一ノ瀬に非難がいく。
言わないと、先生が坂柳と井上から聞いていないのかと確認が入る可能性がある。
いや、上司に見捨てられていると考えれば、ないかもしれない。
それでも課長か部長に言っているのに、部下へ連絡事項の伝達をしていないのか、と見られるかも。
まずいな。学級崩壊が目に見えてきた。
「そうだな。可能性だけを伝えておく。言えば一ノ瀬が一旦非難されるだろうが、先生からの言葉で真実となり、一ノ瀬への信頼が上がる。逆に言わなければ、坂柳と井上から聞かされてませんか?と逆質問される。そうなると、坂柳と井上たちとつるんでいる俺達が、情報独占ではぶられる。
この場合、実害として学級崩壊につながると考えられる。一ノ瀬は、どう思うんだ」
「やっぱりそうなるよね。わかった、私から伝えておくよ。あ、でも、バックアップはお願いね」
「わかった。共有しておく」
「もう、私は綾小路くんに頼んでるんだけどな」
これは流石に、オレだけで動くわけにはいかないだろう。
思い立ったが吉日ということで、夕飯のときにシェフの部屋へ転がり込んだ。
突然の訪問というわけではない。事前に通達して来ている。
アポイントメントは、社会人の常識だ。
さて、シェフが調理しながら話を聞いてくれるため、オレは一ノ瀬の考えを伝える。
するとシェフは当然の懸念だね、と予測していたような口調で話す。
「じゃ、僕は平田くんに工作するから、コージくんはミトくんに話を通しておいて」
つまるところ、一ノ瀬が皆に話して不快感をあらわにしている時、一部の女子のリーダーである平田・4バカの抑え役(?)かつセルフ人間ドッグの水戸に、先生へ質問するよう仕向けるのか。
これなら様々な派閥の溜飲を、少しくらい下げてくれるだろう。
さて、明日は月曜日。
水戸が登校する前に話をするタイミングが見つかればいいな。
「おまたせ、シェフくん・綾小路くん!」
「欲しいものは買えた?」
「もちろん!」
「じゃ、帰ろっか、コージくん」
「ああ」
さて、ちょうど一ノ瀬が買い物を終えたようだ。
オレたちは、衝撃的だった一連の事実を、クラスメイトたちに暴露しなくてはならない。その先鋒を担うのは一ノ瀬。
頼んだぞ。
Over All Ability
織時 成太
ORITOKI SEITA
誕生日:----(第一種管理権限により閲覧不可)
学力: C+
身体能力: B+
起点思考力: C+
社会貢献性: C+
総合力: C+
・担任のコメント:
一風変わった子ですが、事前情報で不良とされた人が全員
彼と友だちになりうまく付き合っています。
OAAでは推し量れない実力があるようです。
実際に体の動かし方が経験者なのに、
それほどいい成績がでなかったときもあります。
今後も注目すべきでしょう。
・技術科の先生
やはり能力値に技術項目を入れるべきだ!
いかにこの學校が、日本の中枢を担う管理職を育成する目的が
あるとはいえ、現場を知り技術を識っている者がいれば、
一匹狼気質の技術者をまとめ上げられる。
なぜ、上は理解してくれないのか!
・副担任のコメント
技術・家庭科・音楽・美術等、これらは本来我が校に不要なもの。
しかし、中間・期末考査で最下位になった者を退学にさせるという条件で、
生徒4人ぶんの人件費を削減し維持費を賄ってきました。
これ以上の人件費の投入を、上は考えていません。
よって、この提案を棄却します。