陰キャ幼馴染バトルヒロインにご飯作ってあげるやつ   作:ナメクジ次郎

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豚汁とおにぎり

 じゅう、と鍋に入れた豚肉の焼ける音がする。

 熱されたごま油の香りに肉が焼ける匂いが混じって、部屋全体にいい香りが広がった。

 

「……そろそろ落ち着いたか?」

 

 豚肉の色が変わったところで切っておいたジャガイモ、ごぼう、にんじん、大根を鍋に入れながら、後ろでソファに座ってぐったりしている少女に声をかけた。

 

「う……うん。ご、ごめんね、またシンタローに迷惑かけちゃって……」

 

 少し言葉を詰まらせつつ、おどおどしながらそうもマスク越しのくぐもった声でそう返したのは彼女の名前は藤宮侑芽。

 俺の幼馴染で……人類の希望だった。

 

 

 数十年前、突如として東京に発生した「(ゲート)」と呼ばれる異空間。

 そこから送り込まれてくる異形の軍勢に対してこの日本という国は、隔壁を立て首都を捨てることを余儀なくされた。

 しかし人類はやられっぱなしでは居られなかった。

 科学、武術、兵器のような近代的なものから、魔術、陰陽術、忍術、修験道、法力などのオカルト分野まで。侵略者と戦う為に戦闘に使えるあらゆる分野を体系化し、未来の戦士たちにそれを教える。そんな組織が生まれるのは必然だった。

 

 ソファの上で手持ち無沙汰になっている状況にそろそろ耐えきれなくなって出来もしないのに手伝いをした方がいいかもと一人でおろおろし始めた彼女もその一人だった。

 侵略者に対する対抗手段を学び、能力を鍛え、人々を助ける手段を教えるこの学園の戦闘力序列第五位、それが彼女の立場だった。

 

「今日は何があったんだ?」

 

 全体に油が回ったところで鍋にだし汁を入れて、煮込む為に蓋をする。

 煮込み時間は約十分間、その間に次の料理の準備を開始。

 

「き、今日はね……雑誌の取材があって……頑張って喋ったけど……疲れちゃった」

 

 取材。

 その言葉を聞いた瞬間、炊飯ジャーに向かっていた俺の手が止まる。

 なんて恐ろしい事を……! 

 確かにこいつは見た目はいい。

 短めのツインテールにまとめてある黒髪はあんまりケアしてないのに綺麗だし、大きめの黒マスクで半分近く隠された顔はややタレ目気味の目と合わさって可愛く見える。普段はおろおろして挙動不審だがいざ戦闘になると集中してキリッとした顔になるギャップが良い。

 スタイルも……幼馴染としてこういうことを言うのはアレだが結構いい。身長はクラスの女子の中では高い方だし制服もよく似合ってる。

 だが……だがこいつは、侑芽は極度のあがり症。そしてあんまりにもテンパり過ぎると言動がおかしくなるタイプ……! 

 一体何を発言してしまったかが気になってしょうがない! 

 

「ど、どうしたの……?」

「ああいや、何もない。何もねえよ?」

 

 そう言ってごまかすようにしゃもじで炊飯ジャーからご飯を手に取る。

 熱い、めちゃくちゃ熱い……が、これももう慣れたものだった。

 

「ところで具、何にする? 今日はお前が好きなの全部あるけど」

 

 おかか、昆布、ツナマヨ、あと通販で買ったちょっとお高めの辛子明太子。

 今日は珍しくどの具材も用意する事ができていた。グッジョブ仕込みしてた時の俺。

 

「あの……ぜ、全部……はダメかな……」

「全部ってお前、一個ずつでも結構な量になるだろ」

「いっぱい喋ったから……お腹……空いちゃって……」

 

 そういえばさっき頑張って喋ったって言ってたもんな……。

 頑張ったのなら……そうだな、頑張った幼馴染には、報いなきゃいけないよな。

 

「わかった……じゃあ頑張ったご褒美な、今日だけ特別」

「や……やった! ありがと……シンタロー……優しいから好き……」

 

 もう何回言ったかわからない今日だけ特別という甘やかしワードに、侑芽は素直に喜んでくれる。

 後の方に聞こえた勘違いしてしまいそうな言葉は聞かなかった事にして、ご飯が冷める前に手早くおにぎりを作る。

 中身をたっぷりめに入れるので塩はせずに、中心に具を入れて優しく三角に握ってやる。

 形が整ったら海苔を巻いて皿に盛り付けて。それから手際よく他の具材のものも作っては皿に並べ。侑芽の目の前に置く。

 

「わぁ……えへへ。いただきます」

「はいよ、豚汁の方もすぐできるから食べながら待っててな」

「うん……わかった……うへへ、この匂い好きぃ……」

 

 おかか入りのおにぎりを手に取った侑芽が、口に入れる前に匂いで料理を楽しんでいた。

 炊けたご飯の香りと、それを包んでいる海苔の香り。そしてその奥に感じる醤油と鰹節の香り。

 作るところを見て、触れて熱さを感じ、匂いで楽しんで。

 

「あ……ん」

 

 口に含めば、味を味覚で感じて。巻いたばかりの海苔がパリっと音を上げる。

 五感全てで料理を食べてくれる彼女のその姿は、もはや俺の日常になっていて。

 けど、料理を作る側としては何度も見ても嬉しさが込み上げてくるものだった。

 

「美味しい……」

 

 後から聞こえてくるその言葉に、小さくガッツポーズをする。

 たかがおにぎり、されどおにぎり。

 美味しいと言ってもらえるだけで、死ぬほど嬉しい。

 

「ねえ……シンタロー……出てきて良かったね、二人であの村から……私、今とっても……幸せ」

「そうだな……」

 

 俺たち二人の関係は、あの頃とほとんど変わらない。

 あいつにはお役目があって、俺は頑張ったあいつを労って。

 場所が変わっただけ、ただそれだけなのに。今の俺たちは幸せだった。

 具材の入った鍋に味噌を溶かしながら俺は、無理矢理にでも連れ出してくれた「先生」や後の事をバックアップしてくれた学園の人たちに心から感謝する。

 

 この幸せがずっと続けばいいのにな。

 

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