アニポケ世界で全国図鑑完成の旅(全1025)(ただしパッチールのフォルム違いは除く) 作:ビビリダマ
「次の目的地は、クチバシティだ!」
「あっ」
なんやかんやで互いにそろそろハナダシティを出立、そんな時節のポケモンセンターにてサトシ君の意気揚々とした宣言を聞き、つい間抜けな声が出てしまった。
コハルさんがニマニマしながら、こちらに視線を送ってきている。
不味い、このままだと帰宅させられてしまう。
……彼らがクチバでマチスを倒すまで、別の街に行こう。
そう考えた矢先であった。
「クチバシティは、私達の故郷なんだ。是非みんなを案内したいから、クチバまで一緒に行かない?」
「おおっ、いいのか!コハル!」
「じゃあさ、じゃあさ、あのサンタマリア号だとか行ってみたい!」
「いいなぁ、旅は道連れ世は情け。暫くは宜しく頼むよ」
はい、先手を打たれました。反応速度で負けた……。
という訳でサトシご一行に一時加入し、ハナダシティを出立。
パーティが違えば、習慣も違う。歩く早さ、就寝時間や状況判断。
枚挙にいとまがないが、体を慣らしていこう。
ここで少し、これからの道行きに関して思案する。
というのも本来なら、まず5番どうろを通りヤマブキシティを経由し、6番どうろを通りクチバにいくルートなのだが、サトシ君達は原作ではだいぶ道に迷い、直接クチバシティに着いている。
私がいるので、ルートを正すことも出来るが、ここでこの道行きを正すと、控えめに言ってサトシ君が詰む。
理由は単純。
『フシギダネ』『ヒトカゲ』『ゼニガメ』
この3匹と出会うのは、この迷いの旅の道中なのだ。
無論、私は断じてこの3匹を横取りゲットする気は無い。そんな事したらこの先の展開にどんな影響が出るか分からないし、普通に未来視擬きの知識で他者の出会いの機会を奪うのは、私には出来ないからだ。
という訳で、過去最長の道中旅になるだろう。
さらば文明の光。
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という訳で、5番どうろ。その辺を歩いていたマダツボミにボールを投げた以外は特筆する事もなく進んでいると、何やら巨大なテント施設が見えてきた。
近隣トレーナーの噂によると『猛獣使い』のアキラというトレーナーが建てたジム擬きで、現在98連勝中らしい。
10連勝中且つバッチ二つのサトシ君は、踏み砕かんと意気揚々と突っ込んでいく。
「そう言えば、コハルって連勝記録とかあったりするのか?」
「うーん、勝った回数とか、特に数えていないかなぁ」
「じゃあ、逆説的に考えよう。負けた事はあるか?」
「……うーん、覚えている限りでは、その……」
どうやら、密かに、というか本人すら気付かずに無敗記録を打ち立てていそうなコハルさん。末恐ろしい才覚である。
「お前達が、次の獲物か?」
ふと、知らない声が一同に掛けられる。
「お前が『猛獣使い』のアキラか。俺と勝負しろ!」
「ふん、この辺のトレーナーから俺の噂を聞いたって訳か。まぁ、入れよ」
サトシ君が、そう突っかかり、こうしてまた一つのお話に巻き込まれていく。
という訳で、ペラペラと喋られる事情を聞いていく訳だが、簡単に言えばこのアキラという男、ゲームで言う所の『最初の草むらでレベル100』の簡易版をやろうとしている人物である。
この辺のトレーナー相手に100連勝出来るようになったら旅に出る、というわけだ。まぁ、それも立派な作戦の一つ、私もゲームなら最初の草むらで御三家最終進化くらいならやった事があるし。
というわけでそんなマンチキン戦法を取る人にサトシ君がレベル差で勝てる筈もなく粉砕されると(初期ピカチュウはこの手の一般回ゲストキャラ相手にはまともに戦わない)、次はこちらに話題が飛んできた。
「……うん?そっちの嬢ちゃん。ちょっと良いか?」
「な、なんでしょう?」
ふと、コハルにアキラから声が掛かる。
「いや、念の為だがよ。嬢ちゃん、『黄金』じゃないよな」
「『黄金』?」
「トレーナー達の間の噂だよ。物凄く強いトレーナーの。手も足も出ずに完封されたって話はよく聞く。ニビにいるっていう奴が一番多いが、この前はハナダでやられたって奴も聞いたな」
「ニビ、ハナダ、……それ、もしかして俺とピカチュウの事かも!」
「寝言は寝て言え、三下。噂になっているのは、色違いのカミッチュを使う女の子だ。別の通り名では『金りんご姫』『黄金姫』だとか言われているから、これは間違いないだろう」
「───」
コハルさんの顔が少し赤くなり、目が泳ぐ。変な渾名がつけられた事が相当恥ずかしいのだろう。
「えっ、じゃあ、マジであんたが……ふっ、これは運命だ!我が100連勝、『黄金』を打ち倒し、『猛獣使い』の名を世界に轟かせよう!……少し待ってくれ、最高のコンディションに俺のポケモンを調整してくる!」
そう言ってアキラは、テントの中にすっこんでいった。
「……まだ私、勝負を受けるとは……」
「まぁ、頑張れ。『黄金』」
「───ッ、もう、ゴウっ!」
強引にクチバに連れて行かれる事への、ささやかな仕返しである。
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すっかり拗ねてしまったサトシ君をよそに、アキラを待っていると、大玉に扮してロケット団が忍び込んできたので、これを撃滅。ニドラン♂がニドリーノに進化した。成る程、ロケット団は若干経験値効率が良いのかもな。今ならもう勝てるようになったので、育成のために積極的に襲撃してきて欲しいものだ。
という訳で、邪魔が入る事無くアキラ戦。
コハルさんは、最初、カミッチュ以外のポケモンを使おうとするも、アキラ側から直々に指名されてしまい、押しに弱い彼女は、これを了承。……わざわざ死ににいくとは。
「いけっ、サンド!」
「お願い、カミッチュ!」
まぁ、その後のバトルは、いうに及ばない。
相性不利な上、同じ場所に留まって似たようなポケモン相手に格下狩りをしていた彼は、その才覚を身を持って知る事になる。
「カミッチュ『まもる』、……カウンターで『みずあめボム』を穴に流し込んで」
トドメは『あなをほる』のタイミングを読み、発動させた『まもる』でサンドを地中に押し留め、草技の『みずあめボム』を至近距離で流し込まれ、穴の崩落と共にサンドは地中で果てた。
「そ、そんな、立て、立ってくれサンド!あと、一歩、後一勝で100連勝なんだ!俺たち、あの日誓っただろ!」
心を折る、とはまさにこの事。こういった願掛けは、往々にして達成する寸前で全ての希望が断たれるもの。死闘や激戦の末の敗北ならともかく、絶望的な差を持って叩き潰されるというのは、想像を絶する苦痛であろう。
「何度見ても、これだけは慣れないわね」
「ああ、カスミもジムリーダーだから経験があったか。……サトシ、これは職業病という奴でな。ポケモンリーグ地区予選エントリー締切が近いときに、ジムリーダーは皆、トレーナーの夢が崩れる瞬間を見届けなければならないんだ。8つ目のバッチはそう簡単には渡せない」
コハルさんは、ただ観ていた。人の夢が終わるというのは、どういう事なのかを、その目と心に焼き付けていた。
「……いこう、コハル。君は、ただ無理やり挑まれたポケモン勝負に勝っただけ、それだけだ」
「……ゴウ、貴方の夢は、絶対こうは、させない。させたくない……」
コハルさんは、ポツポツとそう言葉を漏らしていつもより半歩ほど私の近くを歩いた。
「少し、待っていてくれないか、みんな。俺、ちょっとアキラと話してくる!」
サトシ君は、何が連勝記録だ、何が夢の終わりだ!そう言わんばかりに、アキラと漢の話し合いに。
流石に、主人公。ここはそれに信頼を持って任せることにし、私はコハルのフォローに徹するとしよう。
「結果的に、こんなことに巻き込んで、ここまでコハルを追い詰める原因を作った俺が言えることじゃないし、気に障ったなら、ぶん殴ってくれて構わないと、前置きした上でいうけどな、コハルは少し気を張りすぎだ」
「……ほんとに、ゴウが言えたことじゃないね。私は、ゴウが何かに駆り立てられてるように見えて、知らない内に2度と戻って来なくなりそうだと思ったから、君を追いかけたんだよ。今にも、どこかに消えてしまいそうで……」
確かに、そうだ。私は焦っていた。
サトシ君の旅の道行きは一度きり。これを逃すと、2度と出会えない、機会がないポケモンが数多くいる。
それは事実だ。誤魔化しようが無く、正しく私に圧をかける事実だ。
しかし、物事には機というものがあり、ずっと張り詰めていてもいざというときに突っつき一つで、全てが崩れ去るのもまた事実。
アキラの100連勝への挑戦がそうだったように。
だから、適度な無駄を愛せないと、人は崩れ落ちる。
「ごめん、本当にごめんな、コハル」
「じゃあ、一緒にお家に帰ってくれるの?」
コハルさんが、そう私に手を差し出す。
彼女は、誠意も謝罪も求めていないようだ。
「それは───」
私は、言葉に詰まる。この質問の解答のみは、揺らぎようが無いからだ。自分のことながら私はすでに引き返せない、引き返す先が無い。
「……やっぱりそうだよね、それくらいじゃ、夢からは覚められない」
コハルは、とても悲しそうに、私の手を包み込んで私の体を支える。
「だから、私は───」
「まぁまぁ、二人ともそれくらいにして、ほら、シチューが出来たぞ。疲れたときは暖かいものを食べるのが一番だ。出来立てが一番美味いんだぞ」
「そうよ、変なこと考えたときは美味しいもの食べて、甘いスイーツ食べて綺麗さっぱり忘れるの。二人とも真面目に向き合いすぎよ。テストじゃないんだから、わかんない問題は解答用紙破いて、それでおしまい」
「……そうですね、すいません、タケシさん、カスミさん」
「その、気を使わせちゃって、っ、熱ッ!」
ひょいっと、コハルさんの口にシチューが突っ込まれる。
「はい、食べる食べる!だいたい、何よ、あのアキラとかいう男。自分で決めたルールで、自分でカッコつけたくて欲をかいて、なのに一丁前に女の子の前で崩れ落ちて。そもそも、サトシとバトルした時にニビとハナダのジムを馬鹿にしていた時点で───」
こうして、夜は更けていく。私もコハルさんも、気を抜くのが下手くそ過ぎたと思い知らされる、そんな夜だった。
翌日、サトシと一晩語らったであろうアキラはケロッとしていた。
ほんと、こっちの気も知らないで。とはカスミさんの言である。